1,784 / 1,797
物語の欠片
バニラと神社とストロベリー(バニスト)※百合表現があります。
しおりを挟む
『先生、ありがとうございました』
「お疲れ様でした。次はこの日になるけど大丈夫かな?」
『はい!』
にこにこしている間に画面が真っ暗になる。
「努力家だね」
「うん。あの子は真面目に話を聞いてくれるからやりやすい」
清香は生活のための仕事として、子どもと関われるよう家庭教師を選んだ。
高校生の彼女が主に教えているのは小中学生たちだが、時折通信制高校に通う生徒たちの勉強を見ることもある。
「手を焼いてる生徒さんもいるの?」
「細かいことは言えないけど、みんないい人たちだよ。こうやってリモート授業でも質問したり、宿題もちゃんと提出してくれるし…。
強いて言うなら、どうコミュニケーションをとるのがいいか分からない生徒さんならいる、かな」
部屋に入られたくないという生徒がいるとの声を受け、登録サイト経由でリモート授業対応をはじめたのはつい最近のことだ。
奏は時折清香の授業を聞きながら食事の用意をしているが、プライバシーの問題があるためできるだけ部屋に入らないようにしている。
それでも、清香が戸惑っている様子を察知する能力は相変わらずだ。
「何かあったんじゃない?」
「それは、まあ…。不登校の生徒さんが何人かいるんだけど、会話が続かないんだ。
何を話したらいいか分からなくて、相手を傷つけないか心配になる」
清香が真剣に悩む様子を見て、奏はふっと微笑み手を差し出した。
「ご飯を食べ終わったらちょっとつきあってくれない?行きたい場所があるんだ」
「なんで神社?」
「初詣、行けてなかったでしょ?ついでに願掛けしたら何かしらいいことがおきるかもしれないよ」
「あ……」
清香は理解した。奏は昔のことを思い出して話しているのだと。
『ここのお守り、効果抜群なんだって』
『……そう、なんだ。僕がほしいもの、あるかな…』
『ならこれあげる。この神社に祀られているお狐様が危険なことから護ってくれるんだって』
『可愛い…。僕も買おうかな。でも、どうして今日ここに連れ出してくれたの?』
『それはね──』
「なんでもないことで笑顔になれたら、それが1番素敵なことだって言ってたでしょ?
だったら、清香が食べた美味しいものの話とか、どんな事があったかを話してみるのはどうかな?…あの頃みたいに」
奏は中学時代、一時期不登校になっていた。
そんな彼女を暗闇から引きあげたのが清香だ。
学校帰り毎日家に立ち寄り、冬休みの夜神社へ行こうと外の世界へ連れ出した。
「あの頃か…。そうだね、やってみる」
「今年もお守り買って帰ろう」
「うん。…ねえ、奏」
「どうかし──」
ふたりの唇が一瞬ふれあい、頬を赤らめた清香が小さく呟く。
「ありがとう。これからもずっと一緒にいようね」
「勿論!でも…清香、今のはちょっと狡いよ」
「そ、そうだった?」
「でも、なんだか心まで温まった気がする」
毎年お守りを供養してもらい、同じ種類のものをいただいて帰る。
ふたりの息はぴったりで、互いに微笑みながら帰路を急ぐ。
──後日、清香から少し話せたと喜びの報告が入ったのはまた別の話。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
バニストで綴ってみました。
「お疲れ様でした。次はこの日になるけど大丈夫かな?」
『はい!』
にこにこしている間に画面が真っ暗になる。
「努力家だね」
「うん。あの子は真面目に話を聞いてくれるからやりやすい」
清香は生活のための仕事として、子どもと関われるよう家庭教師を選んだ。
高校生の彼女が主に教えているのは小中学生たちだが、時折通信制高校に通う生徒たちの勉強を見ることもある。
「手を焼いてる生徒さんもいるの?」
「細かいことは言えないけど、みんないい人たちだよ。こうやってリモート授業でも質問したり、宿題もちゃんと提出してくれるし…。
強いて言うなら、どうコミュニケーションをとるのがいいか分からない生徒さんならいる、かな」
部屋に入られたくないという生徒がいるとの声を受け、登録サイト経由でリモート授業対応をはじめたのはつい最近のことだ。
奏は時折清香の授業を聞きながら食事の用意をしているが、プライバシーの問題があるためできるだけ部屋に入らないようにしている。
それでも、清香が戸惑っている様子を察知する能力は相変わらずだ。
「何かあったんじゃない?」
「それは、まあ…。不登校の生徒さんが何人かいるんだけど、会話が続かないんだ。
何を話したらいいか分からなくて、相手を傷つけないか心配になる」
清香が真剣に悩む様子を見て、奏はふっと微笑み手を差し出した。
「ご飯を食べ終わったらちょっとつきあってくれない?行きたい場所があるんだ」
「なんで神社?」
「初詣、行けてなかったでしょ?ついでに願掛けしたら何かしらいいことがおきるかもしれないよ」
「あ……」
清香は理解した。奏は昔のことを思い出して話しているのだと。
『ここのお守り、効果抜群なんだって』
『……そう、なんだ。僕がほしいもの、あるかな…』
『ならこれあげる。この神社に祀られているお狐様が危険なことから護ってくれるんだって』
『可愛い…。僕も買おうかな。でも、どうして今日ここに連れ出してくれたの?』
『それはね──』
「なんでもないことで笑顔になれたら、それが1番素敵なことだって言ってたでしょ?
だったら、清香が食べた美味しいものの話とか、どんな事があったかを話してみるのはどうかな?…あの頃みたいに」
奏は中学時代、一時期不登校になっていた。
そんな彼女を暗闇から引きあげたのが清香だ。
学校帰り毎日家に立ち寄り、冬休みの夜神社へ行こうと外の世界へ連れ出した。
「あの頃か…。そうだね、やってみる」
「今年もお守り買って帰ろう」
「うん。…ねえ、奏」
「どうかし──」
ふたりの唇が一瞬ふれあい、頬を赤らめた清香が小さく呟く。
「ありがとう。これからもずっと一緒にいようね」
「勿論!でも…清香、今のはちょっと狡いよ」
「そ、そうだった?」
「でも、なんだか心まで温まった気がする」
毎年お守りを供養してもらい、同じ種類のものをいただいて帰る。
ふたりの息はぴったりで、互いに微笑みながら帰路を急ぐ。
──後日、清香から少し話せたと喜びの報告が入ったのはまた別の話。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
バニストで綴ってみました。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
お尻たたき収容所レポート
鞭尻
大衆娯楽
最低でも月に一度はお尻を叩かれないといけない「お尻たたき収容所」。
「お尻たたきのある生活」を望んで収容生となった紗良は、収容生活をレポートする記者としてお尻たたき願望と不安に揺れ動く日々を送る。
ぎりぎりあるかもしれない(?)日常系スパンキング小説です。
ああ、本気さ!19歳も年が離れている会社の女子社員と浮気する旦那はいつまでもロマンチストで嫌になる…
白崎アイド
大衆娯楽
19歳も年の差のある会社の女子社員と浮気をしている旦那。
娘ほど離れているその浮気相手への本気度を聞いてみると、かなり本気だと言う。
なら、私は消えてさしあげましょう…
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる