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物語の欠片
ホワイトトパーズの憂鬱(ブラ約)
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「あ、あの、リーゼ」
「どうかした?」
「お客様です」
似たような日常を繰り返すうち、陽和に少しずつ変化があらわれはじめた。
いつも何かに怯えていたのが、少しずつ笑顔になる時間が増えてきたのだ。
今もはにかんでいる陽和を、リーゼは可愛らしく思いながら扉を開ける。
「リーゼ、少しいいかな?」
突然やってきたリリーに引き止められ、リーゼは少し大げさにため息を吐く。
「……なに?」
「お願いしたいことが、」
「嫌」
「まだ何も言ってないのに…」
「要人警護なんて絶対やらない」
ここでいう要人というのは、ヴァンパイアのなかで1番多い紅き月の日に生まれたのことをさす。
ヴァンパイアのなかで最も冷遇されるリーゼからしてみれば、決して気分がいいものではない。
「ようじん…?」
まだリーゼたちが人間ではないことを知らない陽和は、聞き慣れない単語を呟いて首を傾げる。
「偉い人を護る仕事のことだよ」
「リーゼは強いんですね」
「そんなことない。私は人より少し護る術があるというだけ」
陽和は目をきらきらさせてリーゼを見つめる。
リリーはふたりを交互に見つめ、にやりと笑った。
「それなら、別のものをやってもらおうかな」
そして今、陽和はカッターシャツとしっかりしたパンツ姿に、リーゼは純白のワンピースに純白のベールを身につけている。
「…なんのつもり?」
「僕、ちょっと絵の練習がしたくなって…。せっかくいい素材がいるんだから、つきあってもらおうと思ったんだ」
「が、頑張ります」
「お嬢さん、そんなに緊張しなくてもいいんだよ。リーゼとふたりでおしゃべりしていてくれればそれでいいから」
リリーはリーゼが護衛を断ることをはじめから分かっていて、敢えて声をかけたのだ。
先に断ったことがあるとその後頼んだことを断れない…リーゼのそんな性格を長年の付き合いだからこそ分かっていた。
陽和が張り切ってしまえば余計に承諾せざるを得ないこともよんでいたのだ。
「私、絵のモデルなんてしたことがなくて…」
「大丈夫。私たちはおやつを食べていればいいだけ。描くのはリリーだから」
リーゼはやや投げやりな様子だが、陽和は緊張しているのかいつもより表情が硬い。
「お嬢さん、今のリーゼを見てどう思う?」
「えっと…とっても綺麗です。いつも綺麗ですが、お洋服の魔法にかかったみたいで、今は少し違った美しさがあるというか……。
どう説明したらいいか分かりませんが、とにかく綺麗です」
「…そんなふうに思ってくれたのなら嬉しい。陽和はいつもの可愛らしさもありつつ、今はかっこいい」
陽和の表情が柔らかくなると同時にリーゼが微笑む。
その一瞬をリリーは逃さなかった。
「ありがとう。いい練習になったよ」
「もう描けたの?」
「うん。お嬢さんにも見てほしいな」
微笑みあうふたりの姿が描かれた絵はかなり細かく仕上げられていて、あまりの出来栄えにリーゼも驚いていた。
「随分上達してるみたいだけど、誰かに習ったの?」
「いや、独学だ」
「…そう」
ふたりの会話を聞きながら、陽和は日課になった花の世話をしている。
芽は出たもののまだ蕾がつかない花の名前を、陽和はまだ知らない。
「陽和」
「は、はい」
「さっきの仕事、楽しかった?」
「緊張しましたが、お役に立ててよかったです。絵も綺麗で、楽しかったです」
「…そう。あなたが楽しんだならそれでいい」
リーゼは宝石のようにきらきらした笑みを浮かべる。
その様子に陽和はどきどきした。
「…それで、護衛に誘ったのは事件に関係することを調べるため?」
陽和が眠ったのを確認して、血液が入ったパックを飲みながらリリーに尋ねる。
「それもある。パーティーに紛れこんでいる可能性があるからね」
「……そう」
リーゼもまた、リリーの性格を見抜いている。
嫌がると分かっていることを頼んでくるときは、必ず何か裏があるときだ。
「やっぱり警護は嫌。だけど、私の周りに現れられても困る。…私は私の方法で調べる」
「ありがとう。助かるよ」
「何か分かったらクロウにおつかいを頼む。それから、別の策を考えるからリリーも警護を断って」
「やっぱり君は策略家だね」
ふたりは陽和に軽く視線をやり、穏やかな寝顔を確認して話をすすめる。
白い月のヴァンパイアであるリリーも、どちらかといえば不遇な方だ。
吸血鬼事件のことでも疲れているだろうに、余計な苦労を増やしたくなかった。
「…人がみんな仲良くいられる世界ならよかったのに」
リーゼのそんな呟きは風にのって消えていく。
誰にも届かない願いは遠く遠くとんでいった。
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ブラッディローズの約束シリーズを綴ってみました。
「どうかした?」
「お客様です」
似たような日常を繰り返すうち、陽和に少しずつ変化があらわれはじめた。
いつも何かに怯えていたのが、少しずつ笑顔になる時間が増えてきたのだ。
今もはにかんでいる陽和を、リーゼは可愛らしく思いながら扉を開ける。
「リーゼ、少しいいかな?」
突然やってきたリリーに引き止められ、リーゼは少し大げさにため息を吐く。
「……なに?」
「お願いしたいことが、」
「嫌」
「まだ何も言ってないのに…」
「要人警護なんて絶対やらない」
ここでいう要人というのは、ヴァンパイアのなかで1番多い紅き月の日に生まれたのことをさす。
ヴァンパイアのなかで最も冷遇されるリーゼからしてみれば、決して気分がいいものではない。
「ようじん…?」
まだリーゼたちが人間ではないことを知らない陽和は、聞き慣れない単語を呟いて首を傾げる。
「偉い人を護る仕事のことだよ」
「リーゼは強いんですね」
「そんなことない。私は人より少し護る術があるというだけ」
陽和は目をきらきらさせてリーゼを見つめる。
リリーはふたりを交互に見つめ、にやりと笑った。
「それなら、別のものをやってもらおうかな」
そして今、陽和はカッターシャツとしっかりしたパンツ姿に、リーゼは純白のワンピースに純白のベールを身につけている。
「…なんのつもり?」
「僕、ちょっと絵の練習がしたくなって…。せっかくいい素材がいるんだから、つきあってもらおうと思ったんだ」
「が、頑張ります」
「お嬢さん、そんなに緊張しなくてもいいんだよ。リーゼとふたりでおしゃべりしていてくれればそれでいいから」
リリーはリーゼが護衛を断ることをはじめから分かっていて、敢えて声をかけたのだ。
先に断ったことがあるとその後頼んだことを断れない…リーゼのそんな性格を長年の付き合いだからこそ分かっていた。
陽和が張り切ってしまえば余計に承諾せざるを得ないこともよんでいたのだ。
「私、絵のモデルなんてしたことがなくて…」
「大丈夫。私たちはおやつを食べていればいいだけ。描くのはリリーだから」
リーゼはやや投げやりな様子だが、陽和は緊張しているのかいつもより表情が硬い。
「お嬢さん、今のリーゼを見てどう思う?」
「えっと…とっても綺麗です。いつも綺麗ですが、お洋服の魔法にかかったみたいで、今は少し違った美しさがあるというか……。
どう説明したらいいか分かりませんが、とにかく綺麗です」
「…そんなふうに思ってくれたのなら嬉しい。陽和はいつもの可愛らしさもありつつ、今はかっこいい」
陽和の表情が柔らかくなると同時にリーゼが微笑む。
その一瞬をリリーは逃さなかった。
「ありがとう。いい練習になったよ」
「もう描けたの?」
「うん。お嬢さんにも見てほしいな」
微笑みあうふたりの姿が描かれた絵はかなり細かく仕上げられていて、あまりの出来栄えにリーゼも驚いていた。
「随分上達してるみたいだけど、誰かに習ったの?」
「いや、独学だ」
「…そう」
ふたりの会話を聞きながら、陽和は日課になった花の世話をしている。
芽は出たもののまだ蕾がつかない花の名前を、陽和はまだ知らない。
「陽和」
「は、はい」
「さっきの仕事、楽しかった?」
「緊張しましたが、お役に立ててよかったです。絵も綺麗で、楽しかったです」
「…そう。あなたが楽しんだならそれでいい」
リーゼは宝石のようにきらきらした笑みを浮かべる。
その様子に陽和はどきどきした。
「…それで、護衛に誘ったのは事件に関係することを調べるため?」
陽和が眠ったのを確認して、血液が入ったパックを飲みながらリリーに尋ねる。
「それもある。パーティーに紛れこんでいる可能性があるからね」
「……そう」
リーゼもまた、リリーの性格を見抜いている。
嫌がると分かっていることを頼んでくるときは、必ず何か裏があるときだ。
「やっぱり警護は嫌。だけど、私の周りに現れられても困る。…私は私の方法で調べる」
「ありがとう。助かるよ」
「何か分かったらクロウにおつかいを頼む。それから、別の策を考えるからリリーも警護を断って」
「やっぱり君は策略家だね」
ふたりは陽和に軽く視線をやり、穏やかな寝顔を確認して話をすすめる。
白い月のヴァンパイアであるリリーも、どちらかといえば不遇な方だ。
吸血鬼事件のことでも疲れているだろうに、余計な苦労を増やしたくなかった。
「…人がみんな仲良くいられる世界ならよかったのに」
リーゼのそんな呟きは風にのって消えていく。
誰にも届かない願いは遠く遠くとんでいった。
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ブラッディローズの約束シリーズを綴ってみました。
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