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秋久ルート
第70話
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「…成程、それで作りすぎたということですか」
春人さんは少し困ったように笑っていて、なんだか申し訳ない気持ちになる。
「冬真が大学に顔を出すのをすっかり忘れてて、この量のチョコレートソースを消費するのは無理だと判断した」
できあがったところで、秋久さんが材料を多めに使っていたことに気づいた。
ソースはすっかりできあがってしまっていたので、丁度秋久さんに渡すものがあるからとやってきた春人さんにも食べてもらうことにしたのだ。
「パンケーキだけじゃつまらないから、ついでにプリンも作った」
「ついでで作れるものでしょうか…取り敢えずいただきます」
春人さんが座ったところで、ずっと気になっていることを訊いてみることにした。
「あ、あの…」
「どうかしましたか?」
「夏彦さんは大丈夫でしょうか…?」
春人さんを困らせてしまったと俯きかけた瞬間、ただ微笑みながら言った。
「もうすぐ会えますから、本人に直接尋ねてみてください」
もうすぐ会えるとはどういうことだろう。
秋久さんに会いに来るという意味なら、もしかすると何かあったのかもしれない。
「ほら、できたぞ」
「ありがとうございます。それではいただきますね」
秋久さんが用意したプリンを食べながら、春人さんは紙の束をめくりはじめる。
「そんなに急がなくても、」
「いえ。夏彦が来る前に話を終わらせておきたいんです」
「分かった」
途端に重苦しい空気がたちこめる。
私はいない方がいいかもしれないと思ったけれど、秋久さんに手を掴まれて動けない。
「これは…間違いないのか?」
「はい。残念なことに事実のようです」
「そうか。カルナにも報告しないとな」
よくないことがおこっているのは分かるけれど、それ以上のことは何も知ることができなかった。
「ただいま。…あれ、春人さん?」
「お邪魔しています」
「この大量のデザート、どうするの?」
「悪い。それは俺が分量を間違えて…」
さっきまでのとげとげした雰囲気が嘘みたいに、秋久さんたちはほのぼのした話をしている。
冬真さんにも知らせられないことなのか、話はすっかりスイーツのことになっていた。
「君、やっぱり料理上手だね」
「いえ。他の皆さんと比べたらまだまだです」
「そんなことないと思うけどな。…春人もそう思うだろ?」
「はい。僕は料理そのものができませんし…」
話が盛りあがってきたところで、誰かが扉を開ける音がした。
「お邪魔します…って、俺以外集まってる感じ?」
「ああ、やっと来ましたか」
夏彦さんは真っ直ぐ私に向かって歩いてきた。
「ちょっとだけ一緒に来てくれない?」
春人さんは少し困ったように笑っていて、なんだか申し訳ない気持ちになる。
「冬真が大学に顔を出すのをすっかり忘れてて、この量のチョコレートソースを消費するのは無理だと判断した」
できあがったところで、秋久さんが材料を多めに使っていたことに気づいた。
ソースはすっかりできあがってしまっていたので、丁度秋久さんに渡すものがあるからとやってきた春人さんにも食べてもらうことにしたのだ。
「パンケーキだけじゃつまらないから、ついでにプリンも作った」
「ついでで作れるものでしょうか…取り敢えずいただきます」
春人さんが座ったところで、ずっと気になっていることを訊いてみることにした。
「あ、あの…」
「どうかしましたか?」
「夏彦さんは大丈夫でしょうか…?」
春人さんを困らせてしまったと俯きかけた瞬間、ただ微笑みながら言った。
「もうすぐ会えますから、本人に直接尋ねてみてください」
もうすぐ会えるとはどういうことだろう。
秋久さんに会いに来るという意味なら、もしかすると何かあったのかもしれない。
「ほら、できたぞ」
「ありがとうございます。それではいただきますね」
秋久さんが用意したプリンを食べながら、春人さんは紙の束をめくりはじめる。
「そんなに急がなくても、」
「いえ。夏彦が来る前に話を終わらせておきたいんです」
「分かった」
途端に重苦しい空気がたちこめる。
私はいない方がいいかもしれないと思ったけれど、秋久さんに手を掴まれて動けない。
「これは…間違いないのか?」
「はい。残念なことに事実のようです」
「そうか。カルナにも報告しないとな」
よくないことがおこっているのは分かるけれど、それ以上のことは何も知ることができなかった。
「ただいま。…あれ、春人さん?」
「お邪魔しています」
「この大量のデザート、どうするの?」
「悪い。それは俺が分量を間違えて…」
さっきまでのとげとげした雰囲気が嘘みたいに、秋久さんたちはほのぼのした話をしている。
冬真さんにも知らせられないことなのか、話はすっかりスイーツのことになっていた。
「君、やっぱり料理上手だね」
「いえ。他の皆さんと比べたらまだまだです」
「そんなことないと思うけどな。…春人もそう思うだろ?」
「はい。僕は料理そのものができませんし…」
話が盛りあがってきたところで、誰かが扉を開ける音がした。
「お邪魔します…って、俺以外集まってる感じ?」
「ああ、やっと来ましたか」
夏彦さんは真っ直ぐ私に向かって歩いてきた。
「ちょっとだけ一緒に来てくれない?」
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