物置小屋

黒蝶

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物語の欠片

案内人(想いが散りばめられた手紙)

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そのポストには、様々な人たちの想いが集まるという。
伝えられなかった言葉を届けるのが、夜空のポストの見守り人の仕事だ。
「……お願い、届いて」
今日もひとり、届けられなかった想いを投函する者が現れた。


「…さて、と」
おさげに眼鏡といった姿をした、どこにでもいそうな少女。
だが、彼女は今ここに仕事をしにきている。
「こんにちは。佐々木千尋さんでしょうか?」
「それは僕だけど…」
「突然こんなことをお願いするのも心苦しいのですが、あなたの1日を私にくれませんか?」
見知らぬ女から放たれた言葉に、千尋はその場で固まる。
「……何を言ってるんですか?」
「本当に突然で申し訳ないのですが、時間がないのです」
「なんかよく分からないけど、分かりました」
「ありがとうございます。それでは早速…手を繋いでいただけませんか?」
「え!?」
「お願いします。そうしてくれないと困るんです…」
少女は瞳をうるうるとさせ、千尋の方を見つめる。
千尋は初対面の彼女の手をしかたなく握った。
「どこへ行くの?」
「海です」
「海?…なら列車に乗らないと」
ふたりは特に言葉をかわすことなく海へ辿り着く。
「…ここで、砂のお城を作りたいんです」
「僕と?別にいいけど、何者なの?」
「それは後で話します」
「しかたないな…」
千尋は意味も分からず、その場で城を作りはじめた。
少女はにこにこしていたが、はっと顔をあげる。
「あれ、一緒に飲みませんか?」
少女が指をさした先にある売店には、ラムネの瓶が並べられている。
千尋が頷いたのを確認して、少女はふたり分の代金を支払う。
「う、ごほごほ!」
「ラムネ苦手なの?」
「こう、しゅわっとするやつはちょっと…」
「ならなんで買おうなんて言ったの?」
「そうしたかったと書いてあったので」
少年は首をかしげたが、特に深く考えず砂の城を完成させた。
日がもう傾いていて、1日の終わりが近づいている。
「…ねえ。そろそろ教えてもらえないかな?」
「『ずっとあなたのことが好きでした』」
「いきなりなに…?」
夕焼けの空、少女は言葉を続ける。
「『本当は手術の前に伝えたかったけど、もう体力がなかったんだよね。だから、どうしても会いに行けなかった』」
「…涼花?」
千尋は理解した。
今少女が発しているのは、手術することになった幼馴染の言葉ではないか…と。
どうにか会おうとしたが、弱っているときに感染症などがうつってはいけないからと家族でさえ会えなかった。
「『私はただ、あの日みたいに一緒に笑ってラムネが飲みたい』」
「涼花、なんで…」
「これからどうするかはあなた次第です。手術の前、彼女は病院を抜け出してポストまでやってきました。
もうそろそろ手術が終わったのではありませんか?」
「そういえば、今日だった……」
「彼女が目を覚ましたとき、1番はじめに会いたいのは誰でしょう?」
少女の言葉にはっとした千尋は一礼して走り出す。
「…成程、これが青春ですか」
今回の依頼者は、水原涼花。難病を抱えた少女だ。
「伝えるべき言葉は伝えましたよ」
誰に言うでもなく、その言葉は海だけが聞いている。
彼女の長い髪を潮風が揺らした。
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告白代行というイメージが難しく、ごちゃごちゃしたものになってしまいました…。
この物語はpixivの告白代行コンテストに参加しています。
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