物置小屋

黒蝶

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物語の欠片

スギライトの戯れ(ブラ約)

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「あの、リーゼ」
「どうかした?」
「……いえ、なんでもありません」
「そう。少し出掛けてくるから、留守番をお願い」
「分かりました。…いってらっしゃい」
「いってきます」
陽和は不安に思っていた。
リーゼは出掛けて帰ってくる度、どこかしら怪我をしている。
そこまで深い傷ではないようだが、彼女が何をしているか知らない陽和からすれば不安なことだらけだ。
この日もリーゼが帰ってきた時間は遅く、また小さな傷が増えていた。

翌朝、まだリーゼが眠っている間に扉がノックされる。
出ないようにと言われていたので放っておこうとしたが、聞き覚えのある声がして扉を開けた。
「お嬢さん、こんにちは。お邪魔させてもらうよ」
「あの、リーゼはまだ寝ています」
「構わないよ。今日は君に用があってきたんだから」
リリーは家に入るなり満面の笑みで陽和に話しかける。
「もしよかったらなんだけど、これを着てみてくれないかな?」
「長いスカート……?」
「ドレスというものなんだ。リーゼから君に似合いそうなものを用意してほしいと頼まれていたからね」
その場で着替えるように言われた陽和は言われたとおりにする。
真っ白なドレスに身を包んだ陽和は、いつもより大人っぽく見えた。
「あ、あの…」
「とても似合っているよ」
陽和は露わになってしまった体の傷を隠そうとしたが、服を傷つけてしまいそうで動けなくなる。
「あとはリーゼから受け取ったら終わりだ」
「何をですか?」
「それは、」
「勝手に入ったうえ、陽和に何をさせているの?」
リリーが答える前にリーゼが怪訝そうな表情を浮かべ、会話に割って入る。
「たまの息抜きは必要だろうと思って用意したんだ。だけど、彼女は純白のドレスをお気に召していないようで……」
「ち、違うんです。こんな素敵なものを私なんかが着てしまっていいのかと思って…。それに、その、」
「彼女は傷が目立つからこういった服装を好まない。…いきなり来てこの子を困らせないで」
リーゼはリリーに不機嫌な顔ではっきり告げる。
リリーはふっと笑い、リーゼが隠していた箱を探し当てた。
「ちょっと……」
「お嬢さん、最近彼女の帰りが遅いから心配していただろう?」
「…はい」
「それはね、これを作っていたからなんだ。僕はドレスを作って、彼女はこれを作っていた」
箱に入っていたのは可愛らしいティアラだった。
本でしか見たことがない存在に、陽和はぱっと表情が明るくなる。
「これ、リーゼが作ったんですか?」
「一応。…それからこれも。普段使いできると思って、ついでに作った」
一緒に渡されたのはまばゆい光を放つヘアピンだった。
可愛らしい花の装飾がされていて、真ん中には石が埋めこまれている。
「本当にもらってしまっていいんですか…?」
「普段お世話になっているお礼だから、寧ろ受け取ってくれないと困る」
「ありがとうございます。大切にします」
リーゼはその笑顔を見るだけで癒やされた。
リリーはドレスはやっぱり苦手だと話す陽和に、持ってきていた別の服を渡す。
「僕からも、お近づきの印に。受け取ってくれるかな?」
「あ、ありがとうございます」
ティアラを仕舞い、陽和はリリーが用意してくれた服とリーゼが作ってくれたヘアピンを身につける。
「どうでしょうか?」
「可愛い」
「とても似合っているよ」
「ありがとうございます。…お茶の用意をしますね」
いつもより楽しい気分になった陽和はティータイムの用意をする。
傷を負っていたのはきっと手作りしてくれていたからだと、彼女はそう考えた。



──そんな陽和の姿を遠目で確認しながら、ふたりは話を進める。
「いきなり来てあんなことをするなんて……」
「すまない。だけど、ああでもしないとお嬢さんが怪しむと思ったんだ」
「それはそうだけど、まさか用意していたものを全部見られることになるとは思ってなかった」
リーゼは髪飾りに呪いをかけた。
それは陽和を護るためのもので、ヴァンパイアの血液と宝石を組み合わせてある。
「あれであの子は見つからないはずだ。だけど、君はどうするつもりなんだい?」
「……分からない。ただ、私の生活を壊すつもりなら容赦しない」
リーゼが怪我をして帰ってくるのは、手作りヘアアクセを作っていたからではない。
「しかし、厄介な存在がいるものだ」
「本当にうんざり」
吸血鬼事件を調べているというのもあるが、今回負った傷は人間に負わされたものではない。
「……紅き月のヴァンパイア、か」
ヴァンパイアは基本的に紅き月の日に誕生すると言われており、大多数を占めている。
そのなかに人間を襲うドラキュラが交ざっていることもあるが、そんなことは棚に上げてわがまま放題だ。
そんな紅き月のヴァンパイアたちはそれ以外の月の日に生まれたヴァンパイアたちを虐げている。
そして、リーゼもリリーも虐げられる側なのだ。
「その話はまた今度にして、今夜は楽しもう。お嬢さんがはりきってくれているから」
「そうね。…傷のこと、上手く誤魔化せそうでよかった。ありがとう」
リリーは苦い表情を浮かべたものの、一瞬で笑顔に戻る。
陽和の前では笑顔で過ごそうと、ふたりとも一切表情を崩さなかった。
沈みゆく日を見つめながら、リーゼは痛む傷をそっと隠す。
陽和にだけはどうしても知られたくなかった。
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久しぶりにブラ約を綴ってみました。
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