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秋久ルート
第66話
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「あれが、蔡原を名乗ってた不届き者か」
秋久さんの顔には緊張の色が滲んでいて、私はその場から動くことができない。
「月見はここで待機。いいな?」
「は、はい」
動けなくて足手まといになる可能性がある私には、頷く以外の選択なんてない。
「あんたと話がしたかったんだ。手土産がなくて申し訳ないが、少し話を聞かせてくれないか?」
相手からの返事はない。
重い沈黙が流れる中、かちゃりと何か金属がぶつかる音がした。
「おまえを始末して、回収しないといけないものがある」
「名乗ることもしない奴に始末されるわけにはいかない」
「…そうか。ならおまえを倒した後で教えてやるよ」
沢山金属の音がして、怖くなって耳を塞いでしまう。
足が震えて相変わらず立てそうにない。
「なんだ、結構やるじゃないか」
「褒められるようなことはしてない。ただ、俺はあんたをここで止める」
なんとか助けになりたいのに、蕀さんたちにお願いしていいのか分からない。
見えない相手を攻めるには、あまりにも相手を知らなさすぎた。
「俺を殺すんだろ?もっと本気でこないと倒せないぞ」
「馬鹿にしやがって…いいだろう、相応の報いを受けさせる」
次に聞こえたのは、何かを振り回している音。
「まさかそんなものまで持ってるとはな」
「刀は大事だよ。これで丁寧に志ごと切り落としてあげよう」
色々な音が混ざっていて、何が起きているのか全く理解できていない。
そのとき、足元に拳銃が飛んできた。
「やっぱり強いな、あんた」
「これでも偉い人だからね。夏彦は返してもらうよ」
「そんなことさせるわけないだろ」
ちらっと確認できた秋久さんは、足を切られているみたいだった。
「待て、やめろ。ここでそんなものを使ったら、ディアボロの連中まで吹き飛ぶ」
「そんなもの知ったことではない。君を殺して逃げることにするよ」
高々とあげられたのは、多分小さめの爆弾だ。
誰かに知られるかもしれないとか、あの男の人が怖くて仕方ないとか、今はそんなことを考えている場合じゃない。
「──お願い、蕀さんたち」
爆弾が地面に落とされるのとほぼ同時に、秋久さんの周りを蔦で覆う。
少し離れた場所から爆発音がしたけれど、なんとか相手を傷つけずにすんだ。
「悪かった。大丈夫か?」
「は、はい…」
月の光に照らされて、胡桃色の髪がきらきら輝く。
「悪い。まさかあんなものを持ってるとは思わなかったんだ」
「私の方こそ、遅くなってしまってすみません。…怪我、痛そうです」
足をひきずるようにしている秋久さんの隣を歩きながら、倒れているディアボロの人たちを避けて帰路につく。
戻ったら、きっと冬真さんに怒られてしまうだろう。
秋久さんの顔には緊張の色が滲んでいて、私はその場から動くことができない。
「月見はここで待機。いいな?」
「は、はい」
動けなくて足手まといになる可能性がある私には、頷く以外の選択なんてない。
「あんたと話がしたかったんだ。手土産がなくて申し訳ないが、少し話を聞かせてくれないか?」
相手からの返事はない。
重い沈黙が流れる中、かちゃりと何か金属がぶつかる音がした。
「おまえを始末して、回収しないといけないものがある」
「名乗ることもしない奴に始末されるわけにはいかない」
「…そうか。ならおまえを倒した後で教えてやるよ」
沢山金属の音がして、怖くなって耳を塞いでしまう。
足が震えて相変わらず立てそうにない。
「なんだ、結構やるじゃないか」
「褒められるようなことはしてない。ただ、俺はあんたをここで止める」
なんとか助けになりたいのに、蕀さんたちにお願いしていいのか分からない。
見えない相手を攻めるには、あまりにも相手を知らなさすぎた。
「俺を殺すんだろ?もっと本気でこないと倒せないぞ」
「馬鹿にしやがって…いいだろう、相応の報いを受けさせる」
次に聞こえたのは、何かを振り回している音。
「まさかそんなものまで持ってるとはな」
「刀は大事だよ。これで丁寧に志ごと切り落としてあげよう」
色々な音が混ざっていて、何が起きているのか全く理解できていない。
そのとき、足元に拳銃が飛んできた。
「やっぱり強いな、あんた」
「これでも偉い人だからね。夏彦は返してもらうよ」
「そんなことさせるわけないだろ」
ちらっと確認できた秋久さんは、足を切られているみたいだった。
「待て、やめろ。ここでそんなものを使ったら、ディアボロの連中まで吹き飛ぶ」
「そんなもの知ったことではない。君を殺して逃げることにするよ」
高々とあげられたのは、多分小さめの爆弾だ。
誰かに知られるかもしれないとか、あの男の人が怖くて仕方ないとか、今はそんなことを考えている場合じゃない。
「──お願い、蕀さんたち」
爆弾が地面に落とされるのとほぼ同時に、秋久さんの周りを蔦で覆う。
少し離れた場所から爆発音がしたけれど、なんとか相手を傷つけずにすんだ。
「悪かった。大丈夫か?」
「は、はい…」
月の光に照らされて、胡桃色の髪がきらきら輝く。
「悪い。まさかあんなものを持ってるとは思わなかったんだ」
「私の方こそ、遅くなってしまってすみません。…怪我、痛そうです」
足をひきずるようにしている秋久さんの隣を歩きながら、倒れているディアボロの人たちを避けて帰路につく。
戻ったら、きっと冬真さんに怒られてしまうだろう。
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