物置小屋

１人向け・慰め系

最期に手に入れたもの(視える人)

...こんばんは。どうしてそんなに俯いているんですか？
失敗...それって一体どういうことですか？
そうですか...すみません、初対面の相手にそんなことをぺらぺらと話せませんよね。
それじゃあ、もし次に会う機会があって話したいと思ったら教えてください。
...それじゃあ、俺はこれで失礼します。


こんばんは。やっぱり今日もいた...いや、なんでもありません。
話してもらえませんか？俺じゃ何の力にもなれないかもしれないけど、どうしても放っておくことなんてできません。
話せることだけでいいので教えてもらえませんか？
...成程。つまりあなたはなりたいものになれなくて、自分が頑張っているのかも分からなくなって...それで未来に絶望しているんですね。
たとえば、どんなことをやってみたんですか？
え、そんなことまで!?...俺だったら、絶対そこまではできません。
それだけ叶えたい夢だったんですね。
...だからあなたは、この場所で自ら命を絶った。
ここを通る他の人たちはあなたを無視した訳じゃなくて、あなたのことが視えていないんです。
俺は普段から視えているからそんなに気にならないんですけど、あなたはどんな人と話をしたかったんですか？
誰でもよかったんなら俺でもいいのかもしれないけど、もしそうじゃないなら...これ、ですか？
...昔、俺には大切な相手がいたんです。
その人と話がしたくて、でももう今はできなくて...。
この懐中時計は、その人からもらった大切なお守りなんです。
...って、これの話じゃなくてあなたの話をしましょう。
俺はあなたみたいに夢を持っている訳じゃないし努力家でもないから、あなたのことを本当に尊敬します。
え、物語を自分で？
...聞かせてください。あなたの物語を聞いてみたいんです。

すごい...つい聞き入ってしまいました。
お世辞なんかじゃないです。
物語をちゃんと最後まで書いたんですね。
...あなたがやってきたことは、絶対に無駄になんかならない。
生きていようが死んでいようが、あなたが努力してきた時間はなかったことにはならないと思うんです。
誰も見ていなかったと言うなら、俺がずっと覚えてます。
だから...もしまた会えたら、聞かせてもらえませんか？
それじゃあ、そのときを楽しみにしています。
...いっちゃった。
そんな勇気が持てて羨ましいなんて言ったら怒られちゃうかな。
でも俺も勇気がほしい。...寂しい、君に会いたいよ。
ｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰ
私は何物にもなれませんでした。
なので、何かになりたかった人を綴ってみたかったのです。