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物語の欠片
バニラと満ち欠けとストロベリー(バニスト)※百合表現あり
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「清香、見て。はじまったよ」
「綺麗…」
ふたりは同じ月を見つめ、神秘的な現象に心打たれていた。
奏は清香の表情を見て安堵する。
──事のはじまりは、この日の放課後のこと。
「時任会長」
「あら、あなたは…」
「山田です。ずっとあなたのことが好きでした。俺の彼女になってください」
「ごめんなさい。そういったお誘いはお断りしているの」
「そう言わずに、1度だけデートをしていただけませんか?」
「……ごめんなさい。私なんかよりずっと相応しい相手がいるはずです。その方を見つけてください」
清香は後輩たちにモテている生徒から突然告白された。
「あなたにふさわしいのは俺だけなはずです」
「手を離してください」
「いいえ!みんな俺に振り向くんだから、あなただって…」
「やめてください」
清香の声に、どんどん温度がなくなっていく。
それにいち早く気づいた奏はふたりの間に割って入った。
「女の子の手をそんな強い力で掴むなんて、何を考えているの?」
「…おとこおんな先輩のせいで、時任会長に彼氏ができないんですよ」
男子生徒の言葉に、流石に見ていた生徒たちもドン引きしていた。
「今どき、恋人を作らない人だっている。同性カップルも珍しくない」
「はあ?揚げ足とって楽しいんですか?」
「彼女は嫌だって何度も言ってたでしょ?…僕も君がモテていようがいまいが微塵の興味もないけど、清香を傷つけるなら許さない」
男子生徒は自分の誘いを断られたという事実を受け入れられないのだろうと察した奏は、ここぞとばかりにとどめを刺す。
「僕はどう思われてもいい。だけど、周りの人を傷つけられるのを見ているだけなんてできない」
「…流石番犬ですね」
男子生徒はそう吐き捨てて去っていく。
そんなふたりの様子に、清香はぎゅっとスカートを握りしめていた。
「ここじゃ目立つから、後で話そう」
「…ごめんなさい」
清香はいつもの生徒会長を演じ、奏は委員会の仕事に戻る。
そうして一旦解決した…ように見えた。
「ごめんなさい。まさか番犬だなんて言い出す生徒がいるなんて…」
静かに月を眺めていた清香は、ぼつりぽつりと話しはじめた。
「奏はこんなに魅力的で素敵な人なのに、私のせいで傷つけた」
「それは違うよ。言ったでしょ、僕はどう思われてもいいって。
それに…恋人の腕を痣ができるくらいの力で握られたのが許せなかっただけだから」
清香のカッターシャツをめくると、包帯が巻かれている。
「…いつから気づいてたの?」
「見た瞬間から」
「私も奏を護りたかったのに、結局護ってもらって…」
「僕のことだって、ちゃんと護ってくれたでしょ?」
月が少しずつ欠けていき、静かにふたりを照らす。
「あの生徒があることないこと言いふらそうとしたのを止めてくれたって、後輩たちから聞いた」
「言わないでってお願いしたのに…」
「僕だって君に護られてる。ありがとう」
ふたりの関係は誰にも知られていない。
恋人繋ぎして、夜一緒にお茶を飲んだり口づける関係なんて。
「清香は綺麗だから、言い寄ってくる男が沢山いるのも分かってる。でも、危ないと思ったら逃げて」
「ありがとう。本当の私を知っている大切な人は、奏だけ」
「僕も清香を愛してる」
月がすっかり隠れてしまったところで、ふたりはぴったりくっつく。
お互いのぬくもりを分け合うように。…心が壊れてしまわないように。
「やっぱりふたりで過ごせる時間が1番楽しい」
「僕もそう思ってる」
お互い顔を見て微笑みあっていると、月が再び顔を出す。
ふたりは満ち欠けが激しい月を見つめながら、秋の夜長を楽しんだ。
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バニストで綴ってみました。
「綺麗…」
ふたりは同じ月を見つめ、神秘的な現象に心打たれていた。
奏は清香の表情を見て安堵する。
──事のはじまりは、この日の放課後のこと。
「時任会長」
「あら、あなたは…」
「山田です。ずっとあなたのことが好きでした。俺の彼女になってください」
「ごめんなさい。そういったお誘いはお断りしているの」
「そう言わずに、1度だけデートをしていただけませんか?」
「……ごめんなさい。私なんかよりずっと相応しい相手がいるはずです。その方を見つけてください」
清香は後輩たちにモテている生徒から突然告白された。
「あなたにふさわしいのは俺だけなはずです」
「手を離してください」
「いいえ!みんな俺に振り向くんだから、あなただって…」
「やめてください」
清香の声に、どんどん温度がなくなっていく。
それにいち早く気づいた奏はふたりの間に割って入った。
「女の子の手をそんな強い力で掴むなんて、何を考えているの?」
「…おとこおんな先輩のせいで、時任会長に彼氏ができないんですよ」
男子生徒の言葉に、流石に見ていた生徒たちもドン引きしていた。
「今どき、恋人を作らない人だっている。同性カップルも珍しくない」
「はあ?揚げ足とって楽しいんですか?」
「彼女は嫌だって何度も言ってたでしょ?…僕も君がモテていようがいまいが微塵の興味もないけど、清香を傷つけるなら許さない」
男子生徒は自分の誘いを断られたという事実を受け入れられないのだろうと察した奏は、ここぞとばかりにとどめを刺す。
「僕はどう思われてもいい。だけど、周りの人を傷つけられるのを見ているだけなんてできない」
「…流石番犬ですね」
男子生徒はそう吐き捨てて去っていく。
そんなふたりの様子に、清香はぎゅっとスカートを握りしめていた。
「ここじゃ目立つから、後で話そう」
「…ごめんなさい」
清香はいつもの生徒会長を演じ、奏は委員会の仕事に戻る。
そうして一旦解決した…ように見えた。
「ごめんなさい。まさか番犬だなんて言い出す生徒がいるなんて…」
静かに月を眺めていた清香は、ぼつりぽつりと話しはじめた。
「奏はこんなに魅力的で素敵な人なのに、私のせいで傷つけた」
「それは違うよ。言ったでしょ、僕はどう思われてもいいって。
それに…恋人の腕を痣ができるくらいの力で握られたのが許せなかっただけだから」
清香のカッターシャツをめくると、包帯が巻かれている。
「…いつから気づいてたの?」
「見た瞬間から」
「私も奏を護りたかったのに、結局護ってもらって…」
「僕のことだって、ちゃんと護ってくれたでしょ?」
月が少しずつ欠けていき、静かにふたりを照らす。
「あの生徒があることないこと言いふらそうとしたのを止めてくれたって、後輩たちから聞いた」
「言わないでってお願いしたのに…」
「僕だって君に護られてる。ありがとう」
ふたりの関係は誰にも知られていない。
恋人繋ぎして、夜一緒にお茶を飲んだり口づける関係なんて。
「清香は綺麗だから、言い寄ってくる男が沢山いるのも分かってる。でも、危ないと思ったら逃げて」
「ありがとう。本当の私を知っている大切な人は、奏だけ」
「僕も清香を愛してる」
月がすっかり隠れてしまったところで、ふたりはぴったりくっつく。
お互いのぬくもりを分け合うように。…心が壊れてしまわないように。
「やっぱりふたりで過ごせる時間が1番楽しい」
「僕もそう思ってる」
お互い顔を見て微笑みあっていると、月が再び顔を出す。
ふたりは満ち欠けが激しい月を見つめながら、秋の夜長を楽しんだ。
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バニストで綴ってみました。
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