物置小屋

黒蝶

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勿忘草(壊れそうな彼女とそれに気づいた恋人)

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『おーい、いないのか?
今日は休みだって言ってたのに...出掛けてるのかな。
お邪魔します...寝てるわけじゃなさそうだな。
あいつが帰ってくるまでに、ちょっと飯でも作っておくか。
今日は大事なことを伝えにここにきたわけだし...。
...ん?これってまさか...!
頼む、間に合ってくれ!』

「やっぱりこの場所、好きだな。
目の前の景色とももうすぐお別れ...。
ここから落ちれば、それでいいんだ。
たった一歩進むだけで、新しい世界を見られるんだ。
この景色に溶けてしまえば、それでいいんだ。
たとえこの考えが間違っていたとしても、私は誰のことも責めない、責めたりしない。
その代わり、誰にも私を責めることはできない。
この罪も寂しい思いも全て溶けて、最後はなかったことになる...それは今回も同じ事。
なかったことにはしたくなかった。
見て見ぬふりなんてできなかった。
けれど、抱えているのにも限界がきてしまった。
何も考えたくない。
もう絶望したくない。
だから、ごめんなさい。
...ん?
あ、勿忘草。
私が一番好きな花。
最期にこの花が見られるなんて、幸せだな。
どうしてこんなふうに綺麗に咲き誇れるのか、結局分からなかった。
けれど、ここに溶けてしまえればそんな思いさえもきっと...。
一つだけ願いが叶うなら。
呪いの言葉を残していきましょう。
この花を、あなたに。
勿忘草の花には、勿忘草の、花言葉は...。
お願い。
...【私を忘れないで】。」


『おい、何やってるんだよ...。
待てって!』
「どうしてここにいるの?仕事のはずじゃ、」
『こんな手紙見て放っておけるかよ。』
「...なんでそれ持ってるの?」
『話は後だ。取り敢えず行くぞ。』
「ちょっと待って、そんなに強く握らないで...」


『なんであんなことした!』
「なんでって言われても...疲れたから、かな。」
『何も話さなかったのは...違うな。何も話せなかったのは、俺が忙しくしてたから?』
「話しても、迷惑にしかならないでしょ。だから、最初から話さなかった。」
『お前な...だからってあそこまで追い詰められてたら意味ないだろ。』
「ごめんなさい。」
『なんでお前が謝ってるんだ?』
「え...?だって迷惑かけちゃったし...。」
『俺は迷惑だなんて思ってない。そうじゃなくて、自分が気づけなかったことに対して苛ついてるだけだ。』
「私が上手く隠してただけだから、何も謝る必要なんてないよ?」
『俺が気づきたかったんだよ。お前のことは一番に知っておきたいのに、ここまでになるまで気づけなかった。』
「...どうしてそこまでしてくれるの?」
『そんなの、おまえを愛しているからに決まってるだろ!』
「私なんかと一緒にいても、いいことなんてないよ...」
『おまえといることが俺の『いいこと』なんだよ。おまえは充分頑張ってるよ。自分で気づいてないだけで、物凄く頑張ってるんだよ。』
「...優しいね。」
『事実を言っただけだ。お願いだから、そうやって自分を否定して、「私なんか」なんて言わないでほしい。一人で堪えないで俺にぶつかってほしい。...これから先も、一緒にいてほしいんだ。』
「それ...」
『この時季に咲いてる勿忘草なんて珍しいだろ?だから、花屋でもらって花束にしてみた。』
「私が好きな花だから?」
『これくらいしかできないけど、俺はいつだって力になりたいとは思ってるよ。この花の花言葉を、おまえに贈る。』
「【私を忘れないで】?」
『違っ、そうじゃなくて...自分で調べろ。』
「ええ...」
『それから!...寝てないんだろ、早く横になれよ。ちゃんと側にいるから。』
「ごめんね...ありがとう。」
『ほら、涙拭いて。...で、もう寝ろ。』
「うん...。」


『やっと寝たか。
こいつがこいつ自身を追い詰めないように、ちゃんと見てないとな。
あんなに泣いてたのに、俺ほんと何やってるんだろうな。
けど、ちゃんと護ってみせるから。
...【真実の愛】に誓って。』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なんとなく書いてみました。
もう何も考えたくないなとか、この景色に溶けてしまえればいいのにとか、お気に入りの場所でよく思います。
誰も責めるつもりはない。全て自分が悪いのだから。
...けれど、こうして寄り添ってくれる人がほしいと思ってしまうのは間違いでしょうか。
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