物置小屋

黒蝶

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物語の欠片

『いつか』(短篇)

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勢いよく玄関を開けて、満面の笑みで廊下を走り抜けてきた。
「ただいま!あのねあのね、今日いっぱいどんぐり拾ったの!」
部屋にいる私に声をかけてきたその子はとんでもなくぼろぼろで、料理をしていた手を止める。
『おかえりなさい。……って、泥だらけではないですか!先にお風呂にしましょう』
「はーい……」
ふさふさの尻尾を揺らしながら、小さなその子を抱きかかえる。
「ユリ、今日はどこへ行っていたんですか?」
「公園。おっきなはっぱもあったよ」
「そうでしたか。後で私にも見せてくれますか?」
「もちろん!」
ユリの両親は忙しくしており、なかなか帰ってこられない。
その間の世話を任されているのが私だ。
だが、幼いユリには私という存在について詳しく説明できていない。
「おきつねさまも一緒に遊べたらいいのに……」
「私は外の人たちとはお話できませんから。それでも、ユリが楽しい話を聞かせてくれるから楽しいです」
神社憑きの狐である私は、滅多なことでは外に出ない。
正確に言えば、神社からあまり離れることができないのだ。
「いつか一緒にブランコ乗ろうね」
「はい」
それが叶う日はおそらくこない。
それでも、寂しがり屋な彼女の話を聞けるだけで充分だ。
「今日のご飯はハンバーグです」
「ほんとう?やった!」
無邪気にはしゃぐその子はとても愛らしく、私が護りたいものだ。
いつか私が人間ではないと知っても、この子は受け入れてくれるだろうか。
お風呂をすませた後、拾ってきたものを見せてくれた。
どんぐりに彼女の顔より大きい葉、赤黄の紅葉。
「おきつねさま、楽しい?」
「はい。ユリが素敵なものを見せてくれたおかげです」
「そっか。……ねえ、またおはなししてほしいな」
「分かりました。今日は何にしましょうか」
時間になったら、絵本の読み聞かせや私が知っている御伽話をする。
寂しいと泣いていたいつかの彼女を思い出しながら、私のしっぽや耳に優しく触れる手を握って目を閉じるのだ。
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お狐さんと過ごす幼子の話にしてみました。
短めですが、楽しんでいただけましたら幸いです。
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