物置小屋

黒蝶

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物語の欠片

バニラと猫とストロベリー(バニスト)※百合作品です

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「朝倉先輩、これ受け取ってください!」
「ありがとう。申し訳ないけど、気持ちだけ受け取っておくよ」
「生徒会長!よかったら俺のチョコレートを…」
「申し訳ありませんが、それを受け取ることはできません。…あなたにとって本当に大切な方に渡してください」
ふたり揃って男女問わず囲まれる。
特に清香へのチョコレート攻撃が止まらない。
「おはよう清香」
「おはよう。…ごめんなさい、また後で」
「うん。また」
追いかけ回されてうんざりしている清香を気の毒に思いながら、奏は自分の持ち場へ向かった。

その日の放課後。
ふたりきりでゆっくり過ごそうとしていたが、残念ながらそれは叶わなかった。
「ごめん」
「ううん。実は私もリモート授業することになったんだ」
「この埋め合わせは必ずする。ううん、させて」
「お互い様だから気にしないで。お仕事がんばってね」
「ありがとう。清香もね」
清香はリモートで家庭教師の、奏は深夜営業の書店のシフトに入らなくてはならなくなってしまった。
やはりバレンタインだからか、なかなか人が集まらなかったらしい。
清香の疲れた様子を心配に思いながら、奏は急いで作業をすませる。
帰りに立ち寄ったコンビニで買ったスイーツセット片手に部屋へ帰ると、清香がうつらうつらしていた。
「清香、ここで寝たら風邪引いちゃうよ」
「……奏」
「ただいま。猫のクッキーと猫ラテっていうのを買ってみたんだけど、食べる?」
「可愛い…食べる」
もぞもぞ動く清香にほっこりしながら、奏は祝日に向けて準備をすることを決めた。


──そして迎えた祝日。
「に、にゃあ…」
「……!」
先制攻撃を受けたのは奏の方だった。
早朝にシフトを入れていた彼女が仕事を済ませ部屋に戻ると、もこもこの猫耳パーカーを着た清香が朝食を作っていたのだ。
お嬢様モードからは想像できない、にゃあという声を出して。
「……」
「ごめんなさい。嫌だった?」
「ううん。びっくりしたけど、嫌だったわけじゃなくて、その…どうしてこんなに僕の好みど真ん中なんだろうって思ったんだ。先に手を洗ってくるね」
清香は清香で忙しそうにしている奏を気遣い、自室の隣である奏の部屋に合鍵を使って入った。
朝食を作って戻るつもりが、奏が想定より早く帰ってきてしまい今に至る。
「今日は猫づくしにしようと思ってたのに」
「猫づくし?」
奏は猫のアイマスクが入った袋を清香に渡し、自分も同じ袋を見せる。
それとは別に用意しておいたものを手渡した。
「あとはこれを渡そうと思ってたんだ」
「猫のシュシュ?可愛い…。ねえ、もしかして手作り?」
「うん。三毛猫のを作って渡そうと思ってたんだけど、難しくて真っ白のにしたんだ。僕のは黒いやつにしたよ」
「すごい。見ているだけで癒やされる…」
清香の表情から疲労が消えていて、奏は少し安堵した。
「勝手にキッチン使わせてもらってごめん。ご飯できたけど食べる?」
「食べる。本当は僕が差し入れたかったんだけど…作ってくれてありがとう」
猫の形に焼かれたワッフルを一口かじり、奏はにこりと微笑む。
「美味しい。だけど…」
「だけど?」
「さっきの、もう一回やって」
「え……」
顔を真っ赤にする清香に奏はキラースマイルをぶつけた。
「にゃあって言ってたの、すごく可愛かったからもう一回見たいな…。駄目?」
清香は顔を真っ赤にして、フードをかぶって両手で猫ポーズをする。
「……にゃあ」
「ありがとう。疲れが吹き飛んだし、なんだかすごくいい1日になる気がする。今日は1日何をして過ごそうか」
「奏がやりたいことをやろう」
「ふたりでのんびり考えようか」
「うん」
ふたりでという言葉に清香の心臓がはねる。
ワッフルの味が分からなくなるくらい甘いひとときを過ごした。
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バレンタインに間に合わず、猫の日にも微妙に間に合っていないバニストです。申し訳ありません…。
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