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物語の欠片
バニラと守護とストロベリー(バニスト)※こちらは百合表現を含む作品となっております
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雨が降るなか、少女がひとり傘もささずに膝から崩れ落ちた。
そんな彼女に手を差し伸べる少女は今にも泣き出しそうな顔をしている。
「奏」
「……清香?」
「早く行こう。こっち」
「ああ、うん」
「ごめんね。いつも護ってもらってばかりで…」
「僕は平気だよ。清香が無事ならそれでいい」
奏がぼろぼろになったのには理由がある。
──それは、清香の相談からはじまった。
「そんなに周りを気にするなんて、何かあった?」
「実は、誰かにつけられているみたいなんだ。はっきりとどうとは言えないんだけど、ずっと眠れなくて…」
清香の目の下にはクマができていて、ただごとではないのはすぐ分かった。
「この場所は知られてない?」
「うん。いつも学校帰りとバイト先で視線を感じるだけだから、多分」
「うーん…もしよかったら、ちょっと離れた場所から様子を見てみようか?」
「でも、もし本当に不審者だったら……」
「大丈夫だよ。僕、強いから」
奏の笑顔を見て、清香はようやく落ち着きを取り戻す。
あまり気乗りはしなかったが、少しでも憂いをはらうため奏は清香から少し距離をとる生活をはじめた。
まだ3日ほどしか経っていないというのに、相手はあっさり姿を見せた。
「あなた方は…」
「藤臣達久様がお呼びです」
清香は男の言葉に一瞬焦りを見せたが、そのまま通り過ぎようとした。
だが、男はしつこく引き止める。
「そんな人知りません」
「達久様はあなたの、」
「その子に何か用ですか?」
男の手を強く握り、奏は口元のみ笑顔を浮かべる。
普段より低い声で話す彼女の怒りがどれほどのものか、清香はよく知っていた。
「誰だ貴様」
「僕?僕は…その子の恋人ですが?」
「なっ……」
フードを目深にかぶった奏の表情は誰にも確認できない。
「彼女は時任さんです。藤臣さんって誰ですか?」
「旦那様がお嬢様を見間違えるはずが、」
「……逃げて」
男が慌てているすきに清香を先に行かせ、相手に手刀をおろした。
「ぐっ!」
そのまま倒れた男をどうするか考えていると、別の場所からうじゃうじゃと黒スーツの男たちがわいて出てくる。
「どこの坊やか知らないが、引き下がった方が身のためだぞ」
「……好きな人ひとり護れないほど弱くないんだよ」
そこから奏と男たちの乱闘がはじまった。
「ごめんなさい。私のせいで……」
顔に殴られた痕ができているうえ、所々に擦り傷や切り傷がある。
清香は絶望した表情で奏を見つめた。
「それは違うよ。僕がやりたくてやったことだし、好きな子ひとり護れないくらい弱くない。…この人たちはあの男の手下?」
「多分そう。どうして今更、あの男が……」
不安げに瞳を揺らす清香の手をそっと握り、優しく微笑みかけた。
「大丈夫だよ。僕が絶対に護るから」
「奏……」
「ただ、一応連絡はしておいた方がよさそうだね」
ふらつく奏を屋根がある場所まで移動させ、清香は離れて暮らす母親にメッセージを送った。
《拝啓、お母さん
いかがお過ごしでしょうか?
あの男が仕掛けてきました。お母さんも気をつけてください。
今の家までは知られていませんが、お母さんが暮らしている別宅についても調べているはずです》
時任清香には奏しか知らない秘密がある。
ひとつは、お嬢様をやめたいこと。
ひとつは、奏と両想いの恋人同士であること。
そしてもうひとつは、自身が藤臣グループCEOである藤臣達久と名家出身の母親の間にできた子どもであり、暴力をふるって自分たちを縛りつけてきたその男から逃れるため必死で足掻いていること。
「お母さんから返事はきた?」
「すぐに身を隠すって。…近々パーティーがあるから、それに出席させることが目的だろうって」
「離婚したのに追いかけてくるなんて、本当にしつこいね」
「世間体を気にする男だから、離婚したことを言ってないんだよ。ニュースにもなってないでしょ?…とにかく今は病院に行かないと」
「…ごめん。結局迷惑をかけちゃった」
「謝らないで。…私を護ってくれてありがとう」
不安がる清香に奏はただ笑ってみせた。
これ以上悪いことがおこらないよう願いながら、小さな病院の方へ歩きだす。
土砂降りの雨がふたりを襲い続けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
バニストのふたりで話を書いてみました。
初期設定とは少し違った雰囲気になってしまったかもしれませんが、清香はいい子のお嬢様もしがらみからも解放を願っています。
唯一信頼できる身内は母親のみですが、母親も執拗な追いこみで精神的に参っています。
母親は清香の幸せを願い、先に彼女から逃しました。
そんな彼女に手を差し伸べる少女は今にも泣き出しそうな顔をしている。
「奏」
「……清香?」
「早く行こう。こっち」
「ああ、うん」
「ごめんね。いつも護ってもらってばかりで…」
「僕は平気だよ。清香が無事ならそれでいい」
奏がぼろぼろになったのには理由がある。
──それは、清香の相談からはじまった。
「そんなに周りを気にするなんて、何かあった?」
「実は、誰かにつけられているみたいなんだ。はっきりとどうとは言えないんだけど、ずっと眠れなくて…」
清香の目の下にはクマができていて、ただごとではないのはすぐ分かった。
「この場所は知られてない?」
「うん。いつも学校帰りとバイト先で視線を感じるだけだから、多分」
「うーん…もしよかったら、ちょっと離れた場所から様子を見てみようか?」
「でも、もし本当に不審者だったら……」
「大丈夫だよ。僕、強いから」
奏の笑顔を見て、清香はようやく落ち着きを取り戻す。
あまり気乗りはしなかったが、少しでも憂いをはらうため奏は清香から少し距離をとる生活をはじめた。
まだ3日ほどしか経っていないというのに、相手はあっさり姿を見せた。
「あなた方は…」
「藤臣達久様がお呼びです」
清香は男の言葉に一瞬焦りを見せたが、そのまま通り過ぎようとした。
だが、男はしつこく引き止める。
「そんな人知りません」
「達久様はあなたの、」
「その子に何か用ですか?」
男の手を強く握り、奏は口元のみ笑顔を浮かべる。
普段より低い声で話す彼女の怒りがどれほどのものか、清香はよく知っていた。
「誰だ貴様」
「僕?僕は…その子の恋人ですが?」
「なっ……」
フードを目深にかぶった奏の表情は誰にも確認できない。
「彼女は時任さんです。藤臣さんって誰ですか?」
「旦那様がお嬢様を見間違えるはずが、」
「……逃げて」
男が慌てているすきに清香を先に行かせ、相手に手刀をおろした。
「ぐっ!」
そのまま倒れた男をどうするか考えていると、別の場所からうじゃうじゃと黒スーツの男たちがわいて出てくる。
「どこの坊やか知らないが、引き下がった方が身のためだぞ」
「……好きな人ひとり護れないほど弱くないんだよ」
そこから奏と男たちの乱闘がはじまった。
「ごめんなさい。私のせいで……」
顔に殴られた痕ができているうえ、所々に擦り傷や切り傷がある。
清香は絶望した表情で奏を見つめた。
「それは違うよ。僕がやりたくてやったことだし、好きな子ひとり護れないくらい弱くない。…この人たちはあの男の手下?」
「多分そう。どうして今更、あの男が……」
不安げに瞳を揺らす清香の手をそっと握り、優しく微笑みかけた。
「大丈夫だよ。僕が絶対に護るから」
「奏……」
「ただ、一応連絡はしておいた方がよさそうだね」
ふらつく奏を屋根がある場所まで移動させ、清香は離れて暮らす母親にメッセージを送った。
《拝啓、お母さん
いかがお過ごしでしょうか?
あの男が仕掛けてきました。お母さんも気をつけてください。
今の家までは知られていませんが、お母さんが暮らしている別宅についても調べているはずです》
時任清香には奏しか知らない秘密がある。
ひとつは、お嬢様をやめたいこと。
ひとつは、奏と両想いの恋人同士であること。
そしてもうひとつは、自身が藤臣グループCEOである藤臣達久と名家出身の母親の間にできた子どもであり、暴力をふるって自分たちを縛りつけてきたその男から逃れるため必死で足掻いていること。
「お母さんから返事はきた?」
「すぐに身を隠すって。…近々パーティーがあるから、それに出席させることが目的だろうって」
「離婚したのに追いかけてくるなんて、本当にしつこいね」
「世間体を気にする男だから、離婚したことを言ってないんだよ。ニュースにもなってないでしょ?…とにかく今は病院に行かないと」
「…ごめん。結局迷惑をかけちゃった」
「謝らないで。…私を護ってくれてありがとう」
不安がる清香に奏はただ笑ってみせた。
これ以上悪いことがおこらないよう願いながら、小さな病院の方へ歩きだす。
土砂降りの雨がふたりを襲い続けた。
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バニストのふたりで話を書いてみました。
初期設定とは少し違った雰囲気になってしまったかもしれませんが、清香はいい子のお嬢様もしがらみからも解放を願っています。
唯一信頼できる身内は母親のみですが、母親も執拗な追いこみで精神的に参っています。
母親は清香の幸せを願い、先に彼女から逃しました。
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