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物語の欠片
彩づく世界(不思議な出会い)
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「そんな場所に立っていたら危ないよ」
橋を越えようとした少女に、眼鏡をかけた男が声をかける。
「お願いします。近づかないで」
「君の選択を曲げようとは思わない。ただ、何故そこから落ちようとしているのか知りたいんだ」
男の問いかけに少女は小さく答える。
「…もう、疲れたの。私はみんなみたいに上手にできない。
周りに合わせてにこにこして、いつも平気なふりをしながら笑って…誰も本当の私には辿り着けない」
少女の心は限界だった。
誰からも話を聞いてもらえず、いつも浴びせられるのは罵声だけ。
唯一心の支えだったものは修復できないほどずたずたに引き裂かれてしまった。
「私の小説、ごみって言われたの。私にとって世界と繋がる場所はここしかなかったのに」
「ここでその大切なものさえ捨ててしまったら、」
「やめて。もう後悔するとかあなたのためにとか、頑張れなんて言われたくない!」
男が差し伸べた手を少女はふりほどいた。
その衝撃で男の眼鏡が吹き飛ぶ。
「あ…ごめんなさい、そんなつもりじゃ、」
「大丈夫です。あなたの苦しみが少し理解できました」
男は微笑み、ゆっくり語りはじめる。
「あなたはきっと、頑張っても頑張っても報われなかったんでしょうね。
認められなくてもいいからせめて放っておいてほしい、けれど周囲はあなたに頑張れと言う。…僕は頑張った人に頑張れなんて言いません」
「どうして分かったの?」
少女は欄干にかけた足をおろし、男に引き寄せられるように一歩近づく。
「周囲と同じようになりたいと努力したからこそ、もう頑張れないと考えているのではないかと思ったんです。
そんな苦悩しているあなたが書く物語は、きっとごみなんかじゃない。そこに夢と希望がつまっているのでしょう?それなら一体、どこに後ろを向く必要があるんです」
男は優しく微笑み、少女の体を抱きしめた。
「大丈夫。あなたはちゃんと頑張っています。誰も肯定しなかったとしても、僕があなたを認めます。
今日までひとりで沢山戦って、傷ついて…本当によく頑張りました」
その言葉を聞いた少女の瞳から一筋の滴が流れる。
「…私がやったこと、無駄じゃなかったかな?」
「僕はそう思います」
「勉強も運動も容姿も…何をとっても人よりいいところなんてない。それでも私、生きていけるかな?」
「あなたのたったひとつを見失わないでください。そうすればきっと生きていけます」
「そっか。そうだといいな……」
少女の涙とともに雨が暗闇に降り注ぐ。
凍えた心を癒やすように、しとしとと降り続けた。
「ありがとう」
「いえ。僕はただ思ったことを言っただけですから。どうか本当の自分を見失わないでください。それでは失礼します」
「待って…!」
その声は届かなかったのか、先程までいたはずの男は闇に溶けるように消えてしまった。
足元に落ちていた眼鏡をかけて、少女はゆっくり顔をあげる。
「…もう少し、書いてみようかな」
びしょ濡れになった少女は家に戻らず、ひとりで暮らしているマンションの一室へと足を運ぶ。
眼鏡のおかげか、今までの世界よりずっと彩やかに見える気がした。
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漠然とですが綴ってみました。
橋を越えようとした少女に、眼鏡をかけた男が声をかける。
「お願いします。近づかないで」
「君の選択を曲げようとは思わない。ただ、何故そこから落ちようとしているのか知りたいんだ」
男の問いかけに少女は小さく答える。
「…もう、疲れたの。私はみんなみたいに上手にできない。
周りに合わせてにこにこして、いつも平気なふりをしながら笑って…誰も本当の私には辿り着けない」
少女の心は限界だった。
誰からも話を聞いてもらえず、いつも浴びせられるのは罵声だけ。
唯一心の支えだったものは修復できないほどずたずたに引き裂かれてしまった。
「私の小説、ごみって言われたの。私にとって世界と繋がる場所はここしかなかったのに」
「ここでその大切なものさえ捨ててしまったら、」
「やめて。もう後悔するとかあなたのためにとか、頑張れなんて言われたくない!」
男が差し伸べた手を少女はふりほどいた。
その衝撃で男の眼鏡が吹き飛ぶ。
「あ…ごめんなさい、そんなつもりじゃ、」
「大丈夫です。あなたの苦しみが少し理解できました」
男は微笑み、ゆっくり語りはじめる。
「あなたはきっと、頑張っても頑張っても報われなかったんでしょうね。
認められなくてもいいからせめて放っておいてほしい、けれど周囲はあなたに頑張れと言う。…僕は頑張った人に頑張れなんて言いません」
「どうして分かったの?」
少女は欄干にかけた足をおろし、男に引き寄せられるように一歩近づく。
「周囲と同じようになりたいと努力したからこそ、もう頑張れないと考えているのではないかと思ったんです。
そんな苦悩しているあなたが書く物語は、きっとごみなんかじゃない。そこに夢と希望がつまっているのでしょう?それなら一体、どこに後ろを向く必要があるんです」
男は優しく微笑み、少女の体を抱きしめた。
「大丈夫。あなたはちゃんと頑張っています。誰も肯定しなかったとしても、僕があなたを認めます。
今日までひとりで沢山戦って、傷ついて…本当によく頑張りました」
その言葉を聞いた少女の瞳から一筋の滴が流れる。
「…私がやったこと、無駄じゃなかったかな?」
「僕はそう思います」
「勉強も運動も容姿も…何をとっても人よりいいところなんてない。それでも私、生きていけるかな?」
「あなたのたったひとつを見失わないでください。そうすればきっと生きていけます」
「そっか。そうだといいな……」
少女の涙とともに雨が暗闇に降り注ぐ。
凍えた心を癒やすように、しとしとと降り続けた。
「ありがとう」
「いえ。僕はただ思ったことを言っただけですから。どうか本当の自分を見失わないでください。それでは失礼します」
「待って…!」
その声は届かなかったのか、先程までいたはずの男は闇に溶けるように消えてしまった。
足元に落ちていた眼鏡をかけて、少女はゆっくり顔をあげる。
「…もう少し、書いてみようかな」
びしょ濡れになった少女は家に戻らず、ひとりで暮らしているマンションの一室へと足を運ぶ。
眼鏡のおかげか、今までの世界よりずっと彩やかに見える気がした。
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漠然とですが綴ってみました。
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