物置小屋

黒蝶

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物語の欠片

心の余命は幾許か。(少女の嘘)

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「あの、先輩。放課後、少しいいですか?」
「構わないけど……」
「それじゃあ、中庭で待ってます」
少女は小さく息を吐き、放課後になるのを待った。
約束通り中庭に行ったところで、少年から予想外の言葉をかけられる。
「ずっと前から、先輩のことが好きなんです。俺と付き合ってください」
「……ごめんなさい。私は誰とも付き合わないって決めているの。これからも先輩後輩としてなら構わないけれど、あなたが辛くなるならもう関わらないで」
「分かりました」
傷つけてしまったかもしれない…そんな少女の後悔はすぐに消えた。
「今はそれでいいです。でも、まだ諦めませんから!」
「ちょっと、」
「じゃあ、また天文同好会で!」
ふたりしかいない、天文同好会。
少年は諦めきれず、少女に宣言してその場を立ち去る。
残された少女はひとり大きく息を吐いた。
「──のに」
その呟きは風にかき消され、誰の耳にも届かなかった。

「先輩、あっちの星って、」
「あれはこの時期しか観られない。北極星から少し離れた場所にあるのが…」
普段と変わらない部活動。
特に気まずいこともなく天体観測は終了した。
「お疲れ様でした」
「片づけは私がやっておくから、早めに帰った方がいい」
「ありがとうございます。じゃあ、次の部活動では俺がやりますね」
「……そう」
少年を見送った後、少女は小さく息を吐く。
あまり力が入らない右手を見つめ、そのまま握りしめた。


「おはようございます。その怪我、どうしたんですか?」
「転んだだけ」
運悪く顔を打ちつけてしまった少女は、頬にガーゼをあてて登校した。
「荷物持ちましょうか?」
「大丈夫。そんなことをしてもらうわけにはいかないし、自分でできるから」
「そうですか…。何かあったら言ってくださいね」
少年の言葉に少女は頷く。
その日の放課後、活動日でもないのに少女は天文部の部室にいた。
特にやることがあったわけではないのだが、彼女にはどうしてもその場所にいたい理由がある。
「…やっぱり遊びに来たの?」
にゃあと鳴くその黒猫はどこからともなくやってきて、いつの間にかいなくなっている。
腕時計を確認して、少女は立ち上がった。
「そろそろ閉めないといけないから行こう」
ふたりはふらふらと書店へ向かう。
「すぐ終わらせるから」
黒猫は何かを察知しているのか、いつも少女が出てくるまで待っている。
ほどなくして少女が出てきた。
「おまたせ。今日はあなたにいいものをあげる。この書店、色々な雑貨のフェアをしているから…似合うといいのだけれど」
猫の首には小さめの鈴がついた首輪がつけられる。
その首輪には、『散歩猫です』と小さく書かれていた。
「…飼い主さんがいるなら外してもらえるし、いなかったらあなたを見つけてくれる人が現れる」
少女は本とちょっとした雑貨が入ったが入った袋を鞄に入れ、そのまま商店街を歩いた。
ひとり分の食事の材料に、立ち歩きで食べられるできたてコロッケ…これが少女の定番だ。
「それじゃあ、また」
黒猫はいつも同じ道でいなくなるため、その先に住居があるのだろうと少女は想像している。
部屋に帰るとそこは彼女だけの空間だ。
「……あの子みたいでつい買っちゃった」
彼女の生活費は、離れて暮らす父親から送られてくる資金のみ。
新しい家庭があるためもう会えないと言われて以降、唯一手紙での交流が続いている。
「今からそっち行くね!うん、うん!それじゃあ、また後で…」
部屋は区切られているとはいえ、同じ空間にいるはずのその人と最後に話したのはいつだったか。
「…ちっ、帰ってんのかよ」
少女は自分を生んだだけの相手に疎まれながら生活している。
バイトも習い事も、友人さえも奪われた。
「xxさんのお母さんって、あの有名な人でしょ?この前また別の男の人と歩いてたって…」
「あの子はやめておきなよ。私、xxさんに声をかけただけで怒鳴られたことあるから」
「君のお母さんが来たよ。xxさん、申し訳ないけど来月からやめてもらいたいんだ。家のことをして忙しいんだろう?」
「月謝が払えない?…そう、残念ね。だけど、xxさんがやりたいことなら諦めないでね」
…そんな少女に恋人なんてできたらどうなるだろう。
「ごめんなさい」
部活動で遅くなると伝えておいたら家から閉め出されて入れなかった、なんて言えない。
殴られた傷が今更のように疼きだし、頬を押さえながら一方の手で黒猫のぬいぐるみを抱きしめた。
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pixivの執筆応援プロジェクト用に書いてみました。
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