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物語の欠片
救いの手(フードの男と少女)
しおりを挟む「こんばんは」
「あ……こんばんは」
フードの男に声をかけられた少女は、何故か背筋が凍る感覚をおぼえる。
「私が怖いですか?」
「ご、ごめんなさい。人と話すのが、すごく苦手で……」
少女は息を荒げながら途切れ途切れに話し出す。
「だから、いつも不自然な感じになってしまって…お願い、怒らないで。殴らないで」
「落ち着いて」
「ごめんなさい。全部渡しが悪いから、もう──」
「心配しなくても、私は君を殴ったりしないよ」
今にも倒れてしまいそうな少女に落ち着くよう声をかけ、フードの男は優しい声音で語りかける。
「この世界から解放されたくてここに来たんだろう?…それなら、今この場所で一旦死んだと思って渡しについてきてくれないか?」
「お兄さん、に?でも、迷惑になるから…」
「迷惑をかけずに生きられる者などいない。これは私のエゴだけど、心からそう思うよ。
それで、どうかな?君が出ていきたいと望むまでの日々を、私と共に過ごしてもらえないか?」
少女はしばらく迷ったが、それも悪くないのかもしれないと思った。
「分かりました。私でよければ頑張ります」
「頑張らなくていいんだ。君がやりたいことを一緒にやるから」
その日の夜、少女はひとりにしないでほしいとフードの男の手を離さなかった。
フードの男はふりはらうこともせず、そのまま横になる。
少女の願いは些細なものだったが、フードの男はそれを全力で叶えた。
「おはよう」
「おはよう、ございます」
「朝ご飯ならできてるよ」
「ありがとうございます。…いただきます」
ふたりは特に会話をするわけでもなく、15分程で朝食を終える。
「あの、お昼は私が作ってもいいですか?」
「勿論。君のご飯、楽しみにしているよ」
フードの男は決して素顔を見せないものの、心から楽しんでいる様子が少女にも伝わった。
「あ、あの、今日は学校、休みですけど…明日もお休みしていいですか?」
「それは君に任せるよ。本当は行けっていうのが正解なんだろうけど、苦しくなるならここにいてくれて構わない」
読書をはじめたフードの男の向かい側に座り、少女は数少ない荷物の中からお気に入りの本を取り出す。
しばらく読んで、昼食作りに取り掛かった。
どう感じられるか不安ではあったが、フードの男はふっと笑う。
その表情は少女には見えないが、フードの男なりに楽しんでいた。
「すごく美味しいよ。ひとりだと手を抜きがちになるから、誰かがいるっていいね」
「ありがとうございます」
少女の体には所々包帯が巻かれていて、痛々しい傷が見え隠れしている。
「お風呂に入った後、手当てをさせてほしい。あと、証拠に写真を残しておきたいんだ」
「…?分かりました。ありがとうございます」
少女は意味がよく分かっていないようだったが、生まれて初めて感じる気持ちに若干動揺していた。
そして夕食もふたりで摂り、ゆっくり湯船につかった少女はほっと息を吐く。
「これが、色々な人たちが送っている日常?」
フードの男は殴ったりしないし、罵声も浴びせてこない。
温かいご飯にお風呂、ふかふかのベッド…心にぬくもりが宿っていく。
「のぼせてないかな?」
「は、はい」
「ゆっくりでいいけど、長風呂しすぎるとのぼせるから気をつけて。着替えはここに置いておくから」
「ありがとうございます」
フードの男はひとり笑みを零す。
少女の願いは、怯えない何気ない1日を過ごすことだった。
「……叶えられていたらいいけど」
男はそう小さく呟き、誰もいないことを確認してフードを脱ぐ。
窓から入りこむ月光が床を照らした。
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怯える少女と謎だらけの男の話にしてみました。
「あ……こんばんは」
フードの男に声をかけられた少女は、何故か背筋が凍る感覚をおぼえる。
「私が怖いですか?」
「ご、ごめんなさい。人と話すのが、すごく苦手で……」
少女は息を荒げながら途切れ途切れに話し出す。
「だから、いつも不自然な感じになってしまって…お願い、怒らないで。殴らないで」
「落ち着いて」
「ごめんなさい。全部渡しが悪いから、もう──」
「心配しなくても、私は君を殴ったりしないよ」
今にも倒れてしまいそうな少女に落ち着くよう声をかけ、フードの男は優しい声音で語りかける。
「この世界から解放されたくてここに来たんだろう?…それなら、今この場所で一旦死んだと思って渡しについてきてくれないか?」
「お兄さん、に?でも、迷惑になるから…」
「迷惑をかけずに生きられる者などいない。これは私のエゴだけど、心からそう思うよ。
それで、どうかな?君が出ていきたいと望むまでの日々を、私と共に過ごしてもらえないか?」
少女はしばらく迷ったが、それも悪くないのかもしれないと思った。
「分かりました。私でよければ頑張ります」
「頑張らなくていいんだ。君がやりたいことを一緒にやるから」
その日の夜、少女はひとりにしないでほしいとフードの男の手を離さなかった。
フードの男はふりはらうこともせず、そのまま横になる。
少女の願いは些細なものだったが、フードの男はそれを全力で叶えた。
「おはよう」
「おはよう、ございます」
「朝ご飯ならできてるよ」
「ありがとうございます。…いただきます」
ふたりは特に会話をするわけでもなく、15分程で朝食を終える。
「あの、お昼は私が作ってもいいですか?」
「勿論。君のご飯、楽しみにしているよ」
フードの男は決して素顔を見せないものの、心から楽しんでいる様子が少女にも伝わった。
「あ、あの、今日は学校、休みですけど…明日もお休みしていいですか?」
「それは君に任せるよ。本当は行けっていうのが正解なんだろうけど、苦しくなるならここにいてくれて構わない」
読書をはじめたフードの男の向かい側に座り、少女は数少ない荷物の中からお気に入りの本を取り出す。
しばらく読んで、昼食作りに取り掛かった。
どう感じられるか不安ではあったが、フードの男はふっと笑う。
その表情は少女には見えないが、フードの男なりに楽しんでいた。
「すごく美味しいよ。ひとりだと手を抜きがちになるから、誰かがいるっていいね」
「ありがとうございます」
少女の体には所々包帯が巻かれていて、痛々しい傷が見え隠れしている。
「お風呂に入った後、手当てをさせてほしい。あと、証拠に写真を残しておきたいんだ」
「…?分かりました。ありがとうございます」
少女は意味がよく分かっていないようだったが、生まれて初めて感じる気持ちに若干動揺していた。
そして夕食もふたりで摂り、ゆっくり湯船につかった少女はほっと息を吐く。
「これが、色々な人たちが送っている日常?」
フードの男は殴ったりしないし、罵声も浴びせてこない。
温かいご飯にお風呂、ふかふかのベッド…心にぬくもりが宿っていく。
「のぼせてないかな?」
「は、はい」
「ゆっくりでいいけど、長風呂しすぎるとのぼせるから気をつけて。着替えはここに置いておくから」
「ありがとうございます」
フードの男はひとり笑みを零す。
少女の願いは、怯えない何気ない1日を過ごすことだった。
「……叶えられていたらいいけど」
男はそう小さく呟き、誰もいないことを確認してフードを脱ぐ。
窓から入りこむ月光が床を照らした。
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怯える少女と謎だらけの男の話にしてみました。
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