物置小屋

黒蝶

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1人向け・other

困っているときのお守り(失声症の恋人と...)

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おはよう。眠そうだね...。
まだ寝てても大丈夫だよ。
今の口の動きは、『もう起きる』でしょ?
大丈夫、全部は無理でも分かる部分だってあるから。
そんなに申し訳なさそうにしなくても、全然平気だよ。
今日はデートしようって話したんだったよね?楽しみだな...。
ご飯食べたら出掛けようか。


何か買いたいものってある?
『新しいメモ帳』...もうすぐなくなりそうなの?
そっか、それならちゃんと買っておかないとね。
もう少し時間かかりそうだけど...大丈夫?
顔色悪くない?
もしかして、いつもの発作?
えっと、それじゃあ鞄貸してくれる?...これでよし。
一応これをつけておけば安心でしょ?
ねえ、ウォークマンで何か音楽かけようか。そんなに不安そうにしなくても、俺は大丈夫だから。
さて...あの、そこの方々。
俺の恋人の悪口言うのやめてもらってもいいですか?
確かに彼女は筆談が必要だけど、別に耳が聞こえてないわけじゃないから...さっきの会話も全部聞こえてるんだけど。
傷つけて体調不良にした責任、とってくれる?
...なんてことは言わないから、同じような人を見ても二度と馬鹿にしないって約束して。
見た目では分からない病気をかかえて生きている人もいるんだから、支えあわないといけないと思うよ。
彼女は君たちに何かしてほしいとは思ってない。
だけど、誰だって傷つける人たちがいたら嫌でしょ?
あの...行っちゃった。謝ってたし、彼女だってきっとこれ以上のことは望まないよね。
ごめん、イヤホンしてるのを押さえちゃって...。
君に聞かせたくなかったんだ。
え、泣いてる!?ごめん、取り敢えずここで降りようか。
すみません、通してください...ありがとうございます。

大丈夫?ここなら静かだから、無理しないで休んでて。
疲れちゃったでしょ?目を閉じて...どうかした?
『寝かしつけないで』って...可愛い。
残念、君が眠ったらそのままタクシーで連れて帰ろうと思ってたのに...。
ごめんごめん、ノートの端は流石に痛いよ...。
こら、あんまりぺしぺししてくるならくすぐるよ?
よかった...少し楽になったみたいだね。
そんなに頭をさげなくても大丈夫だよ。
今日はもう帰ろうか。
ノートはまた今度にして...そういえば、どうして泣いてたの?
...ごめん、『私のせいで』っていうところまでしか読唇できなかった。
そんなに慌てなくても、俺はちゃんと待ってるから。
『私のせいで嫌な思いをさせたから』...君のせいじゃないよ。
ただ俺が許せなかっただけだから。
それに...こうやって話すの、俺はすごく楽しいよ。
あ、今のは手話の『ありがとう』だ。
君はいつも、『ありがとう』って伝えてくれるよね。
そういうの、すごく嬉しいな。
帰りも電車で大丈夫?...分かった、もし体調が悪くなったらすぐ教えてね。
もうすぐ電車くるけど...鞄開けておいてくれる?
マーク、仕舞っておくんでしょ?...はい、できたよ。それじゃあ乗ろうか。

駅に着くまで、こうやってふたりで音楽聞いていようか。
どうしたの、そんなに恥ずかしそうにして...片耳ずつやるの、照れちゃう?
実は俺も、ちょっと恥ずかしかったり...ん?どうしたの?
ああ、ごめんなさい!下向いてて全然気づいてなくて...ここの席使ってください。
この時間って普段は混まないんですけど、今日は休みだから結構人がいますから...。
いいんです、俺たちもうすぐ降りるので。
それより、おばあさんはゆっくり座っててください。足、痛むんでしょ?
いえ、そもそもあなたに気づいたのは彼女なので。
それでは、失礼します。

よく気づいたね...。やっぱり君はすごい。
思いやりの塊って感じだね。
『優しい』?俺が?普通のことをしただけだよ。
何か言いたげな顔してるね。
...ここなら書きやすい?よかった。
『私が声が出ないから、全部受け答えをしてくれたんだよね?』...そっか、バレてたのか。
それもあるけど、おばあさんと話すのも楽しかったんだ。
い、いきなり『好き』って伝えてくるのは禁止...。
家でならいいけど、外で照れてるところをあんまり人に見られたくないから。
家に帰ろう?


よし、到着。
そういえば、ノートってこれじゃ駄目?
使えそうならあげる。まだ何も書いてないし...。
次の休みは一緒にノート買いに行こうね。
そうだ、ちょっとだけそれ貸して。
...できた。『俺も愛してる』って文字で示すのも、ちょっと恥ずかしいな。
よし、今日はふたりでくつろごうか。
何か飲み物でも淹れて、お菓子を食べて...。
そんな休日も、ふたり一緒ならきっと楽しいよ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私にとっての『ヘルプマークの使い方』を綴りました。
普段失声症で筆談をするので、一応作成するときのルールに従って自作したものをパスケースに入れて使うことがありますが、電車の中では仕舞っておくようにしています。
話すことがないからというのと、席を譲っていただくということが必要ないからです。
ただ...PTSDによるパニック発作のような症状で動けなくなってしまったときだけは電車で使うこともあります。
それでも、2席ほどしかない優先席を使うことはありません。
蹴られたり罵られたり...色々なことで他の方に迷惑をかけてしまったり、不快な思いをさせたくないからです。
電車は通院に使うことが多いのですが、田舎の為足が悪いお年寄りの方が多いので申し訳なくて...。
あとは、万が一体調を崩して倒れたときの為にヘルプカードというものをパスケースに一緒に入れています。
アレルギーもあるので、もしもの事態になっても安心だな...とは思っています。

しかし、世の中には悪用する人も存在するようです。
譲ってもらえるのが当たり前だと思っている方がいらっしゃるのか、都会ではものすごくイメージが悪いというのを聞きました。
そういう人が減ってくれればいい、という意味をこめて綴りました。
それから、特に私が住んでいる田舎では認知度がかなり低いので、少しでも知ってもらえるきっかけになればという思いもこめました。
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