1,778 / 1,797
物語の欠片
案内人(想いが散りばめられた手紙)
しおりを挟む
そのポストには、様々な人たちの想いが集まるという。
伝えられなかった言葉を届けるのが、夜空のポストの見守り人の仕事だ。
「……お願い、届いて」
今日もひとり、届けられなかった想いを投函する者が現れた。
「…さて、と」
おさげに眼鏡といった姿をした、どこにでもいそうな少女。
だが、彼女は今ここに仕事をしにきている。
「こんにちは。佐々木千尋さんでしょうか?」
「それは僕だけど…」
「突然こんなことをお願いするのも心苦しいのですが、あなたの1日を私にくれませんか?」
見知らぬ女から放たれた言葉に、千尋はその場で固まる。
「……何を言ってるんですか?」
「本当に突然で申し訳ないのですが、時間がないのです」
「なんかよく分からないけど、分かりました」
「ありがとうございます。それでは早速…手を繋いでいただけませんか?」
「え!?」
「お願いします。そうしてくれないと困るんです…」
少女は瞳をうるうるとさせ、千尋の方を見つめる。
千尋は初対面の彼女の手をしかたなく握った。
「どこへ行くの?」
「海です」
「海?…なら列車に乗らないと」
ふたりは特に言葉をかわすことなく海へ辿り着く。
「…ここで、砂のお城を作りたいんです」
「僕と?別にいいけど、何者なの?」
「それは後で話します」
「しかたないな…」
千尋は意味も分からず、その場で城を作りはじめた。
少女はにこにこしていたが、はっと顔をあげる。
「あれ、一緒に飲みませんか?」
少女が指をさした先にある売店には、ラムネの瓶が並べられている。
千尋が頷いたのを確認して、少女はふたり分の代金を支払う。
「う、ごほごほ!」
「ラムネ苦手なの?」
「こう、しゅわっとするやつはちょっと…」
「ならなんで買おうなんて言ったの?」
「そうしたかったと書いてあったので」
少年は首をかしげたが、特に深く考えず砂の城を完成させた。
日がもう傾いていて、1日の終わりが近づいている。
「…ねえ。そろそろ教えてもらえないかな?」
「『ずっとあなたのことが好きでした』」
「いきなりなに…?」
夕焼けの空、少女は言葉を続ける。
「『本当は手術の前に伝えたかったけど、もう体力がなかったんだよね。だから、どうしても会いに行けなかった』」
「…涼花?」
千尋は理解した。
今少女が発しているのは、手術することになった幼馴染の言葉ではないか…と。
どうにか会おうとしたが、弱っているときに感染症などがうつってはいけないからと家族でさえ会えなかった。
「『私はただ、あの日みたいに一緒に笑ってラムネが飲みたい』」
「涼花、なんで…」
「これからどうするかはあなた次第です。手術の前、彼女は病院を抜け出してポストまでやってきました。
もうそろそろ手術が終わったのではありませんか?」
「そういえば、今日だった……」
「彼女が目を覚ましたとき、1番はじめに会いたいのは誰でしょう?」
少女の言葉にはっとした千尋は一礼して走り出す。
「…成程、これが青春ですか」
今回の依頼者は、水原涼花。難病を抱えた少女だ。
「伝えるべき言葉は伝えましたよ」
誰に言うでもなく、その言葉は海だけが聞いている。
彼女の長い髪を潮風が揺らした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
告白代行というイメージが難しく、ごちゃごちゃしたものになってしまいました…。
この物語はpixivの告白代行コンテストに参加しています。
伝えられなかった言葉を届けるのが、夜空のポストの見守り人の仕事だ。
「……お願い、届いて」
今日もひとり、届けられなかった想いを投函する者が現れた。
「…さて、と」
おさげに眼鏡といった姿をした、どこにでもいそうな少女。
だが、彼女は今ここに仕事をしにきている。
「こんにちは。佐々木千尋さんでしょうか?」
「それは僕だけど…」
「突然こんなことをお願いするのも心苦しいのですが、あなたの1日を私にくれませんか?」
見知らぬ女から放たれた言葉に、千尋はその場で固まる。
「……何を言ってるんですか?」
「本当に突然で申し訳ないのですが、時間がないのです」
「なんかよく分からないけど、分かりました」
「ありがとうございます。それでは早速…手を繋いでいただけませんか?」
「え!?」
「お願いします。そうしてくれないと困るんです…」
少女は瞳をうるうるとさせ、千尋の方を見つめる。
千尋は初対面の彼女の手をしかたなく握った。
「どこへ行くの?」
「海です」
「海?…なら列車に乗らないと」
ふたりは特に言葉をかわすことなく海へ辿り着く。
「…ここで、砂のお城を作りたいんです」
「僕と?別にいいけど、何者なの?」
「それは後で話します」
「しかたないな…」
千尋は意味も分からず、その場で城を作りはじめた。
少女はにこにこしていたが、はっと顔をあげる。
「あれ、一緒に飲みませんか?」
少女が指をさした先にある売店には、ラムネの瓶が並べられている。
千尋が頷いたのを確認して、少女はふたり分の代金を支払う。
「う、ごほごほ!」
「ラムネ苦手なの?」
「こう、しゅわっとするやつはちょっと…」
「ならなんで買おうなんて言ったの?」
「そうしたかったと書いてあったので」
少年は首をかしげたが、特に深く考えず砂の城を完成させた。
日がもう傾いていて、1日の終わりが近づいている。
「…ねえ。そろそろ教えてもらえないかな?」
「『ずっとあなたのことが好きでした』」
「いきなりなに…?」
夕焼けの空、少女は言葉を続ける。
「『本当は手術の前に伝えたかったけど、もう体力がなかったんだよね。だから、どうしても会いに行けなかった』」
「…涼花?」
千尋は理解した。
今少女が発しているのは、手術することになった幼馴染の言葉ではないか…と。
どうにか会おうとしたが、弱っているときに感染症などがうつってはいけないからと家族でさえ会えなかった。
「『私はただ、あの日みたいに一緒に笑ってラムネが飲みたい』」
「涼花、なんで…」
「これからどうするかはあなた次第です。手術の前、彼女は病院を抜け出してポストまでやってきました。
もうそろそろ手術が終わったのではありませんか?」
「そういえば、今日だった……」
「彼女が目を覚ましたとき、1番はじめに会いたいのは誰でしょう?」
少女の言葉にはっとした千尋は一礼して走り出す。
「…成程、これが青春ですか」
今回の依頼者は、水原涼花。難病を抱えた少女だ。
「伝えるべき言葉は伝えましたよ」
誰に言うでもなく、その言葉は海だけが聞いている。
彼女の長い髪を潮風が揺らした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
告白代行というイメージが難しく、ごちゃごちゃしたものになってしまいました…。
この物語はpixivの告白代行コンテストに参加しています。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
ピアノ教室~先輩の家のお尻たたき~
鞭尻
大衆娯楽
「お尻をたたかれたい」と想い続けてきた理沙。
ある日、憧れの先輩の家が家でお尻をたたかれていること、さらに先輩の家で開かれているピアノ教室では「お尻たたきのお仕置き」があることを知る。
早速、ピアノ教室に通い始めた理沙は、先輩の母親から念願のお尻たたきを受けたり同じくお尻をたたかれている先輩とお尻たたきの話をしたりと「お尻たたきのある日常」を満喫するようになって……
俺達は愛し合ってるんだよ!再婚夫が娘とベッドで抱き合っていたので離婚してやると・・・
白崎アイド
大衆娯楽
20歳の娘を連れて、10歳年下の男性と再婚した。
その娘が、再婚相手とベッドの上で抱き合っている姿を目撃。
そこで、娘に再婚相手を託し、私は離婚してやることにした。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
お尻たたき収容所レポート
鞭尻
大衆娯楽
最低でも月に一度はお尻を叩かれないといけない「お尻たたき収容所」。
「お尻たたきのある生活」を望んで収容生となった紗良は、収容生活をレポートする記者としてお尻たたき願望と不安に揺れ動く日々を送る。
ぎりぎりあるかもしれない(?)日常系スパンキング小説です。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる