裏世界の蕀姫

黒蝶

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冬真ルート

第66.5話

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「取り敢えずお姫様運ぼうか」
「…あんたも怪我してるでしょ」
「なんだ、ばれてたか」
ふたりが近くにいられるように計算したのに、どうして僕なんかを追いかけてきてしまったんだろう。
「教会まで歩ける?」
「冬真はその子を抱えられる?」
「できる」
麻酔で寝かせたばかりの月見を抱きあげ、そのまま真っ直ぐ歩いた。
設備が充実しているとは言えないが、残念なことに家まで持ちそうにない。
「僕も手伝えること、ある?」
「じっとしてて」
「分かったよ」
上手く隠しているつもりかもしれないが、出血がかなり酷いのは分かる。
もし悪化したら間違いなく大変なことになるだろう。
「冬真、こっち」
「なに?」
「これ使って。ブランケットとかあった方がいいでしょ?」
「…ありがとう」
お礼を言うつもりなんてなかったけど、ないと困るのは間違いない。
「…僕のせいだ」
まだ目を覚まさない月見の頬を撫でながら、その一言を絞り出すのでせいいっぱいだった。
「背負いこみすぎだよ、昔から」
隣にいるやつは僕の肩に手をおいて、真剣な声でそんなことを言い出した。
「事実でしょ?あんたの側にいれば護れるって考えが甘かった。
どうにかなるって思ったのが間違いだったんだ」
「……それはそうかもね」
ただ落ち込む心に言葉が突き刺さる。
それでも事実だから受け止めるしかない。
「だけどそれは結果論だ。冬真が自分を責めていたら、目が覚めた瞬間からお姫様が悲しむことになる」
たしかにそれはこいつの言うとおりかもしれない。
だけど、ひとりにしておけないと分かっていたにも関わらず人任せにしたのは僕だ。
「その辛さを次相手にぶつければいい。大丈夫だよ。冬真は俺なんかよりずっと上手に生きてる」
「…傷診せて」
じわりと服が赤く染まっていくのを見ているだけなんて嫌だ。
目の前の人は苦笑いしながら僕を見た。
「ごめん。折角縫ってくれたのに傷口が開いちゃったみたい」
「もっと気をつけて。じゃないと、次無茶なことをしたらそこの十字架に縛りつけて帰る」
「そんな言い方しなくてもいいのに…」
茶化すような言葉を無視して麻酔針を打つ。
眠くなってきたのか、横たわったまま笑っていた。
「冬真はやっぱりいい子だよね。昔から変わらない」
「……」
「お姫様みたいに、おまえともっと話したら、今と違っていたのかな…」
「過去には戻れない」
「そりゃあ怒るよね。…ごめん冬真、よろしく」
そのまま喋らなくなって、ただ無心で手を動かす。
本当は相当弱ってるくせになに強がってるんだ。
「今更兄貴面するな。…ぶれそうになる」
優しかった兄の姿を忘れたわけじゃない。
だからこそ心がぐらついているんだ。
「冬、真…?」
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