物置小屋

黒蝶

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物語の欠片

パンプキンライトの下で(ラピスラズリの月光の続き)

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「収穫祭?」
陽和は目をきらきらさせながらリーゼの話を聞いている。
「街に色々な露店が並んでいて、みんな着飾ったり…私も詳しいことは知らないけど、楽しいものだってことは分かる」
「そんなものがあるなんて知りませんでした…」
陽和は最低限の読み書きはできるものの、外の世界についての知識はほとんどない。
本から得た知識はあるものの、どれも実際に見たことがなかった。
「……行ってみたい?」
「いいんですか?」
「仕事終わりなら」
「ありがとうございます」
わくわくした様子を隠しきれていない陽和を前に、リーゼは思わず微笑んだ。
その笑顔がこの世のものとは思えないほど輝いていて、陽和はまたリーゼをじっと見てしまう。
「……?どうかした?」
「いえ、なんでもありません」
「洋服は私が持っているものをいくつか貸すから、仕立て屋が来るまでそれで我慢して」
「…ごめんなさい」
「どうして謝るの?」
「貰ってばかり、なので」
今までさんざん人間たちに虐げられてきた陽和からすればそうかもしれない。
だが、リーゼからすればそれは息をすることほど当たり前のことだった。
「私が世話を焼きたいだけなの。それに、あなたにはここの掃除を請け負ってもらっているからそのお礼」
「ごめんなさ…ありがとうございます、リーゼさ、」
「……リーゼ」
「え?」
「リーゼでいい。さんなんて言われると距離を感じるから」
「分かりました。えっと、リーゼ…?」
少し恥ずかしそうに名前を呼ぶ陽和を見ていると、なんだか照れくさくなってしまう。
「これを着て待ってて。すぐ戻る」
「はい。いってらっしゃい」
窓の外に烏の姿を捉えたリーゼはそのまま外に出る。
「おかえりなさい、クロウ」
頭を慎重に撫で、持ち帰られた手紙に目を通す。
その内容は、訝しげな表情にならざるを得ないものだった。
「ただいま」
「お、おかえりなさい」
オレンジと白のワンピースに可愛らしいとんがり帽子…そして、足元まで隠れるローブを羽織ってリーゼの隣に立った。
「着方、これで合ってますか?」
「うん。すごく似合ってる」
「ありがとうございます」
リーゼが笑ってくれるのが嬉しくて、陽和もぎこちなく微笑みかえす。
「行こう」
「は、はい」
外に出るのは不安だったが、リーゼが一緒にいてくれれば大丈夫な気がしている。
真っ黒なローブを羽織ってフードをかぶったリーゼの表情は見えなかったが、手を繋いでいるのを嫌がっていないことだけは理解した。
「その明かり、綺麗ですね」
「ランタン。今日はかぼちゃの形のものを持ってるけど、普段は玄関に置いてあるものを使ってる」
「あっちのお店にあるのもランタンですか?」
「あれはお菓子を入れるためのバケツ。色々な楽しみ方があるけど、私も人と話すのは得意じゃないから…」
リーゼはなんでも完璧にこなしているように見えるのに、苦手なものがあるなんて陽和からすれば吃驚だった。
自分も人と話すのが苦手な陽和は、賑やかにしている人間が沢山歩く今の状況さえ怖く感じている。
「…具合悪い?」
「いえ、大丈夫です……」
我慢しようと思っていたが、ふらつく足で立っていることはできなかった。
「無理しなくていい。すぐ近くに休める場所があるから」
「ごめんなさい…」
折角用意してくれていたのに、それを台無しにしてしまったんじゃないか…その申し訳なさでいっぱいになっている陽和をリーゼは軽々抱きあげた。
「眠かったら寝てていい。休める場所まで運ぶ」
陽和が小さく頷いたのを確認して、人間の世界での隠れ家に向かう。
人がもっといない日に連れだせばよかったと後悔しながら、リーゼは足早に人間たちをかき分け歩いた。


森の入り口近くにある小さな家、ベッドに横たわらせた陽和の顔は真っ青だ。
ただ見ていることしかできないのを申し訳なく思っているリーゼの肩を、背後から優しくたたく人物がいた。
「大丈夫かい、お嬢さん方?」
「……ふざけているの?」
中性的な見た目をした警官は、友人にだけ見せる笑顔でリーゼの隣に腰掛けた。
「ごめん。そんなつもりはなかったんだ」
「手紙は読んだ。私はどうすればいいの、スノウリリー」
スノウリリーと呼ばれたその人物は、困ったような表情を向けながらぽつりと呟いた。
「連続殺人事件の真犯人を捕まえてほしい。勿論、いつもどおり私たちがヴァンパイアだと知られないように気をつけながら。
今月だけでもう13件、犯行ペースが上がってきてるんだ」
「…できるだけやってみる」
銀髪に深紅の瞳を持つヴァンパイアの依頼を秘密裏に解決する、それがリーゼの仕事だ。
「そろそろ巡回に戻るね」
「…またねリリー」
陽和の手を握ったまま、リーゼはスノウリリーが置いていった事件の資料に目を通す。
これを食い止められれば、もしかすると忌まわしい風習を復活させようとしている人物に近づけるかもしれない。
そうすればきっと陽和の幸せが広がるはずだから。


──紅き月の日に生まれ、紅き月の日に力を発揮できるのが素晴らしいヴァンパイアの証である。
黄色い月の日に生まれたものは平凡である。
白き月の日に生まれたものは異端である。
…そして、蒼き月の日に生まれたものは忌まわしき存在となるだろう。
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ハロウィンもどきの話にしてみました。
『ラピスラズリの月光』に登場した手紙の宛名にも意味があったりします。
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