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物語の欠片
バニラとクリスマスとストロベリー(バニスト)
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「おはよう」
「おはよう。奏、今少し構わないかしら?」
「僕は大丈夫だよ」
お嬢様モードの清香を前に、奏はいつもどおり接する。
誰もいない生徒会室に入ったところで、清香は小さく息を吐いた。
「ごめんなさい。こうでもしないと直接会えなかったから…」
「気にしないで。それより、疲れてない?」
「他の生徒会メンバーにも手伝ってもらっているから平気。それで、その…クリスマス、予定ある?」
「特にないよ。…一緒に出かけようか」
「うん」
清香の笑顔を見て、奏は今日まで忙しくて会えない寂しさを紛らわせてきた。
これからいつものように楽しく過ごせる。
ふたりでデートした後、少しだけ飾りつけた部屋で楽しい時間を過ごす。
……そのはずだった。
「清香、大丈夫?」
「…ごめんなさい。私のせいで間に合わなかったね」
清香の言葉に奏は首をふる。
「怪我したのは清香のせいじゃないでしょ?気にしなくていいんだよ」
毎年ふたりで見る大きなツリーの前で待ち合わせていたのだが、ガラの悪い連中に目をつけられた清香が逃げようとして怪我をしてしまったのだ。
「助けに入ってくれた奏にも怪我をさせて……本当にごめん」
「いいんだよ。僕の怪我より清香の怪我の方が心配だ」
助けに入った奏はわざと頬を殴られ出血した。
そして、周囲に人がいないのを確認してから相手を返り討ちにしたのだ。
「相手には通報しない代わりに大事にしないことを約束させたし、それでいいんだ。
清香が隣にいてくれるだけで充分幸せだし、ふたりで用意したものがまだあるから」
奏は昔から悪意を持ったものや清香を傷つけようとするものには容赦がない。
清香はその強さの理由をよく知っている。
「私も奏を護れるくらい強くなれたらいいのに」
「清香はそのままでいいんだよ。ただ笑って過ごせたら、それだけで心の平穏が保たれるから」
その言葉に安堵した清香は奏の手を握りなおす。
「そろそろ冷えてくるし帰ろう」
「そうだね。…こっちがいいかな」
奏はクラスメイトたちが歩いているのを見つけ、清香を人気がない抜け道へ誘導する。
彼女がどれだけ無理をしているか分かっているからこその行動だった。
会えなかった間の話をしながら少しずつ前へ進む。
「足、痛くない?」
「私は平気。心配してくれてありがとう」
「それならよかった。…あ、ついたよ」
ふたりが入った部屋には、豪華な食事が用意されている。
この日のためにふたりがそれぞれ準備しておいたものが並び、テーブルはほくほくしたものでいっぱいになった。
「このローストビーフ、奏が作ったの?」
「一応ね。清香はケーキを手作りしてきてくれたの?」
「飾りつけ、失敗しちゃったんだけどね」
お互いに顔を見合わせ、心からの笑顔で両手をあわせる。
「「いただきます」」
ふたりともそわそわしながら食事をすませ、片づけた後ラジオの音楽が静かに流れる。
先に口を開いたのは清香だった。
「…来年もこんなふうにふたりで過ごせるかな?」
「過ごせるよ。というか、僕もそうしたい」
そんな会話をして、プレゼントは開けないままふたりはソファーで眠ってしまった。
先に起きたのは奏だ。
首筋にある大きな傷痕を気にしながら清香を抱きかかえる。
「…ありがとう。今年もすごく楽しい1年を過ごせたよ」
ベッドに横たわらせた清香の耳元で想いを囁く。
残った片づけと出かける準備をすませ、再びソファーで横になった。
「それにしても、ふたりして同じことを考えていたなんて以心伝心だね」
「たしかに。僕たちってやっぱり相性がいいんだろうね」
翌朝、冷たい風が吹くなかふたりは買い物デートを楽しむ。
色違いのマフラーを身につけて、お互いのぬくもりを感じるように手を繋いだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
バニストシリーズのふたりのクリスマスの話にしてみました。
「おはよう。奏、今少し構わないかしら?」
「僕は大丈夫だよ」
お嬢様モードの清香を前に、奏はいつもどおり接する。
誰もいない生徒会室に入ったところで、清香は小さく息を吐いた。
「ごめんなさい。こうでもしないと直接会えなかったから…」
「気にしないで。それより、疲れてない?」
「他の生徒会メンバーにも手伝ってもらっているから平気。それで、その…クリスマス、予定ある?」
「特にないよ。…一緒に出かけようか」
「うん」
清香の笑顔を見て、奏は今日まで忙しくて会えない寂しさを紛らわせてきた。
これからいつものように楽しく過ごせる。
ふたりでデートした後、少しだけ飾りつけた部屋で楽しい時間を過ごす。
……そのはずだった。
「清香、大丈夫?」
「…ごめんなさい。私のせいで間に合わなかったね」
清香の言葉に奏は首をふる。
「怪我したのは清香のせいじゃないでしょ?気にしなくていいんだよ」
毎年ふたりで見る大きなツリーの前で待ち合わせていたのだが、ガラの悪い連中に目をつけられた清香が逃げようとして怪我をしてしまったのだ。
「助けに入ってくれた奏にも怪我をさせて……本当にごめん」
「いいんだよ。僕の怪我より清香の怪我の方が心配だ」
助けに入った奏はわざと頬を殴られ出血した。
そして、周囲に人がいないのを確認してから相手を返り討ちにしたのだ。
「相手には通報しない代わりに大事にしないことを約束させたし、それでいいんだ。
清香が隣にいてくれるだけで充分幸せだし、ふたりで用意したものがまだあるから」
奏は昔から悪意を持ったものや清香を傷つけようとするものには容赦がない。
清香はその強さの理由をよく知っている。
「私も奏を護れるくらい強くなれたらいいのに」
「清香はそのままでいいんだよ。ただ笑って過ごせたら、それだけで心の平穏が保たれるから」
その言葉に安堵した清香は奏の手を握りなおす。
「そろそろ冷えてくるし帰ろう」
「そうだね。…こっちがいいかな」
奏はクラスメイトたちが歩いているのを見つけ、清香を人気がない抜け道へ誘導する。
彼女がどれだけ無理をしているか分かっているからこその行動だった。
会えなかった間の話をしながら少しずつ前へ進む。
「足、痛くない?」
「私は平気。心配してくれてありがとう」
「それならよかった。…あ、ついたよ」
ふたりが入った部屋には、豪華な食事が用意されている。
この日のためにふたりがそれぞれ準備しておいたものが並び、テーブルはほくほくしたものでいっぱいになった。
「このローストビーフ、奏が作ったの?」
「一応ね。清香はケーキを手作りしてきてくれたの?」
「飾りつけ、失敗しちゃったんだけどね」
お互いに顔を見合わせ、心からの笑顔で両手をあわせる。
「「いただきます」」
ふたりともそわそわしながら食事をすませ、片づけた後ラジオの音楽が静かに流れる。
先に口を開いたのは清香だった。
「…来年もこんなふうにふたりで過ごせるかな?」
「過ごせるよ。というか、僕もそうしたい」
そんな会話をして、プレゼントは開けないままふたりはソファーで眠ってしまった。
先に起きたのは奏だ。
首筋にある大きな傷痕を気にしながら清香を抱きかかえる。
「…ありがとう。今年もすごく楽しい1年を過ごせたよ」
ベッドに横たわらせた清香の耳元で想いを囁く。
残った片づけと出かける準備をすませ、再びソファーで横になった。
「それにしても、ふたりして同じことを考えていたなんて以心伝心だね」
「たしかに。僕たちってやっぱり相性がいいんだろうね」
翌朝、冷たい風が吹くなかふたりは買い物デートを楽しむ。
色違いのマフラーを身につけて、お互いのぬくもりを感じるように手を繋いだ。
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バニストシリーズのふたりのクリスマスの話にしてみました。
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