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物語の欠片
秘密から始まる関係性・後篇(続きです)
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いつもならここで事務的な説明をして、そのまま幽冥への扉を開けば終わる…はずなのに。
どうしてこんな気持ちになるんだろう。
「やっちん?」
「…どうして」
こんなことを訊いちゃいけない。
答えを知れば知る前には戻れなくなる。
それでも、1度出した言葉を止めることはできなかった。
「どうして死んだの?前を向いて生きるって言ってたのに」
「……なんだ、やっぱり気づいてたんだ」
この門番という当番がハロウィンしかないのは、1年で最も生死の境目が曖昧になるからだ。
幽冥までの道で迷ってしまった者を導く…それが今日の僕の仕事で。
だから、こんなふうに再会しちゃいけなかった。
「やっちんに今ならまだ生きられるって言われた後、手術は受けたんだ。だけど、退院から3日後くらいかな?
…転んだ男の子を突き飛ばしたら、突っ込んできたトラックに轢かれちゃった」
長田雪が昔からついていなかったことは知っている。
たまたま体が弱くて、たまたま消えたいと感じて屋上にいて…たまたまそこに僕がいた。
『飛び降りるの?』
『え?』
『明日は移動図書館が来るから、面白い本が見つかるかもしれないのに』
『…明日もあなたが会ってくれるなら今日はやめておこうかな。私は長田雪。あなたは?』
『僕は……』
退院できなかった僕とは違い、元気になって出ていった。
もう二度と会うこともないだろうと思っていたのに、目の前に現れられたらこの想いを届けずにいられるわけないじゃないか。
「僕は君に、幸せでいてほしかったんだ。生きていてほしかった。
死んでからも君のことを忘れたことなんてなかった。どうしてるか心配だった」
「…やっちんが死んだって聞いて、すごく悲しかった。だから、少しでも可能性があるなら会いに行ってみようと思ったの。
私に生きる希望をくれてありがとう。おかげで最期は人助けまでできたよ」
だけど、今の僕は雪が知るやっちんではなく『黄泉行列車車掌の矢田ノア』だ。
「…こっち」
「え?」
「大丈夫。また会えるから」
心配そうにこちらを見つめる彼女の背中を押し、強引に扉を閉める。
「…僕と一緒にいてくれてありがとう」
「また会えるよね?」
「…それは、ハロウィンの夜が終われば分かるよ」
さようなら。世界でたったひとり、僕のことをやっちんなんてあだ名で呼ぶ人。
願わくば、いつか生まれ変わった君が幸せな人生を歩めますように。
──なんて思っていたのに。
「彼女は新人です。これからはパートナーとしてふたり仲良くお願いしますね」
全ての黄泉行列車を監督しているリーダーから、ある女性を紹介される。
「どうして……」
「リーダーさん?にお願いしたんだ。やっちんと離れ離れにしないでくださいって」
リーダーはにこりと笑ったまま、車掌服に身を包んだ雪が僕の手を握る。
「再会したふたりを引き裂くような真似はできませんよ」
「リーダー…」
リーダーの計らいに感謝しつつ、仕事について説明する。
「僕たちの仕事は、黄泉行列車の運行とお客様への対応。運転は運転手がしてくれるけど、お客様は全員死者だ。
他に分からないことがあればそれは追々説明していくよ。今の僕の担当はこの車両だから、しっかりついてきて」
「分かりました。よろしくね、やっちん」
「やっちんって呼ぶのはふたりのときだけにして」
「ふたりきりだといいの?」
あたふたしている矢田ノアと楽しそうに笑う長田雪。
そんなふたりを見て、リーダーは少しずつ距離をとりながら微笑む。
願わくば、ふたりの互いの想いが伝わるように。
……いつかあの人と再会できますようにと。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
若干迷子になってしまいましたが、なんとか完成させることができました。
癒やし屋の彼の本職は、死者の列車の車掌です。
ハロウィンの夜は当番制で様々な役割を担っています。
もう二度と会えないと思っていたふたりが、死んでからも一緒にいられる…ある意味願いが叶った形になりました。
どうしてこんな気持ちになるんだろう。
「やっちん?」
「…どうして」
こんなことを訊いちゃいけない。
答えを知れば知る前には戻れなくなる。
それでも、1度出した言葉を止めることはできなかった。
「どうして死んだの?前を向いて生きるって言ってたのに」
「……なんだ、やっぱり気づいてたんだ」
この門番という当番がハロウィンしかないのは、1年で最も生死の境目が曖昧になるからだ。
幽冥までの道で迷ってしまった者を導く…それが今日の僕の仕事で。
だから、こんなふうに再会しちゃいけなかった。
「やっちんに今ならまだ生きられるって言われた後、手術は受けたんだ。だけど、退院から3日後くらいかな?
…転んだ男の子を突き飛ばしたら、突っ込んできたトラックに轢かれちゃった」
長田雪が昔からついていなかったことは知っている。
たまたま体が弱くて、たまたま消えたいと感じて屋上にいて…たまたまそこに僕がいた。
『飛び降りるの?』
『え?』
『明日は移動図書館が来るから、面白い本が見つかるかもしれないのに』
『…明日もあなたが会ってくれるなら今日はやめておこうかな。私は長田雪。あなたは?』
『僕は……』
退院できなかった僕とは違い、元気になって出ていった。
もう二度と会うこともないだろうと思っていたのに、目の前に現れられたらこの想いを届けずにいられるわけないじゃないか。
「僕は君に、幸せでいてほしかったんだ。生きていてほしかった。
死んでからも君のことを忘れたことなんてなかった。どうしてるか心配だった」
「…やっちんが死んだって聞いて、すごく悲しかった。だから、少しでも可能性があるなら会いに行ってみようと思ったの。
私に生きる希望をくれてありがとう。おかげで最期は人助けまでできたよ」
だけど、今の僕は雪が知るやっちんではなく『黄泉行列車車掌の矢田ノア』だ。
「…こっち」
「え?」
「大丈夫。また会えるから」
心配そうにこちらを見つめる彼女の背中を押し、強引に扉を閉める。
「…僕と一緒にいてくれてありがとう」
「また会えるよね?」
「…それは、ハロウィンの夜が終われば分かるよ」
さようなら。世界でたったひとり、僕のことをやっちんなんてあだ名で呼ぶ人。
願わくば、いつか生まれ変わった君が幸せな人生を歩めますように。
──なんて思っていたのに。
「彼女は新人です。これからはパートナーとしてふたり仲良くお願いしますね」
全ての黄泉行列車を監督しているリーダーから、ある女性を紹介される。
「どうして……」
「リーダーさん?にお願いしたんだ。やっちんと離れ離れにしないでくださいって」
リーダーはにこりと笑ったまま、車掌服に身を包んだ雪が僕の手を握る。
「再会したふたりを引き裂くような真似はできませんよ」
「リーダー…」
リーダーの計らいに感謝しつつ、仕事について説明する。
「僕たちの仕事は、黄泉行列車の運行とお客様への対応。運転は運転手がしてくれるけど、お客様は全員死者だ。
他に分からないことがあればそれは追々説明していくよ。今の僕の担当はこの車両だから、しっかりついてきて」
「分かりました。よろしくね、やっちん」
「やっちんって呼ぶのはふたりのときだけにして」
「ふたりきりだといいの?」
あたふたしている矢田ノアと楽しそうに笑う長田雪。
そんなふたりを見て、リーダーは少しずつ距離をとりながら微笑む。
願わくば、ふたりの互いの想いが伝わるように。
……いつかあの人と再会できますようにと。
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若干迷子になってしまいましたが、なんとか完成させることができました。
癒やし屋の彼の本職は、死者の列車の車掌です。
ハロウィンの夜は当番制で様々な役割を担っています。
もう二度と会えないと思っていたふたりが、死んでからも一緒にいられる…ある意味願いが叶った形になりました。
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