物置小屋

１人向け・other

見えない深さ(失声症)

なんだか今日は混んでたね。だけどまさか、さらっと席を立って別の人に譲るなんて予想外だった。
やっぱり君は優しいんだね。
…ねえ、どうかした？さっきからきょろきょろしてるけど…。ちょっとこっち来て。

ここなら人通りも少ないし、話しやすいかなって思って…。どうかな？
ゆっくりで大丈夫。君の言葉、ちゃんと聞きたいから。
『小さめの時計がついたブレスレットを落としちゃったみたい。できれば見つけたいけど、もう時間ないよね？』…時間は大丈夫だから探そう。
君がすごく大事にしてるやつでしょ？このまま諦めるのはなんとなく悲しいから…。
『いいの？ケーキ、売り切れちゃうかもしれないよ？』…ケーキはまた今度でも買えるからいいんだよ。
それより、君のブレスレットの方が大事。見つけられるといいんだけど…。向こうの方を探してみよう。

…あ、あった。ほら、これじゃない？よかった…。
『ありがとう』…これくらい当然だよ。だけど、落とさないように気をつけて。
今回みたいにすんなり見つかるとは限らないから。
『それだけじゃない』…どういうこと？
『いつも私の話を最後まで聞いてくれて、本当に嬉しい』…それも、俺にとっては当たり前だよ。
君の言葉をちゃんと受け止めたいんだ。
他の人の目なんて気にしなくていいんだよ。
どんな君でも、俺は受け入れる覚悟があるから。
それに、ふたりだけの内緒話をしてるみたいでちょっと楽しいし。
『感謝してもし足りない』…それなら、帰ってからお願い聞いてくれる？絶対だよ。
それじゃあ帰ろうか。…手、繋ごう。
あそこのワッフル買って帰ろうか。味はメープルシロップとチョコレートを半分ずつ分けよう。
君の生きづらさも、こんなふうにはんぶんこできればいいんだけど…。
どうしたの、そんなに心配そうな顔して…。
もしかして、突然俯いたから具合悪いと思った？
なんでもないよ。あと、体調不良じゃないから。
心配してくれてありがとう。…今度こそ行こうか。
君とふたりきりで過ごせるの、楽しみだな。
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失声症の話にしてみました。