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物語の欠片
星空の下、ひとつの約束。(『約束のスピカ』番外篇)
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「そこまで」
室星は目の前の生徒に対して声をかける。
「……もう終わり?」
「ああ。お疲れ」
室星の言葉に安堵した生徒の名は、流山瞬。
授業に殆ど出てこない、室星のクラスの生徒だ。
「ねえ、先生。今夜も来ていい?」
「……ああ」
瞬の家庭はぬくもりとはかけ離れており、夜になると学園の旧校舎にやってくる。
室星はそんな彼を陰で護っているのだ。
…というのも、この町にはよく人間ではないものが現れる。
それらが彼を喰らわないように、夜な夜な罠を仕掛けているのだ。
「…それじゃあ先生、また後で」
「気をつけて帰るように」
「分かった」
ここまで話をしてくれるようになるまで随分時間がかかった。
始業式からずっと見ていたものの、いくら室星が話しかけても無反応だったのだ。
体中に傷を作っているのを放っておけず、毎日嫌がられても声をかけていた。
その成果もあってか、ようやく普通の会話をする程度にはなってきている。
室星は頭ごなしに授業に出ろと言わないので、瞬にとってもふたりで過ごす時間は悪くないようだ。
「先生、来たよ」
ふたりきりの天文部、調整しておいた望遠鏡を覗いて星の話をする。
相変わらず怪我だらけの瞬の手当てをしながら室星は息を吐いた。
「今日は酷いな」
「自分じゃ分からない」
「そうか。…これでいいはずだ」
「ありがとう」
ふたりで空を眺めていると瞬が口を開く。
「あのね、先生。僕、天の川が見たいんだ」
「……?晴れたら見られるはずだろ」
「流星群も見たいし、天の川も見たい。…見られるかな?」
「見られるよ」
「…そっか」
元々ふたりとも口数が多いわけじゃない。
だが、室星はこの会話に疑問を持った。
近々流星群やら七夕があるのに、まるで見られないような言い方をするのは何故なのか。
「…一緒に見られるかな?」
「きっと見られるよ」
流山瞬の天体観測をしている間の輝きは今夜も失われていない。
にもかかわらずいつまでも胸騒ぎが止まらなかった。
──どれくらいそうしていただろうか。
「流山、そろそろ帰らないと危ない」
「…帰りたくない」
「体を休めておかないと倒れるぞ」
「それもそっか」
瞬は重い腰を上げ、その場を後にする。
それを後ろから追いかけようとする人間ではない何かを、室星は躊躇なく薙ぎ払った。
「あいつに手を出すな。どうしても引き下がらないなら俺を倒してみろ」
グローブをはめ、拳と細いワイヤーのような鋭さを持った糸を構える。
実は室星は人間ではない。
人間社会に上手く溶けこんでいるだけの妖だ。
人間の時間は有限で、ほぼ無限の妖とは違う。
それを分かっていても、どうしても放っておくことはできなかった。
妖の自分にできるのは生徒を護ることだけだ。
……このときの室星は本気でそう考えていた。
この後あんなことになるなんて、誰も想像していなかっただろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
自作『夜紅の憲兵姫』の登場人物の過去にあたる時系列の話を綴ってみました。
『約束のスピカ』の方で過去篇として綴っているのですが、もう少し約束について掘り進めたくなってやってみました。
室星は目の前の生徒に対して声をかける。
「……もう終わり?」
「ああ。お疲れ」
室星の言葉に安堵した生徒の名は、流山瞬。
授業に殆ど出てこない、室星のクラスの生徒だ。
「ねえ、先生。今夜も来ていい?」
「……ああ」
瞬の家庭はぬくもりとはかけ離れており、夜になると学園の旧校舎にやってくる。
室星はそんな彼を陰で護っているのだ。
…というのも、この町にはよく人間ではないものが現れる。
それらが彼を喰らわないように、夜な夜な罠を仕掛けているのだ。
「…それじゃあ先生、また後で」
「気をつけて帰るように」
「分かった」
ここまで話をしてくれるようになるまで随分時間がかかった。
始業式からずっと見ていたものの、いくら室星が話しかけても無反応だったのだ。
体中に傷を作っているのを放っておけず、毎日嫌がられても声をかけていた。
その成果もあってか、ようやく普通の会話をする程度にはなってきている。
室星は頭ごなしに授業に出ろと言わないので、瞬にとってもふたりで過ごす時間は悪くないようだ。
「先生、来たよ」
ふたりきりの天文部、調整しておいた望遠鏡を覗いて星の話をする。
相変わらず怪我だらけの瞬の手当てをしながら室星は息を吐いた。
「今日は酷いな」
「自分じゃ分からない」
「そうか。…これでいいはずだ」
「ありがとう」
ふたりで空を眺めていると瞬が口を開く。
「あのね、先生。僕、天の川が見たいんだ」
「……?晴れたら見られるはずだろ」
「流星群も見たいし、天の川も見たい。…見られるかな?」
「見られるよ」
「…そっか」
元々ふたりとも口数が多いわけじゃない。
だが、室星はこの会話に疑問を持った。
近々流星群やら七夕があるのに、まるで見られないような言い方をするのは何故なのか。
「…一緒に見られるかな?」
「きっと見られるよ」
流山瞬の天体観測をしている間の輝きは今夜も失われていない。
にもかかわらずいつまでも胸騒ぎが止まらなかった。
──どれくらいそうしていただろうか。
「流山、そろそろ帰らないと危ない」
「…帰りたくない」
「体を休めておかないと倒れるぞ」
「それもそっか」
瞬は重い腰を上げ、その場を後にする。
それを後ろから追いかけようとする人間ではない何かを、室星は躊躇なく薙ぎ払った。
「あいつに手を出すな。どうしても引き下がらないなら俺を倒してみろ」
グローブをはめ、拳と細いワイヤーのような鋭さを持った糸を構える。
実は室星は人間ではない。
人間社会に上手く溶けこんでいるだけの妖だ。
人間の時間は有限で、ほぼ無限の妖とは違う。
それを分かっていても、どうしても放っておくことはできなかった。
妖の自分にできるのは生徒を護ることだけだ。
……このときの室星は本気でそう考えていた。
この後あんなことになるなんて、誰も想像していなかっただろう。
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自作『夜紅の憲兵姫』の登場人物の過去にあたる時系列の話を綴ってみました。
『約束のスピカ』の方で過去篇として綴っているのですが、もう少し約束について掘り進めたくなってやってみました。
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