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物語の欠片
バニラとチョコとストロベリー(バレンタイン・バニスト)※GL表現を含みます
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「清香」
「奏……」
ふたりは今、奏の部屋で休んでいる。
月曜日で平日にも関わらず、だ。
「本当にいいんだね?」
「うん。今日はもう行きたくない」
事の発端は金曜日の午後。
「朝倉さん、その…もしよかったら、受け取ってください」
「ごめん。僕、こういうものは受け取らないことにしてるんだ。
委員会の子たち以外からは受け取らないって決めてるんだ」
同級生からチョコレートを渡されそうになった奏は拒否した。
「朝倉さんって感じ悪……」
「折角イケメンがくれるって言ってるのに、何あの態度」
そんなことを言われてもと奏は内心苦笑した。
トラブルを避けるためというのもあるが、できるだけ清香以外からのチョコレートは受け取りたくないと考えていたのだ。
その足で生徒会室に向かおうとすると、清香が数人の男子に囲まれて困っているのが目に入った。
「いいじゃないですか会長さん」
「そうそう。今の時代男子からチョコ渡すこともありますって」
「申し訳ありませんがお受け取りできません」
清香もまた奏以外からはできる限りチョコを受け取らないようにしていた。
その理由は明白だ。
「見てあれ、調子乗りすぎでしょ」
「生徒会長なら受け取ればいいのに」
最近の清香はいい子モードを消耗しすぎているのが奏の目からは分かっていた。
このままでは清香が壊れてしまう…そう考えた奏は男子生徒たちとの間に立つ。
「何してるの?こんなに嫌がってるのに」
「はあ?あんたに関係ないし」
引く気がなさそうな男たちに奏はいつもより低い声で警告した。
「……人に嫌な思いをさせる趣味でもあるのか?」
「なっ…くそ!」
投げつけられた箱の中身はお菓子ではなく大きな鉄くずのようなもので、顔面に思いきり当たった奏はその場にうずくまる。
その後すぐ別の生徒たちによって呼ばれた教師がやってきたが、清香の顔は真っ青だった。
「奏…!」
「僕は大丈夫。怪我はない?」
「私は平気だけど、奏に命中してしまったでしょう?…ごめんなさい」
それからもごめんなさいと小さく呟く清香に、奏は優しく微笑みかけた。
その日の傷は思ったより深く、打ちつけたところより切れた場所が深かったらしい。
男子生徒たちは遊び半分で受け取ってもらえるか試そうとしたことが分かったと学校の教師から連絡があった。
「…ねえ、清香。折角バレンタインなのに、何もしないのは嫌だ」
「何をするの?」
「これ。本当はもっと早く渡す予定だったんだけど…休むならこれくらいは許されるよね?」
事前に用意していたチョコレートを渡すと、清香は目に涙を浮かべながら一口ほおばる。
「どう?」
「美味しい。…ありがとう奏」
ほっとしていると、清香のポケットからも小さな箱が現れる。
「あんまり上手に作れなかったけど、よければどうぞ」
「ありがとう。いただきます」
口の中に甘さが広がり、頬の痛みなんて消し飛んでしまった。
「美味しい。清香は料理上手だね」
「奏の方が上手だよ」
清香が上手く肩の力を抜けていそうな姿に安堵しつつ、奏は別のチョコレート菓子をつまむ。
「…気持ちを伝える日をないがしろにする人たちなんて許せない」
「奏、本当に──」
「もう謝らないで。折角こんな素敵な日になったんだから、それでいいんだ。
清香に怪我がないならそれでいいし、僕が護ったんだって思ったら嬉しくなる」
つまんだチョコレート菓子を清香の口に持っていくと、そのままぱくりと消えていく。
「…ね、甘いでしょ?」
奏のお茶目な姿にどきどきしながら、清香も負けじと奏にチョコレートを食べさせる。
そんなことの繰り返しで、ふたりきりの部屋は幸福に包まれた。
「来年もこんなふうに過ごしたいな」
「そうだね」
来年は誰かの想いを踏みにじろうとする輩が現れないことを願いながら指先を絡める。
今この瞬間が何より甘いのだとふたりは感じていた。
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バニスト、バレンタインの話にしてみました。
「奏……」
ふたりは今、奏の部屋で休んでいる。
月曜日で平日にも関わらず、だ。
「本当にいいんだね?」
「うん。今日はもう行きたくない」
事の発端は金曜日の午後。
「朝倉さん、その…もしよかったら、受け取ってください」
「ごめん。僕、こういうものは受け取らないことにしてるんだ。
委員会の子たち以外からは受け取らないって決めてるんだ」
同級生からチョコレートを渡されそうになった奏は拒否した。
「朝倉さんって感じ悪……」
「折角イケメンがくれるって言ってるのに、何あの態度」
そんなことを言われてもと奏は内心苦笑した。
トラブルを避けるためというのもあるが、できるだけ清香以外からのチョコレートは受け取りたくないと考えていたのだ。
その足で生徒会室に向かおうとすると、清香が数人の男子に囲まれて困っているのが目に入った。
「いいじゃないですか会長さん」
「そうそう。今の時代男子からチョコ渡すこともありますって」
「申し訳ありませんがお受け取りできません」
清香もまた奏以外からはできる限りチョコを受け取らないようにしていた。
その理由は明白だ。
「見てあれ、調子乗りすぎでしょ」
「生徒会長なら受け取ればいいのに」
最近の清香はいい子モードを消耗しすぎているのが奏の目からは分かっていた。
このままでは清香が壊れてしまう…そう考えた奏は男子生徒たちとの間に立つ。
「何してるの?こんなに嫌がってるのに」
「はあ?あんたに関係ないし」
引く気がなさそうな男たちに奏はいつもより低い声で警告した。
「……人に嫌な思いをさせる趣味でもあるのか?」
「なっ…くそ!」
投げつけられた箱の中身はお菓子ではなく大きな鉄くずのようなもので、顔面に思いきり当たった奏はその場にうずくまる。
その後すぐ別の生徒たちによって呼ばれた教師がやってきたが、清香の顔は真っ青だった。
「奏…!」
「僕は大丈夫。怪我はない?」
「私は平気だけど、奏に命中してしまったでしょう?…ごめんなさい」
それからもごめんなさいと小さく呟く清香に、奏は優しく微笑みかけた。
その日の傷は思ったより深く、打ちつけたところより切れた場所が深かったらしい。
男子生徒たちは遊び半分で受け取ってもらえるか試そうとしたことが分かったと学校の教師から連絡があった。
「…ねえ、清香。折角バレンタインなのに、何もしないのは嫌だ」
「何をするの?」
「これ。本当はもっと早く渡す予定だったんだけど…休むならこれくらいは許されるよね?」
事前に用意していたチョコレートを渡すと、清香は目に涙を浮かべながら一口ほおばる。
「どう?」
「美味しい。…ありがとう奏」
ほっとしていると、清香のポケットからも小さな箱が現れる。
「あんまり上手に作れなかったけど、よければどうぞ」
「ありがとう。いただきます」
口の中に甘さが広がり、頬の痛みなんて消し飛んでしまった。
「美味しい。清香は料理上手だね」
「奏の方が上手だよ」
清香が上手く肩の力を抜けていそうな姿に安堵しつつ、奏は別のチョコレート菓子をつまむ。
「…気持ちを伝える日をないがしろにする人たちなんて許せない」
「奏、本当に──」
「もう謝らないで。折角こんな素敵な日になったんだから、それでいいんだ。
清香に怪我がないならそれでいいし、僕が護ったんだって思ったら嬉しくなる」
つまんだチョコレート菓子を清香の口に持っていくと、そのままぱくりと消えていく。
「…ね、甘いでしょ?」
奏のお茶目な姿にどきどきしながら、清香も負けじと奏にチョコレートを食べさせる。
そんなことの繰り返しで、ふたりきりの部屋は幸福に包まれた。
「来年もこんなふうに過ごしたいな」
「そうだね」
来年は誰かの想いを踏みにじろうとする輩が現れないことを願いながら指先を絡める。
今この瞬間が何より甘いのだとふたりは感じていた。
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バニスト、バレンタインの話にしてみました。
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