物置小屋

１人向け・イベント系

あの日の夜桜に(花見)

こんばんは。突然で申し訳ないけど、君の命はあと1時間で尽きます。もしやり残したことがあるなら…ああ。
君も僕を怖がらないのか。不思議な人間が増えたな…。
やり残したことがない？それはまた珍しいタイプだね。
…その持ってるバスケットには何が入ってるの？
お弁当…どこかへ出かけるつもりだったんじゃない？
花見？たしか、桜を見て楽しむんだっけ。
やったことはないけど、人間に関する本で読んだことならあるよ。
僕も一緒に行っていいの？…分かった、やれることはやる。


ここは静かだね。町の明るさが遠くに見える。
…それと、花が綺麗だ。ああ、この花を桜っていうんだね。
言ったでしょ、本で読んだだけだって。それで、あとは何をすればいいの？
お弁当…食べられるけど、食べちゃっていいの？
僕以外に食べて欲しい人がいたんじゃ…そう。なら深くは聞かないでおく。
いただきます。…うん、美味しい。
本当だよ。嘘は嫌いなんだ。
質問？なんでもどうぞ。…地獄、か。
君が地獄行きになる余程の理由がない限りあの門は開かない。
見たところ、そんな要素は全然ないから大丈夫だよ。
悪行を犯して反省していない人間以外は、大抵安心できる場所へ行けるようになっているらしい。
君は僕を見ても怖がらなかったし、お弁当を食べさせてくれた。
一緒に花見ができて楽しかったよ。…そっち側に歩いて。その先へ一緒に行こう。
途中までしか行けないけど、きっと桜以外の花を楽しむことができる。
…もう二度と、君が傷つかないことを願うよ。

何を渡されたのかと思ったら…まったく。
桜の花びらをラミネートした栞、か。
…この季節が来たら、今夜のことを思い出すと思う。
願わくば、彼女に幸福の花束を。
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優しい死神の話にしてみました。