物置小屋

１人向け・イベント系

ただ、感謝を伝えたい。(届けたい想いの話)

...おい、大丈夫か？あんまり眠れなかったのか？
なんでって、そんなの...見れば分かる。
それで、眠れなかった理由は？
いつもみたいになんとなくで眠れなかった訳じゃないんだろ？
...笑わないから話してみろ。
父の日？そういえばそんな日があったな...。
もしかして、その日にもおじいさんとの思い出があるのか？
父親が大嫌いなおまえが、大切な思い出なんて持ってるわけがないと予想しただけだ。
...それなら、相手は自ずと絞られてくるだろう？
手紙？墓の前で読むとか、そういうことか？
置いてくるだけって...だけ、なんてことはないと思うけどな。
いや、なんでもない。それ、俺もついていっていい？
単純に挨拶したいだけだ。
今日は何も予定なかっただろ？...俺も何もないし、迷惑じゃないなら一緒に行きたい。
おまえが大事に思う人のことを、俺も知りたいと思っただけだ。
電車で行けるのか？...分かった、それなら行こう。


そんなに笑わなくてもいいだろ。...俺に花が似合わないことなんて分かってる。
しかも、よりによってこんな綺麗な百合...おまえの方がきっと似合う。
けど、何も持っていかない訳にはいかないだろ。
供え物と線香は近くの店で買うとして、他に必要なものって何かあるか？
充分？...それならこのまま行くぞ。

結構急な坂だな...おまえ、ここをずっと一人で登ってたのか。
これから先は毎年二人で登っていこう。
...当たり前だろ、ちゃんと来たいし。
墓参りなんて、なんて思う奴も多いんだろうけど、こういうのって大事だと思うから。
そういえば、なんで花屋で胡蝶蘭を探してたんだ？
...成程、おじいさんとおばあさんの思い出の花か。
おばあさんのことはあんまり聞いたことないけど、また時間があるときに教えてくれ。
言っただろ、おまえのことならなんでも知りたいんだって。
...ほら、手紙書いたんならちゃんと供えろ。
あれだけ一生懸命書いたんだ、おまえの想いはきっと届く。
なんで知ってるのって...夜遅くまで灯りがついてたの知ってるから。
線香に火をつけたから手を合わせろ。
...悪い、長かったか？
何を話してたのって、恥ずかしくて言えるか。
分かった、ちゃんと話すからそんなしょげた顔するな。
...おまえのことをここまで守ってくれてありがとうって...これからは俺がちゃんと護るから心配しないでほしいって話したんだ。
何か間違ったこと言ったか？..嬉しくて、か。
ハンカチあるし、人はいないし...好きなだけ泣いていい。
なんなら、こうやって抱きしめといてやる。
だから、無理に涙を止める必要はない。

...大丈夫か？あ、供えた菓子は持って帰らないとな。
電車で食べるか。...ほら、手、繋いでてやるから行くぞ。
来年もこうして二人でこよう。
おまえの想いも...俺の覚悟も、ちゃんと伝える為に。
...約束だからな。
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父の日ということで、私が一番大切に想っている母方の祖父母...今回の場合は祖父について、朧気にある記憶を掘り起こしながら書きました。
因みに本当に手紙は用意しました。毎年、独りでこっそり書いています。
幼い頃のこと以外はほとんど覚えていないのですが、もう一度会いたいと思うほど大切です。
...私は父親に関して、ある出来事を境に家族とも思っていません。
私にぬくもりをくれたのは、基本的に母方の祖父母だけでした。
父の日だからといって、必ずしも感謝する相手が父親である必要はないのではないか...そういう思いでひたすら綴りました。

胡蝶蘭の花言葉は、『純粋な愛』や『あなたを愛しています』。
そして、百合の花言葉は『純潔』です。