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秋久ルート
第62.5話
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「…月見なのか?」
唐突にそんな言葉を口走った理由は単純だ。
月見に持っていてほしいと言われた蕀が、ポケットの中で音を立ててどこかへ誘おうとしている。
彼女が人のことをおちょくるとは思えない。
とにかく蔦が示す方に歩いてみると、そこには探していた人物の姿があった。
「夏彦」
「あ、アッキー」
「あ、じゃない。こんなところで何してる?」
「そんなに怒らなくても、別に変なことをしていたわけじゃないよ?
…ただ、ちょっと追いかけたいものがいただけ」
それが聞き逃してはいけないものであることくらい、俺でも理解できる。
「冬真が連絡が取れないって心配してた」
「まー君ってなんだかんだ優しいよね。俺のことまで気にかけてくれるなんて…予想外だったよ」
夏彦の言葉には疲労が滲んでいる。
早く連れ帰った方がいいだろうが、何をするつもりだったのか気になって仕方がない。
「ひとりで追いかけたら危ないだろう?それとも、俺たちには言えないことか?」
「アッキーのそういうところ、本当に狡いよね」
「俺は狡いことをしているつもりはないが…」
「狡いよ。俺が1番答えに困る質問をしてくるから」
夏彦は仲間を蔑ろにしたりしない。
寧ろ、絆の力を信じたいと考えている節がある。
そんな奴だからこそ、ひとりで困っていないか心配になるのだ。
「今日は緊急の調べものをしてたんだ。時間を忘れて追いかけてたから、探されてることも知らなかった。
…ごめんね。迷惑をかけたかったわけじゃないんだ」
夏彦の言葉に嘘はない。
ただ、まだ何か隠している。
「…そうか」
俺は想答えるのでせいいっぱいだった。
夏彦を責めたいわけじゃないが、このまま勢いに任せて話したら結果的に追い詰めてしまいそうだ。
「一緒に来い」
「どこに行くの?」
「冬真のところ。ものすごく心配してたから、直接話をした方がいい」
「分かった」
特に逃げようとする様子もなく、大人しく一緒に歩いている。
戻ってみると花菜が来ていて、そのまま事情を話してもらうことにした。
「何かあったから俺を探してたんだろ?」
「まあ、そういうことになります。ただ、どこから話そうか迷っているだけなんです」
「大丈夫だ。ゆっくりでいいから分かったことを教えてくれ」
花菜は少し気まずそうにしていたが、ふたりだけの空間で隠す必要もないと思い直したらしい。
「まず、なっちゃんが調べていたのはディアボロの端くれです。
あの人を捕まえたところで何の得にもならなさそうなのにどうして追いかけているのか気になって調べたら、こんなものが出てきました」
そこに映し出されているものに見覚えがある。
「絶対このことを誰かに漏らすな。いいな?」
「分かりました」
花菜には悪いが、ここから先は俺の仕事だ。
月見の姿が見えないことに気づき、書類の束を置き去りにして部屋を出た。
唐突にそんな言葉を口走った理由は単純だ。
月見に持っていてほしいと言われた蕀が、ポケットの中で音を立ててどこかへ誘おうとしている。
彼女が人のことをおちょくるとは思えない。
とにかく蔦が示す方に歩いてみると、そこには探していた人物の姿があった。
「夏彦」
「あ、アッキー」
「あ、じゃない。こんなところで何してる?」
「そんなに怒らなくても、別に変なことをしていたわけじゃないよ?
…ただ、ちょっと追いかけたいものがいただけ」
それが聞き逃してはいけないものであることくらい、俺でも理解できる。
「冬真が連絡が取れないって心配してた」
「まー君ってなんだかんだ優しいよね。俺のことまで気にかけてくれるなんて…予想外だったよ」
夏彦の言葉には疲労が滲んでいる。
早く連れ帰った方がいいだろうが、何をするつもりだったのか気になって仕方がない。
「ひとりで追いかけたら危ないだろう?それとも、俺たちには言えないことか?」
「アッキーのそういうところ、本当に狡いよね」
「俺は狡いことをしているつもりはないが…」
「狡いよ。俺が1番答えに困る質問をしてくるから」
夏彦は仲間を蔑ろにしたりしない。
寧ろ、絆の力を信じたいと考えている節がある。
そんな奴だからこそ、ひとりで困っていないか心配になるのだ。
「今日は緊急の調べものをしてたんだ。時間を忘れて追いかけてたから、探されてることも知らなかった。
…ごめんね。迷惑をかけたかったわけじゃないんだ」
夏彦の言葉に嘘はない。
ただ、まだ何か隠している。
「…そうか」
俺は想答えるのでせいいっぱいだった。
夏彦を責めたいわけじゃないが、このまま勢いに任せて話したら結果的に追い詰めてしまいそうだ。
「一緒に来い」
「どこに行くの?」
「冬真のところ。ものすごく心配してたから、直接話をした方がいい」
「分かった」
特に逃げようとする様子もなく、大人しく一緒に歩いている。
戻ってみると花菜が来ていて、そのまま事情を話してもらうことにした。
「何かあったから俺を探してたんだろ?」
「まあ、そういうことになります。ただ、どこから話そうか迷っているだけなんです」
「大丈夫だ。ゆっくりでいいから分かったことを教えてくれ」
花菜は少し気まずそうにしていたが、ふたりだけの空間で隠す必要もないと思い直したらしい。
「まず、なっちゃんが調べていたのはディアボロの端くれです。
あの人を捕まえたところで何の得にもならなさそうなのにどうして追いかけているのか気になって調べたら、こんなものが出てきました」
そこに映し出されているものに見覚えがある。
「絶対このことを誰かに漏らすな。いいな?」
「分かりました」
花菜には悪いが、ここから先は俺の仕事だ。
月見の姿が見えないことに気づき、書類の束を置き去りにして部屋を出た。
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