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物語の欠片
カリブラコアの瞬き(ブラ約)
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「陽和?」
リーゼが目を覚ましたとき、そこに陽和の姿はなかった。
慌てて探すと、花に水をやっているのを見つける。
「あ…おはようございます」
「おはよう」
陽和は少しびくびくしながらぎこちない挨拶をする。
何か怒らせるようなことをしたかもしれないと不安になっている陽和に、リーゼは落ち着いた笑みで腕を伸ばした。
「別に怒っているわけじゃない。いなかったから探していただけ」
「そうだったんですね…。あの、ご飯できてます」
「ありがとう。一緒に食べてくれる?」
「は、はい」
喜びが隠しきれていない陽和の姿を微笑ましく思いながら、束の間の休息を楽しんだ。
──その日の夕方、クロウが新聞を運んでくる。
「これは…」
一面を見た瞬間、リーゼは眉をひそめた。
「どうかしたんですか?」
「物騒な事件がおこっているなと思っただけ。…あまり見ない方がいいと思う」
「少しでいいので、読んでもいいですか?勉強になりますし、リーゼが知っていることを私も知りたいので…」
こんなふうに頼まれるとリーゼは弱い。
少しずつ読み書きの応用を教えているところだったし、社会を知るという意味では新聞に目を通すのもいいはずだ。
「気分が悪くなったらすぐやめて。約束」
「分かりました。ありがとうございます」
そこに載っていたのは、吸血鬼事件の新たな被害者が出たという内容だ。
リーゼは不安だった。
もしこの記事を見て、陽和がヴァンパイアに対して恐怖心を抱いてしまったら一緒にはいられない。
陽和は開口一番、恐怖を口にした。
「やっぱり人間って怖いですね」
「……え?」
「何か都合が悪いことがあると、すぐ誰かのせいにするから…。本当に吸血鬼がやっているかなんて分からないのに、どうしてこんな記事を書くんでしょうか?」
呆然とするリーゼにさらに言葉を続ける。
「人間を無差別に襲うのはドラキュラなので、ヴァンパイアとまとめられた呼び方の吸血鬼っていうのは間違っていると思います。
…私だって人間じゃないから、私みたいな人がやったことかもしれませんし…」
「あなたは人間でしょ?」
「い、生贄は人間じゃないって村の人たち、が……」
陽和はそこまで話したところで、とても苦しそうに胸を押さえてその場にしゃがみこむ。
「大丈夫。ゆっくり息をして。ここに怖い人たちは来ないから」
「は、はい……」
リーゼはどう恐怖心を和らげるか考えた結果、何かの拍子に切ってしまったらしい陽和の指をくわえる。
軽く吸血すると、陽和はぼんやりしたようにリーゼを見た。
「今夜はそのまま眠って。具合が悪いときは休むのが1番だから」
「……はい」
その場に倒れこんだ陽和の体をベッドに寝かせ、そっと頭を撫でて家を出る。
クロウに新聞を預けた人物に会いに行くためだ。
「おや、早かったね。お嬢さんは?」
「今は寝てる」
「もしかして、催眠でも使った?」
「それほど強いものじゃない」
ヴァンパイアの吸血には様々な効果がみられるといわれている。
実際、リリーは身体強化だけでなく周囲を凍らせることができるし、リーゼは催眠をかけることができるのだ。
得手不得手はあるが、ヴァンパイアなら持っていることが多いだろう。
「あれが犯人?」
「正確には、犯人のうちのひとりだ。やっぱり君はすごいね。僕だけじゃ分からなかった」
目と鼻の先にいる犯人に、リーゼは思いきり殴りかかる。
吸血しているためか、いつもより威力が強い。
「僕の出る幕はなさそうだ」
「あなたが手錠をかけてくれないと困る」
「それもそうか。…それに、そこの人間たちには黙ってもらわないと」
相手が反撃する間もなく、辺り一面銀世界が広がる。
他の人間に見られてしまえば終わりだが、人間たちが滅多に近づかない森の近くなら心配する必要もないだろう。
「ば、化け物…」
「……へえ?平然と人間を殺したおまえがそれを言うのか」
リリーの目は笑っていない。そのまま放っておくと眼光だけで人間たちを殺せそうだ。
だが、彼女がそんなことをしないとリーゼはよく知っている。
「それじゃあ、私はこれで」
「ああ。来てくれてありがとう」
人知れずひっそり事件を片づけ、再び森の奥へ戻る。
陽和をひとりにしてきたことが心配でたまらなかったが、まだすやすやと寝息をたてて眠っていた。
「…ごめんなさい」
誰に言うでもなく、リーゼは小さく呟く。
ただ静かに暮らすことがこんなにも難しいなんて、彼女は想像していなかったのだ。
町の方を通ったとき、偶然聞いてしまった話。
逃げ出した贄を必死で探す村があるらしい、という内容だった。
「必ず護るから」
陽和の指が傷になっていないことを確認して、近くの椅子に腰掛け寝顔を見つめる。
月は雲で覆われ、光がわずかにもれるだけだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
人知れず事件を片づける話にしてみました。
まだ不穏さは残しつつ、若干手探りです…。
リーゼが目を覚ましたとき、そこに陽和の姿はなかった。
慌てて探すと、花に水をやっているのを見つける。
「あ…おはようございます」
「おはよう」
陽和は少しびくびくしながらぎこちない挨拶をする。
何か怒らせるようなことをしたかもしれないと不安になっている陽和に、リーゼは落ち着いた笑みで腕を伸ばした。
「別に怒っているわけじゃない。いなかったから探していただけ」
「そうだったんですね…。あの、ご飯できてます」
「ありがとう。一緒に食べてくれる?」
「は、はい」
喜びが隠しきれていない陽和の姿を微笑ましく思いながら、束の間の休息を楽しんだ。
──その日の夕方、クロウが新聞を運んでくる。
「これは…」
一面を見た瞬間、リーゼは眉をひそめた。
「どうかしたんですか?」
「物騒な事件がおこっているなと思っただけ。…あまり見ない方がいいと思う」
「少しでいいので、読んでもいいですか?勉強になりますし、リーゼが知っていることを私も知りたいので…」
こんなふうに頼まれるとリーゼは弱い。
少しずつ読み書きの応用を教えているところだったし、社会を知るという意味では新聞に目を通すのもいいはずだ。
「気分が悪くなったらすぐやめて。約束」
「分かりました。ありがとうございます」
そこに載っていたのは、吸血鬼事件の新たな被害者が出たという内容だ。
リーゼは不安だった。
もしこの記事を見て、陽和がヴァンパイアに対して恐怖心を抱いてしまったら一緒にはいられない。
陽和は開口一番、恐怖を口にした。
「やっぱり人間って怖いですね」
「……え?」
「何か都合が悪いことがあると、すぐ誰かのせいにするから…。本当に吸血鬼がやっているかなんて分からないのに、どうしてこんな記事を書くんでしょうか?」
呆然とするリーゼにさらに言葉を続ける。
「人間を無差別に襲うのはドラキュラなので、ヴァンパイアとまとめられた呼び方の吸血鬼っていうのは間違っていると思います。
…私だって人間じゃないから、私みたいな人がやったことかもしれませんし…」
「あなたは人間でしょ?」
「い、生贄は人間じゃないって村の人たち、が……」
陽和はそこまで話したところで、とても苦しそうに胸を押さえてその場にしゃがみこむ。
「大丈夫。ゆっくり息をして。ここに怖い人たちは来ないから」
「は、はい……」
リーゼはどう恐怖心を和らげるか考えた結果、何かの拍子に切ってしまったらしい陽和の指をくわえる。
軽く吸血すると、陽和はぼんやりしたようにリーゼを見た。
「今夜はそのまま眠って。具合が悪いときは休むのが1番だから」
「……はい」
その場に倒れこんだ陽和の体をベッドに寝かせ、そっと頭を撫でて家を出る。
クロウに新聞を預けた人物に会いに行くためだ。
「おや、早かったね。お嬢さんは?」
「今は寝てる」
「もしかして、催眠でも使った?」
「それほど強いものじゃない」
ヴァンパイアの吸血には様々な効果がみられるといわれている。
実際、リリーは身体強化だけでなく周囲を凍らせることができるし、リーゼは催眠をかけることができるのだ。
得手不得手はあるが、ヴァンパイアなら持っていることが多いだろう。
「あれが犯人?」
「正確には、犯人のうちのひとりだ。やっぱり君はすごいね。僕だけじゃ分からなかった」
目と鼻の先にいる犯人に、リーゼは思いきり殴りかかる。
吸血しているためか、いつもより威力が強い。
「僕の出る幕はなさそうだ」
「あなたが手錠をかけてくれないと困る」
「それもそうか。…それに、そこの人間たちには黙ってもらわないと」
相手が反撃する間もなく、辺り一面銀世界が広がる。
他の人間に見られてしまえば終わりだが、人間たちが滅多に近づかない森の近くなら心配する必要もないだろう。
「ば、化け物…」
「……へえ?平然と人間を殺したおまえがそれを言うのか」
リリーの目は笑っていない。そのまま放っておくと眼光だけで人間たちを殺せそうだ。
だが、彼女がそんなことをしないとリーゼはよく知っている。
「それじゃあ、私はこれで」
「ああ。来てくれてありがとう」
人知れずひっそり事件を片づけ、再び森の奥へ戻る。
陽和をひとりにしてきたことが心配でたまらなかったが、まだすやすやと寝息をたてて眠っていた。
「…ごめんなさい」
誰に言うでもなく、リーゼは小さく呟く。
ただ静かに暮らすことがこんなにも難しいなんて、彼女は想像していなかったのだ。
町の方を通ったとき、偶然聞いてしまった話。
逃げ出した贄を必死で探す村があるらしい、という内容だった。
「必ず護るから」
陽和の指が傷になっていないことを確認して、近くの椅子に腰掛け寝顔を見つめる。
月は雲で覆われ、光がわずかにもれるだけだった。
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人知れず事件を片づける話にしてみました。
まだ不穏さは残しつつ、若干手探りです…。
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