裏世界の蕀姫

黒蝶

文字の大きさ
上 下
382 / 385
冬真ルート

第64話

しおりを挟む
「君はこっち」
「…?はい」
この近くには冬香さんが住んでいる廃教会がある。
私は、どちらかというと教会寄りの場所にいるよう言われた。
「そこから動かないで」
「分かりました」
冬真はそう言ってどこかへ行ってしまった。
相手の場所を探るため、私は手に巻かれた包帯をとる。
「──お願い、蕀さんたち」
しゅるしゅると音をたてて伸びていく蕀さんは、なんだか毒気があるような気がする。
それでも、人がいそうな場所まで届いたみたいだ。
「6人でしょうか」
誰に尋ねるわけでもなく、ついそんな言葉が漏れてしまう。
ぼんやりしているとやられてしまいそうで、一旦蔦を千切って鎌を想像した。
「…ごめんなさい、冬真」
自分から攻撃しようとは思っていないけれど、知っている気配が混ざっている。
それなら、今のうちに準備しておかないときっとやられてしまう。
「いたぞ!こっちだ!」
誰かが叫んでいるのが聞こえて、足音が私がいる場所とは別の方に向かっていく。
もしかすると、冬真の狙いは最初から……
「やあ、お姫様。こんなところにいるなんて珍しいね」
「冬香さん…」
私の様子がいつもと違うことに気づいたらしく、冬香さんは私の手を握ってくれた。
「何があったの?」
「このままだと冬真が…」
私はできるだけ落ち着いて説明した。
冬真が自分を囮にしているかもしれないこと、いくら冬真が強くても流石に厳しいかもしれないこと…。
全部聞き終わってから、冬香さんは立ちあがった。
「そういうことなら僕が行くよ。それとも、お姫様も一緒に来る?」
「行きます」
前の私ならきっと逃げていた。
怖くて動けなくなっていたかもしれない。
けれど、今は違う。
「いい目だ。一緒に連れて行ってあげる」
「ありがとうございます」
冬香さんとふたりで走っていると、どこからか刃物が飛んできた。
「まったく、本当に面倒だね」
どうやって取ったのか分からなかったけれど、冬香さんは怪我ひとつしていない。
素手で受け止めるなんて予想外だった。
「大丈夫だよ。お姫様をあの近くに置いていったってことは、君を僕に護ってほしいってことだろうし…とにかく本人を見つけないとね」
「はい」
何人かの足音がこっちに近づいてくるのが聞こえて、すぐ近くの小屋に隠れた。
「ごめん。できれば戦わせずに連れてきたかったんだけど…」
「大丈夫です。多分、この前よりは使いこなせている…と、思います」
「もっと自信満々でいいのに」
冬香さんはそう言うと、にっこり笑ってナイフを手にとった。
「それじゃあ行こうか。鬼退治にさ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

入社した会社でぼくがあたしになる話

青春
父の残した借金返済のためがむしゃらに就活をした結果入社した会社で主人公[山名ユウ]が徐々に変わっていく物語

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

婚約者は聖女を愛している。……と、思っていたが何か違うようです。

恋愛
セラティーナ=プラティーヌには婚約者がいる。灰色の髪と瞳の美しい青年シュヴァルツ=グリージョが。だが、彼が愛しているのは聖女様。幼少期から両想いの二人を引き裂く悪女と社交界では嘲笑われ、両親には魔法の才能があるだけで嫌われ、妹にも馬鹿にされる日々を送る。 そんなセラティーナには前世の記憶がある。そのお陰で悲惨な日々をあまり気にせず暮らしていたが嘗ての夫に会いたくなり、家を、王国を去る決意をするが意外にも近く王国に来るという情報を得る。 前世の夫に一目でも良いから会いたい。会ったら、王国を去ろうとセラティーナが嬉々と準備をしていると今まで聖女に夢中だったシュヴァルツがセラティーナを気にしだした。

婚約者に子どもが出来ました。その子は後継者にはなりません。

あお
恋愛
 エリーゼには婚約者がいた。幼いころに決められた婚約者だ。  エリーゼは侯爵家の一人娘で婿を取る必要があった。  相手は伯爵家の三男。  だがこの男、なぜか上から目線でエリーゼに絡んでくる。  エスコートをしてやった、プレゼントをおくってやった、と恩着せがましい。  どちらも婚約者なら当然の責務なのに。  そしてある日の夜会で、エリーゼは目撃した。  婚約者が不貞を働き、子どもまで作っていたことを。  こんな婚約者、こっちから捨ててやるわ! とエリーゼは怒るが、父は同意してくれなかった。

不愛想な伯爵令嬢は婚約破棄を申し出る

hana
恋愛
不愛想な伯爵令嬢ロゼに縁談が持ち込まれる。 相手は同じ爵位のナイトという青年で、ロゼは彼の婚約者になることを決意する。 しかし彼の幼馴染であるカラフルという女性が現われて……

有能侍女、暗躍す

篠原 皐月
ファンタジー
 貧乏子爵家の長女として生を受けたエルセフィーナ(ソフィア)は、十二歳の時に、運命的な出会いをする。しかしそれはとんでもない波乱に満ちた、周囲を嘆かせる人生への、第一歩だった。訳あって王宮勤めをする事になってからも、如何なく有能ぶりを発揮していた、第一王女シェリル付き侍女ソフィアと、彼女に想いを寄せる元某国王子サイラスが巻き込まれる、数々の騒動についてのお話です。  【猫、時々姫君】【ものぐさ魔術師、修行中】の続編になります。

ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、 婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、 話の流れから婚約を解消という話にまでなった。 ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、 絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。

君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか

砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。 そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。 しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。 ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。 そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。 「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」 別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。しかしこれは反撃の始まりに過ぎなかった。 

処理中です...