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物語の欠片
カツサンドに願いを。(リクエスト小説『夜空に願いを。』前日譚と本篇の間)
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私が抱えている問題は、人よりちょっと...否、かなり厄介だ。
「弥生?」
「ごめん、なんでもない」
この日は珍しく朝会っていて、澄んだ空がまた違った綺麗さを帯びていた。
「そろそろ行かないと」
(行きたくないな...)
色々暗くなってしまっていると、葉月は少し戸惑ったように私にあるものを手渡してくれた。
「これって...」
「もしよかったら、これ食べて」
それは、黄金色に輝くカツサンドだった。
「ありがとう!お昼にしっかり食べるね」
葉月のお陰で少しだけ楽しく学校に行ける...はずだった。
(今日は病院で遅めだったとはいえ、やっぱり学校行きたくなかったな)
わいわいと周りが言っているなか、私は独りで包みを開ける。
(すごい、美味しそう...)
一口囓ると、さくっといい音がした。
(美味しい...!)
早起きして作ってくれたのかな、とか...わざわざ朝私が病院からの通学路に使ってる道にいたのはこれを渡す為だったのかな、とか。
色んな思いが溢れて止まらなくなった。
けれど、次の瞬間。
カツサンドはスプレーらしきもので真っ白になった。
くすくすと笑って私の周りを包囲する女たち。知らないふりをする他の人間たち。
...私に対してやられるものは別に構わない。
でも、でもこれは葉月が私にって作ってくれたもので...。
私の中で何かが爆発した。
「おまえら!」
気づくと私は掴みかかって相手を引き倒していた。
呑気な教師たちがくるまでの間、ずっとそうしていたようだった。
...その日の夜。私は通信制高校へ転入することを決めた。
「弥生!どうだったかな...?」
いつもの木の下で葉月がわくわくした様子で聞いてくるのを見て、堪えていたものが溢れ出してしまいそうだった。
「美味しかった...凄く美味しかったよ!」
抱きついて、こっそりと涙を流す。
葉月のよかったという声を聞いて、また涙が零れてしまいそうだった。
「私、学校辞めるかも」
「そう、なんだ...」
「...またカツサンド作ってくれる?」
「うん、勿論」
この日の夜空は少し雲がかかっていて、なんだか不安な気持ちになる。
「いちご大福食べよう」
「うん」
大福の味が、なんだかしょっぱいような気がした。
「...『人は皆堕落する』、なら私もそうなったというだけです」
数週間後小さな戦場にそう言い残して別れを告げ、夜にはもうすっきりとしていた。
「弥生、これ...」
「もう作ってきてくれたの?ありがとう」
葉月の笑顔が眩しくて、こんな穏やかな時間が続きますようにと願いながら...そっとカツサンドを囓ったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カツサンドへの行為は、私が実際にやられたことがあるものをアレンジしました。
汗かいたときに使うスプレー、学食にかけられたことがあって...食べられなくなったんです。
障害者を面白がっていたようでしたが、本当は弥生みたいに殴ってしまいたかった。
殴ればよかったのかもしれません。
因みに『人は皆...』の部分は、坂口安吾の『堕落論』の一説です。
弥生と葉月の物語、間の物語はこれで終わりですが...やっぱり連載してみようかな。
「弥生?」
「ごめん、なんでもない」
この日は珍しく朝会っていて、澄んだ空がまた違った綺麗さを帯びていた。
「そろそろ行かないと」
(行きたくないな...)
色々暗くなってしまっていると、葉月は少し戸惑ったように私にあるものを手渡してくれた。
「これって...」
「もしよかったら、これ食べて」
それは、黄金色に輝くカツサンドだった。
「ありがとう!お昼にしっかり食べるね」
葉月のお陰で少しだけ楽しく学校に行ける...はずだった。
(今日は病院で遅めだったとはいえ、やっぱり学校行きたくなかったな)
わいわいと周りが言っているなか、私は独りで包みを開ける。
(すごい、美味しそう...)
一口囓ると、さくっといい音がした。
(美味しい...!)
早起きして作ってくれたのかな、とか...わざわざ朝私が病院からの通学路に使ってる道にいたのはこれを渡す為だったのかな、とか。
色んな思いが溢れて止まらなくなった。
けれど、次の瞬間。
カツサンドはスプレーらしきもので真っ白になった。
くすくすと笑って私の周りを包囲する女たち。知らないふりをする他の人間たち。
...私に対してやられるものは別に構わない。
でも、でもこれは葉月が私にって作ってくれたもので...。
私の中で何かが爆発した。
「おまえら!」
気づくと私は掴みかかって相手を引き倒していた。
呑気な教師たちがくるまでの間、ずっとそうしていたようだった。
...その日の夜。私は通信制高校へ転入することを決めた。
「弥生!どうだったかな...?」
いつもの木の下で葉月がわくわくした様子で聞いてくるのを見て、堪えていたものが溢れ出してしまいそうだった。
「美味しかった...凄く美味しかったよ!」
抱きついて、こっそりと涙を流す。
葉月のよかったという声を聞いて、また涙が零れてしまいそうだった。
「私、学校辞めるかも」
「そう、なんだ...」
「...またカツサンド作ってくれる?」
「うん、勿論」
この日の夜空は少し雲がかかっていて、なんだか不安な気持ちになる。
「いちご大福食べよう」
「うん」
大福の味が、なんだかしょっぱいような気がした。
「...『人は皆堕落する』、なら私もそうなったというだけです」
数週間後小さな戦場にそう言い残して別れを告げ、夜にはもうすっきりとしていた。
「弥生、これ...」
「もう作ってきてくれたの?ありがとう」
葉月の笑顔が眩しくて、こんな穏やかな時間が続きますようにと願いながら...そっとカツサンドを囓ったのだった。
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カツサンドへの行為は、私が実際にやられたことがあるものをアレンジしました。
汗かいたときに使うスプレー、学食にかけられたことがあって...食べられなくなったんです。
障害者を面白がっていたようでしたが、本当は弥生みたいに殴ってしまいたかった。
殴ればよかったのかもしれません。
因みに『人は皆...』の部分は、坂口安吾の『堕落論』の一説です。
弥生と葉月の物語、間の物語はこれで終わりですが...やっぱり連載してみようかな。
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