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秋久ルート
第38話
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「お嬢ちゃん、そっちの砂糖をとってもらえないか?」
「は、はい。これでしょうか?」
「ありがとな」
「い、いえ…」
秋久さんは相変わらず優しくしてくれる。
冬真さんがお休みで一緒にいるときは3人で料理をすることも多い。
「お嬢ちゃん」
「どうかしましたか?」
「ここ、ついてる」
「あ…ありがとうございます」
袖についていた生地をとってくれて、それがただありがたい。
「本当に仲がいいんだね」
「まあ、仲が悪いわけじゃないと俺は思ってる。お嬢ちゃんが嫌じゃなければの話だがな」
「嫌じゃ、ないです。誰かとお料理したことなんてなかったので、楽しくて…」
「そうか」
秋久さんも冬真さんも笑ってくれている。
そのことが何より嬉しい。
「甘栗、おまえ何してる?」
可愛らしい鳴き声をあげながらこちらを見つめるつぶらな瞳にやられてしまいそうになりながら、なんとか作業工程を終わらせた。
「…よし、完成だ」
「もう少し材料を買っておけばよかった」
3人で作ると早くできあがってしまう。
ずっとこんな時間が続いたほしいと思うくらい寂しい。
「お、パンケーキ?美味しそうだね」
「お邪魔します」
声がした方を見ると、春人さんと夏彦さんが微笑んでいた。
「調べもの、終わったのか?」
「一応ね。これで足りるか分からないけど、なんとかできると思う」
「僕も、頼まれていたものを作り終えました。それから、ついでに家の様子も見てきましたよ」
「直接確認するのは賭けになるだろうから、行ってもらえて助かった」
私が聞いたらいけない話があるのかもしれない。
一礼して部屋に戻ると、甘栗もとてとてと歩いてついてきた。
「ここで待っていましょうか」
なんだかご機嫌な様子で膝の上に座る甘栗をできるだけ優しく撫でる。
近くにあったブラシを使うと、気持ちよさそうに目を閉じていた。
……それからどのくらい時間が経っただろうか。
扉がノックされて恐る恐る開けてみる。
「月見、久しぶり!」
「花菜…?こんにちは」
いつの間にやってきたんだろう。
そんなことを考えていると、甘栗が警戒心むき出しの体勢で花菜を見ている。
「甘栗、大丈夫ですよ」
「そこまで拒絶しなくてもいいのに…。毒を盛られたって聞いてたけど、思ったより元気そうでよかった。
体調はもういいの?」
「はい。もう動けます」
「答えになってるような、なってないような…まあ、とにかく元気ならそれでいいんだ」
花菜は安心した様子で私に尋ねてきた。
「もし月見がよかったらなんだけど、直してほしいものがあるんだ」
「そんなこと、私にできるでしょうか」
「先輩の大事なもの、直したって聞いたよ。友だちのものなんだけど、ここのボタンをどうしてもつけられなくて…駄目?」
裁縫ならなんとかできるかもしれない。
大切なものが直らなくて困っているなら、できるところまでやってみよう。
「で、出来る限り頑張ります」
「は、はい。これでしょうか?」
「ありがとな」
「い、いえ…」
秋久さんは相変わらず優しくしてくれる。
冬真さんがお休みで一緒にいるときは3人で料理をすることも多い。
「お嬢ちゃん」
「どうかしましたか?」
「ここ、ついてる」
「あ…ありがとうございます」
袖についていた生地をとってくれて、それがただありがたい。
「本当に仲がいいんだね」
「まあ、仲が悪いわけじゃないと俺は思ってる。お嬢ちゃんが嫌じゃなければの話だがな」
「嫌じゃ、ないです。誰かとお料理したことなんてなかったので、楽しくて…」
「そうか」
秋久さんも冬真さんも笑ってくれている。
そのことが何より嬉しい。
「甘栗、おまえ何してる?」
可愛らしい鳴き声をあげながらこちらを見つめるつぶらな瞳にやられてしまいそうになりながら、なんとか作業工程を終わらせた。
「…よし、完成だ」
「もう少し材料を買っておけばよかった」
3人で作ると早くできあがってしまう。
ずっとこんな時間が続いたほしいと思うくらい寂しい。
「お、パンケーキ?美味しそうだね」
「お邪魔します」
声がした方を見ると、春人さんと夏彦さんが微笑んでいた。
「調べもの、終わったのか?」
「一応ね。これで足りるか分からないけど、なんとかできると思う」
「僕も、頼まれていたものを作り終えました。それから、ついでに家の様子も見てきましたよ」
「直接確認するのは賭けになるだろうから、行ってもらえて助かった」
私が聞いたらいけない話があるのかもしれない。
一礼して部屋に戻ると、甘栗もとてとてと歩いてついてきた。
「ここで待っていましょうか」
なんだかご機嫌な様子で膝の上に座る甘栗をできるだけ優しく撫でる。
近くにあったブラシを使うと、気持ちよさそうに目を閉じていた。
……それからどのくらい時間が経っただろうか。
扉がノックされて恐る恐る開けてみる。
「月見、久しぶり!」
「花菜…?こんにちは」
いつの間にやってきたんだろう。
そんなことを考えていると、甘栗が警戒心むき出しの体勢で花菜を見ている。
「甘栗、大丈夫ですよ」
「そこまで拒絶しなくてもいいのに…。毒を盛られたって聞いてたけど、思ったより元気そうでよかった。
体調はもういいの?」
「はい。もう動けます」
「答えになってるような、なってないような…まあ、とにかく元気ならそれでいいんだ」
花菜は安心した様子で私に尋ねてきた。
「もし月見がよかったらなんだけど、直してほしいものがあるんだ」
「そんなこと、私にできるでしょうか」
「先輩の大事なもの、直したって聞いたよ。友だちのものなんだけど、ここのボタンをどうしてもつけられなくて…駄目?」
裁縫ならなんとかできるかもしれない。
大切なものが直らなくて困っているなら、できるところまでやってみよう。
「で、出来る限り頑張ります」
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