物置小屋

黒蝶

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物語の欠片

魔法使いのお仕事(ハロウィン)

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「…私が魔法を使えたらよかったのに」
少女の目の前にあるのは、猫の死骸。
怪我が原因で感染症にかかり、そのまま息を引き取った。
彼女にとって唯一の親友だった愛猫は、幸せそうに目を閉じている。
呆然としていると、背後から声をかけられた。
「魔法なんて使えてもいいことないよ」
「……誰?」
「魔法使い、とだけ言っておこうかな。周りの人たちに内緒にしてくれるなら、その子を一時的に生き返らせてあげる」
「そんなことができるの?」
「見てて。…ほら」
魔法使いが指をひとふりすると、ふらふらと猫が起きあがる。
「すごい…。魔法を使える人って本当にいるんだね」
「その子はハロウィンまでは生きられるけど、あくまで一時的なものだから忘れないで。
あと、私のことは絶対誰にも言っちゃ駄目だよ。もし話したら、その子が苦しむことになるから」
魔法使いの言葉に頷き、そっと愛猫を撫でる。
「マリー、何して遊ぼうか?」
にゃん、と可愛らしく鳴く姿を見て、少女は安堵していた。
これから何をしようかと考えていたが、答えはひとつだ。

それから1日がたち、2日が過ぎ、3日をこえ…あっという間に最終日になってしまった。
「そういう過ごし方でよかったの?」
魔法使いは少女に尋ねる。
「うん。特別な何かじゃなくて、いつもどおりのことをしたかったの。
美味しいものを食べて、お昼寝して、おもちゃで遊んで…できる限りのことはできたと思う」
少女は真っ直ぐ魔法使いを捉え、笑顔を見せた。
「ありがとう。これでマリーは寂しくないと思う」
「…あなたは?」
「やっぱり寂しい。でも、マリーがずっとそばにいてくれる気がするんだ」
魔法使いは少し不思議そうに首を傾げる。
「こんなことでお礼を言われるとは思ってなかった」
「絶対忘れないから。今日のことも、マリーのことも」
「……そう。さようなら」
少女に見送られた魔法使いは、不思議な門の前に立つ。
「これでよかったの?マリーさん」
猫は満足げに小さく頷く。
『はい。彼女にはお世話になりましたから。私も幸せでした』
「あの子、不思議な子だね。人間って欲張ったり約束を破るのに、そうしなかった」
『彼女は思いやりを持っているので』
「思いやり、ね…」
魔法使いはやはり不思議そうな顔をしていたが、猫を連れて門をくぐる。
「この先が冥界だよ。死んじゃってる人を見捨てるなんてできないから、しばらくは一緒にいる」
『そうですか。よろしくお願いします』
頭を下げる猫を見て、魔法使いは調子が狂ったように頭を抱える。
「なんでこんな純粋な子を見つけちゃったんだろう。…悪い子だったらお仕置きしようと思ってたのに」
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少女の願いを叶えたのかと思いきや、実は猫の願いを叶えた魔法使いの話にしてみました。
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