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物語の欠片
雨の日、温めた想い※異性同士以外の恋愛表現あり(幼馴染・ボディーガード)
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「翔吾、お待たせ」
「全然待ってないよ。行こうか姫乃」
「うん」
香坂姫乃をストーカーから護るため、登下校時はボディガードがついている。
爽やか眼鏡の片桐翔吾は、姫乃の恋人……役を今日も演じていた。
「なんで俺のこと置いていこうとしてるんだよ」
「ごめん。置いていくつもりじゃなかったんだけど、その……」
「…悪い。俺の方が邪魔だったな」
スポーツ万能な畠中悠陽は、申し訳なさそうに少し後ろに下がる。
きゃあきゃあ騒ぐ女子生徒たちを悠陽のギロリと光る目が捉えると、一瞬で道ができた。
「駄目だよ悠陽。そんなふうに女の子たちを怖がらせちゃ…」
「広がられてると通れないだろ。…団子食べたいな」
「どうしたの、急に…悠陽は本当に食べるの好きだよね」
今の会話ひとつで翔吾は理解した。
悠陽は別に女子生徒たちを睨んだわけではない。…その後ろにいた怪しい影に注意していたのだと。
「今日は迎えが来るの?」
「うん。お兄ちゃんが来てくれるはずなんだけど…」
ふたりが話すのを悠陽はただ見つめている。
本来であれば自分が隣で話していたはずなのに…そんな想いを胸に仕舞ったまま、背後から視線を感じてふたりから更に距離をとった。
「悪い、忘れ物したから先に帰っててくれ」
「そうなの?じゃあ迎えが来たら帰るね」
「ああ」
生徒玄関まで戻ろうとする悠陽の手を翔吾が掴む。
「ひとりで大丈夫そう?」
「余裕だ」
「分かった。気をつけて」
悠陽はそのまま玄関で止まり、相手に拳をおみまいする。
「い、いきなり何を、」
「今撮ったもん見せろ」
「はあ?」
「この場で消したら黙っててやる」
相手は怯えた様子でスマートフォンを悠陽の前に置く。
そこには、大量の姫乃の隠し撮り写真が入っていた。
「他はないんだろうな?」
「は、はい!」
「…本当に好かれたいなら正々堂々勝負しろ。相手を怯えさせてどうするんだよ」
「す、すみませんでした」
猛ダッシュで去っていく背中を見送っていると、後ろからいきなり抱きつかれる。
「お疲れ様。組織のメンバーだったみたいだね」
「ああ。何も聞き出せなかったけど、ボスに辿り着くにはまだ時間がかかりそうだ。
…それはさておき、一旦離れてくれないか?」
「やだ」
先程までの爽やかさはどこへやら、翔吾は悠陽から離れようとしない。
「まだ学校だから」
「分かったよ…」
「そんなに俺に構ってほしかったのか?」
「当たり前でしょ。これでも俺、ずっと我慢してたんだから」
ふたりが仲良く話しているのを、姫乃は車の中から見て微笑んだ。
香坂姫乃は知っている。自分の幼馴染ふたりが恋人同士であることを。
「姫乃はもう帰ったのか?」
「勿論!仕事はばっちり終わらせてきたよ」
「よくできました」
悠陽が頭を撫でると、翔吾はぱっと目を輝かせて抱きついた。
「俺らも帰るぞ」
「うん!」
早くふたりで話したいと思っていたなんて、口が裂けても言えない。
それでも、相合い傘をしているだけで鼓動が高鳴ってしまうのだ。
「どうしたの?」
「なんでもない。今から俺んちで明日の警護のこととか、会議するか」
「え、悠陽の家に行っていいの!?」
「おまえの家はご両親がいるだろ。俺はひとり暮らしだし、誰かが来る心配もないから」
「やった、悠陽とふたりきりだ!」
翔吾は悠陽にくっついて離れようとしない。
悠陽は息を吐きながら、そっと指を絡めた。
「…くっつくのは家まで我慢しろ、翔吾」
「うん、分かった」
姫乃以外は知らないであろう、ふたりの関係。
ひどくなる雨のなか、ひとつの傘の下身を寄せ合いながら一気に踏切を駆け抜けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そっちか…というふうになるよう綴ってみました。
注意書きでバレバレにはなってしまうのですが、如何でしたでしょうか…?
「全然待ってないよ。行こうか姫乃」
「うん」
香坂姫乃をストーカーから護るため、登下校時はボディガードがついている。
爽やか眼鏡の片桐翔吾は、姫乃の恋人……役を今日も演じていた。
「なんで俺のこと置いていこうとしてるんだよ」
「ごめん。置いていくつもりじゃなかったんだけど、その……」
「…悪い。俺の方が邪魔だったな」
スポーツ万能な畠中悠陽は、申し訳なさそうに少し後ろに下がる。
きゃあきゃあ騒ぐ女子生徒たちを悠陽のギロリと光る目が捉えると、一瞬で道ができた。
「駄目だよ悠陽。そんなふうに女の子たちを怖がらせちゃ…」
「広がられてると通れないだろ。…団子食べたいな」
「どうしたの、急に…悠陽は本当に食べるの好きだよね」
今の会話ひとつで翔吾は理解した。
悠陽は別に女子生徒たちを睨んだわけではない。…その後ろにいた怪しい影に注意していたのだと。
「今日は迎えが来るの?」
「うん。お兄ちゃんが来てくれるはずなんだけど…」
ふたりが話すのを悠陽はただ見つめている。
本来であれば自分が隣で話していたはずなのに…そんな想いを胸に仕舞ったまま、背後から視線を感じてふたりから更に距離をとった。
「悪い、忘れ物したから先に帰っててくれ」
「そうなの?じゃあ迎えが来たら帰るね」
「ああ」
生徒玄関まで戻ろうとする悠陽の手を翔吾が掴む。
「ひとりで大丈夫そう?」
「余裕だ」
「分かった。気をつけて」
悠陽はそのまま玄関で止まり、相手に拳をおみまいする。
「い、いきなり何を、」
「今撮ったもん見せろ」
「はあ?」
「この場で消したら黙っててやる」
相手は怯えた様子でスマートフォンを悠陽の前に置く。
そこには、大量の姫乃の隠し撮り写真が入っていた。
「他はないんだろうな?」
「は、はい!」
「…本当に好かれたいなら正々堂々勝負しろ。相手を怯えさせてどうするんだよ」
「す、すみませんでした」
猛ダッシュで去っていく背中を見送っていると、後ろからいきなり抱きつかれる。
「お疲れ様。組織のメンバーだったみたいだね」
「ああ。何も聞き出せなかったけど、ボスに辿り着くにはまだ時間がかかりそうだ。
…それはさておき、一旦離れてくれないか?」
「やだ」
先程までの爽やかさはどこへやら、翔吾は悠陽から離れようとしない。
「まだ学校だから」
「分かったよ…」
「そんなに俺に構ってほしかったのか?」
「当たり前でしょ。これでも俺、ずっと我慢してたんだから」
ふたりが仲良く話しているのを、姫乃は車の中から見て微笑んだ。
香坂姫乃は知っている。自分の幼馴染ふたりが恋人同士であることを。
「姫乃はもう帰ったのか?」
「勿論!仕事はばっちり終わらせてきたよ」
「よくできました」
悠陽が頭を撫でると、翔吾はぱっと目を輝かせて抱きついた。
「俺らも帰るぞ」
「うん!」
早くふたりで話したいと思っていたなんて、口が裂けても言えない。
それでも、相合い傘をしているだけで鼓動が高鳴ってしまうのだ。
「どうしたの?」
「なんでもない。今から俺んちで明日の警護のこととか、会議するか」
「え、悠陽の家に行っていいの!?」
「おまえの家はご両親がいるだろ。俺はひとり暮らしだし、誰かが来る心配もないから」
「やった、悠陽とふたりきりだ!」
翔吾は悠陽にくっついて離れようとしない。
悠陽は息を吐きながら、そっと指を絡めた。
「…くっつくのは家まで我慢しろ、翔吾」
「うん、分かった」
姫乃以外は知らないであろう、ふたりの関係。
ひどくなる雨のなか、ひとつの傘の下身を寄せ合いながら一気に踏切を駆け抜けた。
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そっちか…というふうになるよう綴ってみました。
注意書きでバレバレにはなってしまうのですが、如何でしたでしょうか…?
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