物置小屋

１人向け・慰め系

生きた証は(黄泉行列車)

こんばんは。お客様、飲み物はいかがですか？
あなたが召し上がりたいものをなんでも仰ってください。
…もう、好きなものを我慢しなくていいんですよ。
思い出されましたか？そう、あなたは今朝お亡くなりになりました。
恥ずかしい？何がですか？…私はそうは思いません。
薬を使って治療するのも、できるだけ穏やかな最期を迎えるのも、本人の意志が尊重されていれば素敵だと思います。
この列車には様々な事情で亡くなられた方が乗車されますが、私は懸命に生きたお客様を尊敬しています。
勿論、あなたのこともです。
1日中ベッドに横たわっていたとしても、あなたといられて幸せだったと話しておられる方がいらっしゃいました。
…この方です。あなたの旦那様です。
治療をやめたい、別れて自由になってほしいと言われたときは悲しかったと。
…ただ、絶対に別れたくなかったから、それ以外はやりたいことを叶えたいと思っていたようです。
申し訳ありません。私には生者の声を届けるのが向いていないようです。
礼を言われるほどのことはしていません。私はただ、治療から逃げたと思っていらっしゃるあなたに自信を持ってほしいのです。
懸命に生きた自分自身を責めないで、旦那様があなたを大切に想っていたことを忘れないでほしい。
…それが、私の願いです。
少しでも長く生きようと、投薬をやめてからもあなたなりに努力されていたのでしょう？
ご主人はそれをご存知のようでした。
私はあくまでこの列車の車掌でしかありませんので直接話すことはできませんが、声を聞いてお客様に届けることはできます。
あなたに、頑張ってくれてありがとうと伝えたかったそうです。
…飲み物ですか？すぐにお持ちします。
おまたせいたしました。…ご主人が、あなたはりんごジュースが好きだったからと沢山用意していらっしゃいましたので…。
映像で見ただけなので。らしいとしかお伝えできず申し訳ありません。
役に立てたのでしたらよかったです。
それでは、最後の旅をお楽しみくださいませ。


…今日は病死の車両だったな。それにしても、あんなにお礼を言われることってあんまりないかも。
俺には死者を運ぶことしかできないけど、せめて最後の旅を支えられているといいな。
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黄泉行列車で綴ってみました。