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冬真ルート
第50話
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「どうして急にそんなこと言うの?」
「…ごめんなさい」
冬真を困らせたいわけじゃない。
それでも、なんだかほっとするから呼ばれたいと思ってしまった。
「後でね。今は感覚が鈍ってるから痛くないかもしれないけど、これからきっと痛くなるから」
冬真はそう話すと、そっと私の手を包みこむように握ってくれた。
とても温かくて、少しずつ気が緩んでしまう。
「…行きたくないけど戻った方がいいか」
「あの…」
「これから廃教会に行く。君も来る?」
「行きたいです」
あの人たちは冬真を狙っていた。
それなら冬香さんのことも知られているかもしれない。
もし今ひとりでいるところを襲われたら、追い返すのは難しいだろう。
「…入るよ」
「ん……誰?」
「あんたの様子を確認しに来た」
「あれ、冬真?と…その手どうしたの、お姫様」
体をゆっくり起こす冬香さんはなんだか辛そうで、駆け寄ろうとした。
その瞬間、ぴりっと手に痛みが走る。
「…痛い?」
頷くと、冬真は慣れた様子で包帯を解いた。
「僕にはこれくらいしかできないけど、冬真が手当てしている間退屈させないよ」
「何をするつもりなんですか?」
そう尋ねると、冬香さんは笑顔で筒みたいなものを見せてくれた。
「ここには種も仕掛けもないんだけど…はい」
冬香さんがその筒を勢いよくふると、どこからか花が出てきた。
「すごく綺麗ですね…どこから咲いたんですか?」
「まさかそんなことを訊かれるとは思わなかった」
冬香さんは笑っていて、手にはいつの間にか包帯が巻き終わっている。
「…花言葉じゃなくてちゃんと言葉で伝えろよ」
「そんな冷たいこと言わなくてもいいのに…冬真の意地悪」
「やっぱり秋久さんを呼ぶ」
わいわい話しているふたりが微笑ましくて、見ているだけでほっこりする。
「さっきの花の花言葉は感謝。君の部屋に飾られていた花の花言葉は警告だった」
だから冬真に見える場所でお世話してほしいってお願いされたんだ。
今更ながら、冬香さんの優しさに触れた。
「私には、そういう知識がないので…ふたりとも、花が好きなんですね」
「まあ、雑学程度だけど」
「そういうの、冬真は昔から好きだったよね。今も変わらないんだ…」
楽しそうに笑っている冬香さんに気づかないふりをしながら、冬真が手を差し出してくれた。
「帰ろう」
「は、はい」
「お姫様ともうちょっと話をしたかったんだけどな…」
「あんたはもう寝て」
以前ほど気まずそうじゃないふたりの会話は少しぎこちなく聞こえるときもあるけれど、いつか雪どけがくるような気がする。
気がするというより、くると信じたい。
「いい子だから誰かに取られないようにね」
「…まあ、それは間違ってない」
よく分からない話でも、ふたりにとっては必要なことなのだ。
「その花あげる。蕀姫なら大切にしてくれそうだから」
「が、頑張ります」
怪我をしていない方の手を優しく掴まれて、引っ張られるまま歩く。
今の時間がとても心地よく感じた。
「…ごめんなさい」
冬真を困らせたいわけじゃない。
それでも、なんだかほっとするから呼ばれたいと思ってしまった。
「後でね。今は感覚が鈍ってるから痛くないかもしれないけど、これからきっと痛くなるから」
冬真はそう話すと、そっと私の手を包みこむように握ってくれた。
とても温かくて、少しずつ気が緩んでしまう。
「…行きたくないけど戻った方がいいか」
「あの…」
「これから廃教会に行く。君も来る?」
「行きたいです」
あの人たちは冬真を狙っていた。
それなら冬香さんのことも知られているかもしれない。
もし今ひとりでいるところを襲われたら、追い返すのは難しいだろう。
「…入るよ」
「ん……誰?」
「あんたの様子を確認しに来た」
「あれ、冬真?と…その手どうしたの、お姫様」
体をゆっくり起こす冬香さんはなんだか辛そうで、駆け寄ろうとした。
その瞬間、ぴりっと手に痛みが走る。
「…痛い?」
頷くと、冬真は慣れた様子で包帯を解いた。
「僕にはこれくらいしかできないけど、冬真が手当てしている間退屈させないよ」
「何をするつもりなんですか?」
そう尋ねると、冬香さんは笑顔で筒みたいなものを見せてくれた。
「ここには種も仕掛けもないんだけど…はい」
冬香さんがその筒を勢いよくふると、どこからか花が出てきた。
「すごく綺麗ですね…どこから咲いたんですか?」
「まさかそんなことを訊かれるとは思わなかった」
冬香さんは笑っていて、手にはいつの間にか包帯が巻き終わっている。
「…花言葉じゃなくてちゃんと言葉で伝えろよ」
「そんな冷たいこと言わなくてもいいのに…冬真の意地悪」
「やっぱり秋久さんを呼ぶ」
わいわい話しているふたりが微笑ましくて、見ているだけでほっこりする。
「さっきの花の花言葉は感謝。君の部屋に飾られていた花の花言葉は警告だった」
だから冬真に見える場所でお世話してほしいってお願いされたんだ。
今更ながら、冬香さんの優しさに触れた。
「私には、そういう知識がないので…ふたりとも、花が好きなんですね」
「まあ、雑学程度だけど」
「そういうの、冬真は昔から好きだったよね。今も変わらないんだ…」
楽しそうに笑っている冬香さんに気づかないふりをしながら、冬真が手を差し出してくれた。
「帰ろう」
「は、はい」
「お姫様ともうちょっと話をしたかったんだけどな…」
「あんたはもう寝て」
以前ほど気まずそうじゃないふたりの会話は少しぎこちなく聞こえるときもあるけれど、いつか雪どけがくるような気がする。
気がするというより、くると信じたい。
「いい子だから誰かに取られないようにね」
「…まあ、それは間違ってない」
よく分からない話でも、ふたりにとっては必要なことなのだ。
「その花あげる。蕀姫なら大切にしてくれそうだから」
「が、頑張ります」
怪我をしていない方の手を優しく掴まれて、引っ張られるまま歩く。
今の時間がとても心地よく感じた。
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