物置小屋

１人向け・慰め系

伝え愛(失声症の恋人と)

おはよう。...そうか、今日は朝早くから出掛けないといけないんだっけ？
いただきます。...あれ？お弁当作ってくれたんだ...。
『時間があったから朝御飯のついでに作っておきました。温めて食べてね』
...優しいな。よし、俺もメモを残しておこう。
《君が作ってくれるご飯はいつも美味しいから、本当に感謝してます。
ありがとう》
...これでよし。それじゃあ、行ってきます。


ただいま。あの子は...まだ帰ってないのか。
...ん？『私も、あなたと過ごせるのはすごく楽しいです。食器も綺麗に片づけてくれてありがとう』
律儀だな...。でも、ありがとうって言ってもらえるのはすごく嬉しい。
《夕食は俺が作っておきました！
もし俺が出掛けてる間にお腹が空いたら先に食べててください。
あんまり上手にはできなかったけど...もし美味しくなかったらごめんね》
...さて。少しだけ仕事しようかな。

そろそろ帰ってくるはずだけど...あ、おかえり。
仕事に集中してて全然気づいてなかった...。
ねえ、今日は...もしかして疲れてる？
ごめん、一気に話しちゃって。急かすつもりはなかったんだ。
今の手の動き、『私は大丈夫だから』でしょ？...嘘は駄目だと思うな。
打ち合わせ、あんまり上手くいかなかったの？
違っ、馬鹿にしてるつもりじゃ...！
...泣かせちゃった。ご飯も食べずに待っててくれたのに、上手く伝えられなかったな...。
ねえ、ここを開けて？...どうしよう、内鍵がかかってる。
そうだ、これなら伝えられるかな。
ちゃんと話ができるかな？
《さっきは言い方が悪くてごめん。
あんな言い方をしたら、まるで責めてるみたいに思われても仕方ないよね。
でも、俺は君が心配です。
最近寝ずに家で頑張っていたのを知ってるから、なんとか力になりたかった。
それなのに、結局からぶっちゃって...もっと他に伝え方があったはずなのに。
ちゃんと話がしたいです。1回出てきてくれないかな？》
よし、これをこの隙間から入れれば...あ、拾ってくれた。
どうなんだろう、まだ怒ってるのかもしれない...。
ご飯、温め直して待っていようかな。

あ、やっと出てきてくれた。あの、さっきは...え、メモ帳？
『上手くいかなかった。街で嫌なこともあって気持ちの整理ができてなかった。
まるで、何もできないって言われているように感じてしまって...心配してくれてありがとうって素直に言えなかった。
当たり散らすみたいになってごめんなさい』
...そっか、上手くいかないとそういうときもあるよね。
特に、君の場合は声が出ないという特殊な事情がある。
残念なことに、それを理解できるような優しい社会じゃない。
でも、覚えておいてほしいんだ。
...さっき、君のいつもの担当さんから電話があったよ。
自分が行けなかったせいで、後輩が失礼なことを言って傷つけて申し訳なかったって。
少なくても、君の担当さんは君のことを理解しようとしてる。
...勿論、俺も理解したいと思ってる。
全部は無理でも、君の気持ちを知りたい。
本当はいつだって、頼ってほしいって思うんだ。
...俺には、こうやって面と向かって気持ちを伝える方が向いてるみたい。
ん？どうしたの？
『私のご飯が不味かったから作ってくれていたのかと思ってた』って...違うよ。
俺の方が早く帰ったし、君は疲れているだろうからって...。
それに、メモを置いてたでしょ？
...ああ、あそこまで飛んでる。ほら、これが俺の気持ち。
そっか、勘違いだったんだ...。
やっぱり、こうやって顔を合わせて話す方がいいっていうのを痛感したよ。
ちゃんと直接伝えるね。
君はいつも俺の為にって、ご飯やお弁当を用意してくれる。
それに、笑顔で出迎えてくれる...。
俺にとっては、その時間も大切なんだ。
でも、君だけに頑張らせたくない。
...抱きしめてもいい？ありがとう。
ねえ、大好きだよ。
君の気持ちも後で教えてね。
そろそろご飯を...そんなに服を強く握られたら、しばらく離してあげられそうにないな。
それじゃあ、もう少しこのままでいようか。
ｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰ
完璧迷子です、ごめんなさい。
これでいいのか？と思いつつなんとか完成させました。
伝え方って色々あるし、なかなか上手くいかないことも多いし...もどかしさとか、伝わったときの喜びを綴った...つもりです。