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冬真ルート
第49話
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熱い、痛い、怖い。
そんな感情が体中を駆け巡る。
「い、あ…」
「月見!」
また名前を呼んでくれた…そんなことが頭の片隅に思い浮かんだけれど、痛みが激しくて何も言葉にできない。
「…こんなことして、一体何が楽しいっていうの?」
冬真の声は怒りに満ち溢れていて、今の一言を聞いただけでピリピリする。
それは相手の男の人たちも同じみたいだった。
「ちゃんと相手してあげるからかかってきなよ」
沢山の人たちが襲いかかるのは分かったものの、どうにかできるように動くことはできなかった。
どうしても手が痛くて動けない。ただ、今の状況で誰かを呼ぶのは難しいそうだ。
「…ほら、ちゃんと向かってきなよ。それとも、何の覚悟もないくせに僕たちを襲ったのか?」
冬真の動きがさっきより速くなって、瞬間移動しているみたいだった。
次々に人が倒れていくのをただ見ていることしかできない。
気持ちばかりが焦って何もできなかった。
「終わったみたい。そっちは大丈夫…なわけないよね。ごめん」
冬真は私に駆け寄ってすぐ声をかけてくれた。
ただ、また彼に頼りっぱなしだと思うと辛い。
「…蔦、仕舞える?」
その言葉に頷くと、いつもどおり蕀さんたちはばらばらと崩れていった。
「痛かったらすぐ言ってね」
消毒液を少しずつ綿に染みこませながら話す冬真の表情は、なんだか少し曇って見える。
悲鳴をあげそうになったのを堪えて、じっと彼を見つめた。
「と、ま…」
「どうしたの?」
「大丈夫、です」
汚れていない方の手で、できるだけ優しく頬を撫でる。
今にも泣き出しそうに見えて、放っておくことなんてできない。
「弱くてごめん」
「護ってくれて、ありがとうございます」
少しずつ手当てしてもらっている方の手の感覚がなくなっていく。
そのおかげでなんとか話ができそうだ。
「また君のことを危険な目に遭わせて、巻きこんで…本当にごめん」
「冬真と一緒にいられて、毎日が希望になりました。だから、そんなふうに申し訳なかったなんて思わないでほしいです」
自分を責めないでほしくて…泣かないでほしくてそんな言葉を伝える。
今話したことに嘘なんてひとつもない。
「…本当にごめん」
「本当に大丈夫です」
あんまり感覚がないのは気になるけれど、全然動かせないわけじゃない。
「あの、その人たちは…」
「回収にきてもらえるように頼んだから大丈夫」
そう言った彼の後ろをついていく。
何か話したくて、前から少し思っていたことを言ってみることにした。
「冬真」
「どうしたの?」
「ひとつ、お願いをしてもいいですか?」
「僕にできることなら」
こんなことを言ってしまっていいのか分からないけれど、じっと顔を見ながらお願いしてみる。
「あの…名前、呼んでもらえませんか?」
そんな感情が体中を駆け巡る。
「い、あ…」
「月見!」
また名前を呼んでくれた…そんなことが頭の片隅に思い浮かんだけれど、痛みが激しくて何も言葉にできない。
「…こんなことして、一体何が楽しいっていうの?」
冬真の声は怒りに満ち溢れていて、今の一言を聞いただけでピリピリする。
それは相手の男の人たちも同じみたいだった。
「ちゃんと相手してあげるからかかってきなよ」
沢山の人たちが襲いかかるのは分かったものの、どうにかできるように動くことはできなかった。
どうしても手が痛くて動けない。ただ、今の状況で誰かを呼ぶのは難しいそうだ。
「…ほら、ちゃんと向かってきなよ。それとも、何の覚悟もないくせに僕たちを襲ったのか?」
冬真の動きがさっきより速くなって、瞬間移動しているみたいだった。
次々に人が倒れていくのをただ見ていることしかできない。
気持ちばかりが焦って何もできなかった。
「終わったみたい。そっちは大丈夫…なわけないよね。ごめん」
冬真は私に駆け寄ってすぐ声をかけてくれた。
ただ、また彼に頼りっぱなしだと思うと辛い。
「…蔦、仕舞える?」
その言葉に頷くと、いつもどおり蕀さんたちはばらばらと崩れていった。
「痛かったらすぐ言ってね」
消毒液を少しずつ綿に染みこませながら話す冬真の表情は、なんだか少し曇って見える。
悲鳴をあげそうになったのを堪えて、じっと彼を見つめた。
「と、ま…」
「どうしたの?」
「大丈夫、です」
汚れていない方の手で、できるだけ優しく頬を撫でる。
今にも泣き出しそうに見えて、放っておくことなんてできない。
「弱くてごめん」
「護ってくれて、ありがとうございます」
少しずつ手当てしてもらっている方の手の感覚がなくなっていく。
そのおかげでなんとか話ができそうだ。
「また君のことを危険な目に遭わせて、巻きこんで…本当にごめん」
「冬真と一緒にいられて、毎日が希望になりました。だから、そんなふうに申し訳なかったなんて思わないでほしいです」
自分を責めないでほしくて…泣かないでほしくてそんな言葉を伝える。
今話したことに嘘なんてひとつもない。
「…本当にごめん」
「本当に大丈夫です」
あんまり感覚がないのは気になるけれど、全然動かせないわけじゃない。
「あの、その人たちは…」
「回収にきてもらえるように頼んだから大丈夫」
そう言った彼の後ろをついていく。
何か話したくて、前から少し思っていたことを言ってみることにした。
「冬真」
「どうしたの?」
「ひとつ、お願いをしてもいいですか?」
「僕にできることなら」
こんなことを言ってしまっていいのか分からないけれど、じっと顔を見ながらお願いしてみる。
「あの…名前、呼んでもらえませんか?」
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