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冬真ルート
第64話
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「君はこっち」
「…?はい」
この近くには冬香さんが住んでいる廃教会がある。
私は、どちらかというと教会寄りの場所にいるよう言われた。
「そこから動かないで」
「分かりました」
冬真はそう言ってどこかへ行ってしまった。
相手の場所を探るため、私は手に巻かれた包帯をとる。
「──お願い、蕀さんたち」
しゅるしゅると音をたてて伸びていく蕀さんは、なんだか毒気があるような気がする。
それでも、人がいそうな場所まで届いたみたいだ。
「6人でしょうか」
誰に尋ねるわけでもなく、ついそんな言葉が漏れてしまう。
ぼんやりしているとやられてしまいそうで、一旦蔦を千切って鎌を想像した。
「…ごめんなさい、冬真」
自分から攻撃しようとは思っていないけれど、知っている気配が混ざっている。
それなら、今のうちに準備しておかないときっとやられてしまう。
「いたぞ!こっちだ!」
誰かが叫んでいるのが聞こえて、足音が私がいる場所とは別の方に向かっていく。
もしかすると、冬真の狙いは最初から……
「やあ、お姫様。こんなところにいるなんて珍しいね」
「冬香さん…」
私の様子がいつもと違うことに気づいたらしく、冬香さんは私の手を握ってくれた。
「何があったの?」
「このままだと冬真が…」
私はできるだけ落ち着いて説明した。
冬真が自分を囮にしているかもしれないこと、いくら冬真が強くても流石に厳しいかもしれないこと…。
全部聞き終わってから、冬香さんは立ちあがった。
「そういうことなら僕が行くよ。それとも、お姫様も一緒に来る?」
「行きます」
前の私ならきっと逃げていた。
怖くて動けなくなっていたかもしれない。
けれど、今は違う。
「いい目だ。一緒に連れて行ってあげる」
「ありがとうございます」
冬香さんとふたりで走っていると、どこからか刃物が飛んできた。
「まったく、本当に面倒だね」
どうやって取ったのか分からなかったけれど、冬香さんは怪我ひとつしていない。
素手で受け止めるなんて予想外だった。
「大丈夫だよ。お姫様をあの近くに置いていったってことは、君を僕に護ってほしいってことだろうし…とにかく本人を見つけないとね」
「はい」
何人かの足音がこっちに近づいてくるのが聞こえて、すぐ近くの小屋に隠れた。
「ごめん。できれば戦わせずに連れてきたかったんだけど…」
「大丈夫です。多分、この前よりは使いこなせている…と、思います」
「もっと自信満々でいいのに」
冬香さんはそう言うと、にっこり笑ってナイフを手にとった。
「それじゃあ行こうか。鬼退治にさ」
「…?はい」
この近くには冬香さんが住んでいる廃教会がある。
私は、どちらかというと教会寄りの場所にいるよう言われた。
「そこから動かないで」
「分かりました」
冬真はそう言ってどこかへ行ってしまった。
相手の場所を探るため、私は手に巻かれた包帯をとる。
「──お願い、蕀さんたち」
しゅるしゅると音をたてて伸びていく蕀さんは、なんだか毒気があるような気がする。
それでも、人がいそうな場所まで届いたみたいだ。
「6人でしょうか」
誰に尋ねるわけでもなく、ついそんな言葉が漏れてしまう。
ぼんやりしているとやられてしまいそうで、一旦蔦を千切って鎌を想像した。
「…ごめんなさい、冬真」
自分から攻撃しようとは思っていないけれど、知っている気配が混ざっている。
それなら、今のうちに準備しておかないときっとやられてしまう。
「いたぞ!こっちだ!」
誰かが叫んでいるのが聞こえて、足音が私がいる場所とは別の方に向かっていく。
もしかすると、冬真の狙いは最初から……
「やあ、お姫様。こんなところにいるなんて珍しいね」
「冬香さん…」
私の様子がいつもと違うことに気づいたらしく、冬香さんは私の手を握ってくれた。
「何があったの?」
「このままだと冬真が…」
私はできるだけ落ち着いて説明した。
冬真が自分を囮にしているかもしれないこと、いくら冬真が強くても流石に厳しいかもしれないこと…。
全部聞き終わってから、冬香さんは立ちあがった。
「そういうことなら僕が行くよ。それとも、お姫様も一緒に来る?」
「行きます」
前の私ならきっと逃げていた。
怖くて動けなくなっていたかもしれない。
けれど、今は違う。
「いい目だ。一緒に連れて行ってあげる」
「ありがとうございます」
冬香さんとふたりで走っていると、どこからか刃物が飛んできた。
「まったく、本当に面倒だね」
どうやって取ったのか分からなかったけれど、冬香さんは怪我ひとつしていない。
素手で受け止めるなんて予想外だった。
「大丈夫だよ。お姫様をあの近くに置いていったってことは、君を僕に護ってほしいってことだろうし…とにかく本人を見つけないとね」
「はい」
何人かの足音がこっちに近づいてくるのが聞こえて、すぐ近くの小屋に隠れた。
「ごめん。できれば戦わせずに連れてきたかったんだけど…」
「大丈夫です。多分、この前よりは使いこなせている…と、思います」
「もっと自信満々でいいのに」
冬香さんはそう言うと、にっこり笑ってナイフを手にとった。
「それじゃあ行こうか。鬼退治にさ」
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