裏世界の蕀姫

黒蝶

文字の大きさ
上 下
309 / 385
秋久ルート

第69話

しおりを挟む
「お嬢ちゃん、そこで何してる?」
中庭で蕀さんたちを編んでいると、後ろから声をかけられる。
振り向くと、秋久さんと冬真さんがエプロンをつけて立っていた。
「は、花かんむりを作ってみようと思って…。勝手にやってごめんなさい」
「いなくなってないならいい。お嬢ちゃんがいなくなったって冬真が心配してた」
「秋久さん…!」
「これが終わったらすぐ戻ります」
時々言葉に棘があるけれど、冬真さんも優しい。
秋久さんは私が何を使っているのか見えたらしく、優しく笑って冬真さんの手を引っ張った。
「お嬢ちゃんがここにいるのは分かったし、俺たちは戻るとするか」
「そうだね」
冬真さんは納得していないようにみえたけれど、秋久さんとふたりで歩いていった。
「こんな感じ、でしょうか」
不格好なものではあるけれど、包丁を真似して作ってみた武器だ。
誰にも傷ついてほしくないから、護る力がほしい。
そんな私にできることはこれくらいだ。
「お待たせしました」
「紅茶を淹れたから、もし嫌じゃなければ飲んでいってくれ」
「ありがとうございます」
手を洗って冬真さんの隣に座ると、何故か距離をとられてしまった。
「ご、ごめんなさい」
「別に嫌とか、そういうわけじゃなくて…あんまり見られたくないものなんだ」
「気づかなくてごめんなさい」
「いや、だから、」
「ふたりとも、そのままじゃ埒が明かなくなるぞ」
秋久さんは優しく笑っていたけれど、なんだか疲れているように見える。
大丈夫か訊いても、大丈夫だと答えられてしまうだろう。
「秋久さん」
「どうした?」
「もしよければ、朝ご飯のチョコレートソースの作り方を教えてほしいです」
「俺でいいならいくらでも手伝う」
「ありがとうございます」
冬真さんが何を書いているのかも気になるけれど、今は秋久さんに少しでも苦しいことを忘れてほしかった。
「そういえば、いつの間に帰ってきていたんですか?」
「30分くらい前だ。丁度仕事が片づいたところだったからな」
「そうなんですね…」
急に足元がぐらついて、そのまま転びそうになる。
そんな私の体を彼は支えてくれた。
「平気か?」
「は、はい…」
耳元で聞こえる秋久さんの声に、どうしてか緊張してしまう。
抱きしめられているような体勢も、優しい息遣いも、全部が私の体を温めているみたいだ。
「大丈夫ならよかった」
私を見て彼はほっとしたように呟く。
どうしてこんなにどきどきしているのか、嫌だと思っていないのか、今の私には分からない。
なんとか答えを出そうとしたけれど、砂時計の砂がほとんど落ちきっていた。
「そろそろ仕上げるぞ」
「は、はい…!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ハーフ&ハーフ

黒蝶
恋愛
ある雨の日、野崎七海が助けたのは中津木葉という男。 そんな木葉から告げられたのは、哀しい事実。 「僕には関わらない方がいいよ。...半分とはいえ、人間じゃないから」 ...それから2ヶ月、ふたりは恋人として生きていく選択をしていた。 これは、極々普通?な少女と人間とヴァンパイアのハーフである少年の物語。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

憑かれるのはついてくる女子高生と幽霊

水瀬真奈美
恋愛
家出じゃないもん。これは社会勉強! 家出人少女は、雪降る故郷を離れて東京へと向かった。東京では行く当てなんてないだから、どうしようか? 車内ではとりあえずSNSのツイツイを立ち上げては、安全そうなフォロワーを探すことに……。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

王命って何ですか?

まるまる⭐️
恋愛
その日、貴族裁判所前には多くの貴族達が傍聴券を求め、所狭しと行列を作っていた。 貴族達にとって注目すべき裁判が開かれるからだ。 現国王の妹王女の嫁ぎ先である建国以来の名門侯爵家が、新興貴族である伯爵家から訴えを起こされたこの裁判。 人々の関心を集めないはずがない。 裁判の冒頭、証言台に立った伯爵家長女は涙ながらに訴えた。 「私には婚約者がいました…。 彼を愛していました。でも、私とその方の婚約は破棄され、私は意に沿わぬ男性の元へと嫁ぎ、侯爵夫人となったのです。 そう…。誰も覆す事の出来ない王命と言う理不尽な制度によって…。 ですが、理不尽な制度には理不尽な扱いが待っていました…」 裁判開始早々、王命を理不尽だと公衆の面前で公言した彼女。裁判での証言でなければ不敬罪に問われても可笑しくはない発言だ。 だが、彼女はそんな事は全て承知の上であえてこの言葉を発した。   彼女はこれより少し前、嫁ぎ先の侯爵家から彼女の有責で離縁されている。原因は彼女の不貞行為だ。彼女はそれを否定し、この裁判に於いて自身の無実を証明しようとしているのだ。 次々に積み重ねられていく証言に次第に追い込まれていく侯爵家。明らかになっていく真実を傍聴席の貴族達は息を飲んで見守る。 裁判の最後、彼女は傍聴席に向かって訴えかけた。 「王命って何ですか?」と。 ✳︎不定期更新、設定ゆるゆるです。

処理中です...