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物語の欠片
バニラと文化祭とストロベリー(バニスト)※百合表現あり
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「奏、ちょっといい?」
「どうしたの?」
珍しく清香が困った顔で話しかけてきたことに、奏は不安をいだいていた。
「実は…」
──それから数日後、奏はステージに立っていた。
周りの女子生徒たちの歓声に戸惑いながら、舞台裏にひっこむ。
「清香」
「奏、どうかしましたか?もしかして、服のサイズが合わなかったとか…」
「そういうわけじゃないよ。ただ、どうして僕なの?他にもかっこいい女子ならいると思うんだけど…」
「生徒会の他のメンバーに誘うよう頼まれてしまって…。断りきれず、こんなことをお願いしてごめんなさい」
表の顔モードの清香を前に、奏は何も言えず立ち尽くす。
清香から頼まれたのは、男装して文化祭のファッションショーに出てほしいというものだった。
奏が目立つことを嫌うのを知っているからこそ、頼みづらそうにしていたのだ。
だが、清香の願いなら叶えようとステージに立つことを決めた。
「こんなことでいいなら協力させて。その代わり、終わってからきっちりつきあってもらうけど」
「それっえ…分かりました。考えておきます」
奏の悪魔のような笑みに清香は素で話しそうになったが、なんとか持ちこたえた。
「それじゃあまた後で」
「はい。また」
清香は忙しくしていたものの、ずっと心に孤独を抱いている。
そんな彼女の苦悩に奏が気づかないはずがなかった。
そして迎えた当日、はりきって司会をする清香を舞台袖で見つめる奏。
早々に着替えをすませた彼女は、合図と共にステージへ一歩踏み出す。
「何あの人、かっこいい!」
「あれって朝倉先輩だよね?やっぱり似合う…」
一般のお客さんたちの視線も一斉に奏に注がれ、清香は少し複雑な気持ちになる。
練習したとおりにランウェイを歩いた奏は、清香にだけ見えるように微笑みかけた。
「……!」
清香は平静を装い続けたが、鼓動が高鳴るのを全身で感じていた。
「あれは、反則だと思う…」
「何の話?」
奏が住むマンションでふたり、清香はランウェイでの出来事を思い出しながら話す。
「他の人に見られたらどうするつもりだったの?」
「見えない角度だったから大丈夫だよ」
「そういうことじゃなくて、その…」
「緊張した?」
奏の笑顔を思い出して悶えている清香に乾杯用のジュースを渡す。
「一先ずお疲れ様でした会はじめよう」
「う、うん」
素の清香を見て安堵しつつ、奏は静かに語りかける。
「…僕は清香だけのものだって伝えたかったんだ。最近ずっと様子が変だったから…。
言葉にできなくても、あの場でできることをやってせいいっぱい伝えようって決めてた」
真っ直ぐ伝えられた言葉に、清香も素直な思いを言葉にして紡ぐ。
「私、奏が誰かに取られちゃう気がして乗り気じゃなかったの。
かっこいい奏のことは私だけが知っていればいいのに、奏を傷つけたくないのにってずっと思ってた」
奏のファンは多いが、おとこおんな、やばい奴、ヤンキー…そんなふうに陰口をたたかれていることをよく知っている。
勿論誰にも取られたくないという思いもあったものの、傷つけてしまったのではないかと清香はずっと不安になっていたのだ。
「心配しなくても大丈夫だよ。僕はずっと清香だけだから」
「…ありがとう。私も奏だけだよ」
クラスの打ち上げも、周囲の印象もどうだっていい。
これからも自分たちらしくあろうと話しながら、ふたりはその場で抱き合った。
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久しぶりにバニストの話にしてみました。
「どうしたの?」
珍しく清香が困った顔で話しかけてきたことに、奏は不安をいだいていた。
「実は…」
──それから数日後、奏はステージに立っていた。
周りの女子生徒たちの歓声に戸惑いながら、舞台裏にひっこむ。
「清香」
「奏、どうかしましたか?もしかして、服のサイズが合わなかったとか…」
「そういうわけじゃないよ。ただ、どうして僕なの?他にもかっこいい女子ならいると思うんだけど…」
「生徒会の他のメンバーに誘うよう頼まれてしまって…。断りきれず、こんなことをお願いしてごめんなさい」
表の顔モードの清香を前に、奏は何も言えず立ち尽くす。
清香から頼まれたのは、男装して文化祭のファッションショーに出てほしいというものだった。
奏が目立つことを嫌うのを知っているからこそ、頼みづらそうにしていたのだ。
だが、清香の願いなら叶えようとステージに立つことを決めた。
「こんなことでいいなら協力させて。その代わり、終わってからきっちりつきあってもらうけど」
「それっえ…分かりました。考えておきます」
奏の悪魔のような笑みに清香は素で話しそうになったが、なんとか持ちこたえた。
「それじゃあまた後で」
「はい。また」
清香は忙しくしていたものの、ずっと心に孤独を抱いている。
そんな彼女の苦悩に奏が気づかないはずがなかった。
そして迎えた当日、はりきって司会をする清香を舞台袖で見つめる奏。
早々に着替えをすませた彼女は、合図と共にステージへ一歩踏み出す。
「何あの人、かっこいい!」
「あれって朝倉先輩だよね?やっぱり似合う…」
一般のお客さんたちの視線も一斉に奏に注がれ、清香は少し複雑な気持ちになる。
練習したとおりにランウェイを歩いた奏は、清香にだけ見えるように微笑みかけた。
「……!」
清香は平静を装い続けたが、鼓動が高鳴るのを全身で感じていた。
「あれは、反則だと思う…」
「何の話?」
奏が住むマンションでふたり、清香はランウェイでの出来事を思い出しながら話す。
「他の人に見られたらどうするつもりだったの?」
「見えない角度だったから大丈夫だよ」
「そういうことじゃなくて、その…」
「緊張した?」
奏の笑顔を思い出して悶えている清香に乾杯用のジュースを渡す。
「一先ずお疲れ様でした会はじめよう」
「う、うん」
素の清香を見て安堵しつつ、奏は静かに語りかける。
「…僕は清香だけのものだって伝えたかったんだ。最近ずっと様子が変だったから…。
言葉にできなくても、あの場でできることをやってせいいっぱい伝えようって決めてた」
真っ直ぐ伝えられた言葉に、清香も素直な思いを言葉にして紡ぐ。
「私、奏が誰かに取られちゃう気がして乗り気じゃなかったの。
かっこいい奏のことは私だけが知っていればいいのに、奏を傷つけたくないのにってずっと思ってた」
奏のファンは多いが、おとこおんな、やばい奴、ヤンキー…そんなふうに陰口をたたかれていることをよく知っている。
勿論誰にも取られたくないという思いもあったものの、傷つけてしまったのではないかと清香はずっと不安になっていたのだ。
「心配しなくても大丈夫だよ。僕はずっと清香だけだから」
「…ありがとう。私も奏だけだよ」
クラスの打ち上げも、周囲の印象もどうだっていい。
これからも自分たちらしくあろうと話しながら、ふたりはその場で抱き合った。
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久しぶりにバニストの話にしてみました。
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