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冬真ルート
第44.5話
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「随分仲良しなんですね、ふたりは」
「普通だと思う。…それより今は、ラムネ屋の話を聞きたい」
ふたりが来たということは、きっと新しい情報を手に入れたからに違いない。
春人さんが作戦会議や怪我をしたとき以外直接やってくるのは珍しいし、雪乃だって暇なわけではないだろう。
「これを見てほしくてきた」
「雪乃の探偵事務所のポストに入っていたそうです。差出人を調べようと試みたのですが、結局分からずじまいでした」
「僕の方でもやってみる」
ふたりは真剣な表情をこちらに向けてはいるものの、疲労の色が滲み出ている。
恐らくふたりも夜通し調べていたのだろう。
「他に分かったことは?」
「そういえば、サイトに軽い攻撃のようなものが仕掛けられていました。
よく分からなかったので一先ず解除しておきましたが、確認していただけませんか?」
「…これか」
「何か問題でもあった?」
「これの設定をかえないと困っている人たちもこのページに辿り着けなくなる。
ただ、春人さんが言ってた攻撃をかわすにはひと工夫必要かもしれない」
「何か手を加えるんですか?」
「ううん。単純にもう少しだけセキュリティを固くしておこうと思う」
本来であればもっと強固にできればいいけど、これ以上固くしすぎれば行き着く人が少なくなる。
それは必然的に救える人が減る事態に繋がりかねない。
「サイトに攻撃を仕掛けてきたのは一味に手を貸しているハッカーの可能性が高いと思う。…あいつになら負ける気がしない」
「あまり無理をしないようにしてくださいね」
「それはこっちの台詞だよ。春人さんも雪乃も寝てないでしょ?ちゃんと休まないと本気で体を壊すよ」
「医者の言葉だと思うとかなり重く聞こえる」
「聞こえるんじゃなくて重いんだよ。…多分」
そんな話をしているうち、時間なんてあっという間に過ぎていく。
「それじゃあふたりとも、ゆっくり休んで」
「…ひとつ訊いてもいい?」
「何?」
雪乃が質問してくるなんて珍しい…なんて呑気に構えていた。
「どうして月見のことを名前で呼んであげないの?」
まさかそんなことを訊かれるとは思っていなかった。
何故、なんて考えたこともなかったけど、仲良くなりすぎると辛くなることもあるから無意識にそうしていたのかもしれない。
「友好関係を広げるのは悪いことばかりではないはずです。
それに、彼女と話している冬真はとても楽しそうですし…どう思っているかを抜きにしても、もう少し距離を縮めていいのではないでしょうか?」
「…考えておく」
こんなぶっきらぼうな言い方しかできなくて申し訳ないけど、僕にはそれがせいいっぱいだった。
もし大切な相手ができてあいつみたいにいなくなったそのときは、きっともう立ち直れない。
そう思うと、深い関係を築くのが怖くなる。
ふたりにご飯を食べていくように話して彼女の部屋をノックしてみたが返事がない。
心配になって開けてみると、腕を押さえたまま蹲る彼女が目に入った。
「普通だと思う。…それより今は、ラムネ屋の話を聞きたい」
ふたりが来たということは、きっと新しい情報を手に入れたからに違いない。
春人さんが作戦会議や怪我をしたとき以外直接やってくるのは珍しいし、雪乃だって暇なわけではないだろう。
「これを見てほしくてきた」
「雪乃の探偵事務所のポストに入っていたそうです。差出人を調べようと試みたのですが、結局分からずじまいでした」
「僕の方でもやってみる」
ふたりは真剣な表情をこちらに向けてはいるものの、疲労の色が滲み出ている。
恐らくふたりも夜通し調べていたのだろう。
「他に分かったことは?」
「そういえば、サイトに軽い攻撃のようなものが仕掛けられていました。
よく分からなかったので一先ず解除しておきましたが、確認していただけませんか?」
「…これか」
「何か問題でもあった?」
「これの設定をかえないと困っている人たちもこのページに辿り着けなくなる。
ただ、春人さんが言ってた攻撃をかわすにはひと工夫必要かもしれない」
「何か手を加えるんですか?」
「ううん。単純にもう少しだけセキュリティを固くしておこうと思う」
本来であればもっと強固にできればいいけど、これ以上固くしすぎれば行き着く人が少なくなる。
それは必然的に救える人が減る事態に繋がりかねない。
「サイトに攻撃を仕掛けてきたのは一味に手を貸しているハッカーの可能性が高いと思う。…あいつになら負ける気がしない」
「あまり無理をしないようにしてくださいね」
「それはこっちの台詞だよ。春人さんも雪乃も寝てないでしょ?ちゃんと休まないと本気で体を壊すよ」
「医者の言葉だと思うとかなり重く聞こえる」
「聞こえるんじゃなくて重いんだよ。…多分」
そんな話をしているうち、時間なんてあっという間に過ぎていく。
「それじゃあふたりとも、ゆっくり休んで」
「…ひとつ訊いてもいい?」
「何?」
雪乃が質問してくるなんて珍しい…なんて呑気に構えていた。
「どうして月見のことを名前で呼んであげないの?」
まさかそんなことを訊かれるとは思っていなかった。
何故、なんて考えたこともなかったけど、仲良くなりすぎると辛くなることもあるから無意識にそうしていたのかもしれない。
「友好関係を広げるのは悪いことばかりではないはずです。
それに、彼女と話している冬真はとても楽しそうですし…どう思っているかを抜きにしても、もう少し距離を縮めていいのではないでしょうか?」
「…考えておく」
こんなぶっきらぼうな言い方しかできなくて申し訳ないけど、僕にはそれがせいいっぱいだった。
もし大切な相手ができてあいつみたいにいなくなったそのときは、きっともう立ち直れない。
そう思うと、深い関係を築くのが怖くなる。
ふたりにご飯を食べていくように話して彼女の部屋をノックしてみたが返事がない。
心配になって開けてみると、腕を押さえたまま蹲る彼女が目に入った。
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