265 / 385
秋久ルート
第29話
しおりを挟む
「どんどん俺の事情に巻きこんでる気がする。悪い」
「私は、秋久さんとの生活が楽しいです」
「…そうか」
秋久さんに悲しい顔をしてほしくないし、私はここでの生活で自分がいてもいいんだと初めて思えた。
ありがとうなんて言葉をかけてもらえたのも、料理を美味しいと言って食べてもらえたのも…他にも沢山嬉しいことを知ることができたと思う。
「お嬢ちゃんは本当に楽しそうな顔をするようになったな」
「そう、かもしれません」
「どういう反応だ、それは…。まあ、楽しそうじゃなくて楽しいならそれでいいんだけどな」
頭を撫でてくれるのは癖なのか、それとも安心させてくれているのか…。
どのみち、私はそうされるのが嫌じゃない。
「私は、秋久さんの役に立てているでしょうか?」
「俺は別に役に立つ立たないで周りにいる奴を決めてるわけじゃない。
ただ、俺はいつもお嬢ちゃんに助けられてる」
その一言で安心したけれど、優しさで言ってくれているだけなら申し訳ない。
「…秋久さんはお世辞を言うような人じゃない。だから、そんなに不安がらなくていいんじゃない?」
「は、はい」
どうして冬真さんに考えていたことが分かってしまったんだろう。
顔に出ていたのだろうか。
頭がぐるぐるしていると、秋久さんが冬真さんを撫でた。
「おまえはもう少しいい方を気をつけような」
「秋久さんこそ、無自覚に人を撫でるのはやめて。あと、もうちょっと周りに頼ることを覚えたほうがいいと思う」
「…相変わらず鋭いな」
今の会話で、冬真さんの人の気持ちを察知する力がすごいことが分かった。
「あの、俺もいるんだけど…そろそろ会話に入ってもいい?」
「ああ、悪い。すっかり忘れていつもの調子で話してた」
その一言で、途中から報告があるからと夏彦さんがやってきていたことを思い出す。
「あんたはもうちょっと向こうにいて」
「分かったから、そこまで冷たい視線向けないでまー君」
「…態度次第」
ふたりは仲が悪いのかと思っていたけれど、そういうわけではなさそうだ。
飲み物を淹れて貸してもらっている部屋に戻ろうとした瞬間、何かが夏彦さんに飛びついた。
「え、何!?」
足の方から唸り声が聞こえて目線を下に向けると、甘栗が小さく震えながら声をあげていた。
「…甘栗、危ないですからこっちにきてください。心配しなくても、誰も秋久さんに意地悪しようとしてないですから…。
向こうで一緒にお話しましょう」
多分、甘栗からすれば夏彦さんが秋久さんを苛めているように見えたのだろう。
実際はそんなことないと分かっているから、なんとか説得することができた。
「ありがとう…月見ちゃん天才!」
「い、いえ。大したことはしていないので…失礼します」
甘栗を抱きかかえて、そのまま奥の部屋へ小走りで入る。
変な態度をとっていないか不安になったけれど、甘栗も怪我をしていないみたいで安心した。
「私は、秋久さんとの生活が楽しいです」
「…そうか」
秋久さんに悲しい顔をしてほしくないし、私はここでの生活で自分がいてもいいんだと初めて思えた。
ありがとうなんて言葉をかけてもらえたのも、料理を美味しいと言って食べてもらえたのも…他にも沢山嬉しいことを知ることができたと思う。
「お嬢ちゃんは本当に楽しそうな顔をするようになったな」
「そう、かもしれません」
「どういう反応だ、それは…。まあ、楽しそうじゃなくて楽しいならそれでいいんだけどな」
頭を撫でてくれるのは癖なのか、それとも安心させてくれているのか…。
どのみち、私はそうされるのが嫌じゃない。
「私は、秋久さんの役に立てているでしょうか?」
「俺は別に役に立つ立たないで周りにいる奴を決めてるわけじゃない。
ただ、俺はいつもお嬢ちゃんに助けられてる」
その一言で安心したけれど、優しさで言ってくれているだけなら申し訳ない。
「…秋久さんはお世辞を言うような人じゃない。だから、そんなに不安がらなくていいんじゃない?」
「は、はい」
どうして冬真さんに考えていたことが分かってしまったんだろう。
顔に出ていたのだろうか。
頭がぐるぐるしていると、秋久さんが冬真さんを撫でた。
「おまえはもう少しいい方を気をつけような」
「秋久さんこそ、無自覚に人を撫でるのはやめて。あと、もうちょっと周りに頼ることを覚えたほうがいいと思う」
「…相変わらず鋭いな」
今の会話で、冬真さんの人の気持ちを察知する力がすごいことが分かった。
「あの、俺もいるんだけど…そろそろ会話に入ってもいい?」
「ああ、悪い。すっかり忘れていつもの調子で話してた」
その一言で、途中から報告があるからと夏彦さんがやってきていたことを思い出す。
「あんたはもうちょっと向こうにいて」
「分かったから、そこまで冷たい視線向けないでまー君」
「…態度次第」
ふたりは仲が悪いのかと思っていたけれど、そういうわけではなさそうだ。
飲み物を淹れて貸してもらっている部屋に戻ろうとした瞬間、何かが夏彦さんに飛びついた。
「え、何!?」
足の方から唸り声が聞こえて目線を下に向けると、甘栗が小さく震えながら声をあげていた。
「…甘栗、危ないですからこっちにきてください。心配しなくても、誰も秋久さんに意地悪しようとしてないですから…。
向こうで一緒にお話しましょう」
多分、甘栗からすれば夏彦さんが秋久さんを苛めているように見えたのだろう。
実際はそんなことないと分かっているから、なんとか説得することができた。
「ありがとう…月見ちゃん天才!」
「い、いえ。大したことはしていないので…失礼します」
甘栗を抱きかかえて、そのまま奥の部屋へ小走りで入る。
変な態度をとっていないか不安になったけれど、甘栗も怪我をしていないみたいで安心した。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
世界が色付くまで
篠原 皐月
恋愛
ただこのまま、この狭い無彩色の世界で、静かに朽ちて逝くだけだと思っていた……。
そんな漠然とした予想に反して、数年前恭子の目の前に広がった世界は、少しずつ確実に新しい自分を作り上げていったが、時折追いかけて来る過去が彼女の心身を覆い隠し、心の中に薄闇を広げていた。そんな変わり映えしない日常の中、自己中心極まりない雇い主から受けたとある指令で、恭子は自分とは相対する立場の人間と真正面から向き合う事になる。
【夢見る頃を過ぎても】続編。背負った重荷の為、互いに自分の感情を容易に表に出せない男女の、迷走する恋愛模様を書いていきます。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
ある公爵令嬢の生涯
ユウ
恋愛
伯爵令嬢のエステルには妹がいた。
妖精姫と呼ばれ両親からも愛され周りからも無条件に愛される。
婚約者までも妹に奪われ婚約者を譲るように言われてしまう。
そして最後には妹を陥れようとした罪で断罪されてしまうが…
気づくとエステルに転生していた。
再び前世繰り返すことになると思いきや。
エステルは家族を見限り自立を決意するのだが…
***
タイトルを変更しました!
憑かれるのはついてくる女子高生と幽霊
水瀬真奈美
恋愛
家出じゃないもん。これは社会勉強!
家出人少女は、雪降る故郷を離れて東京へと向かった。東京では行く当てなんてないだから、どうしようか? 車内ではとりあえずSNSのツイツイを立ち上げては、安全そうなフォロワーを探すことに……。
狙いの隙間で積み重ねるアイ
西沢きさと
BL
暗殺を生業にしている裏稼業コンビによる、仕事の合間のいちゃいちゃ話です。
サポート役の溺愛おにーさん × 情緒育ち中の無自覚狙撃手。
自分のことを「おにーさん」と呼ぶ飄々とした態度の胡散臭い攻めが、無自覚な年下受けに内心で翻弄されているのが好きです。
◆
Twitter(現X)で開催されているワンライ【#創作BL版深夜の60分一本勝負】に参加したSS集。
今後増えていくかもしれないしこれで終わりかもしれない、という無計画な連作ワンライです。
勢いで書いたまま、ほぼ手直しせずに掲載しているので、少しの矛盾や粗さには目を瞑ってやってください。
60分でお話作るの、本当に難しいですね。
「婚約の約束を取り消しませんか」と言われ、涙が零れてしまったら
古堂すいう
恋愛
今日は待ちに待った婚約発表の日。
アベリア王国の公爵令嬢─ルルは、心を躍らせ王城のパーティーへと向かった。
けれど、パーティーで見たのは想い人である第二王子─ユシスと、その横に立つ妖艶で美人な隣国の王女。
王女がユシスにべったりとして離れないその様子を見て、ルルは切ない想いに胸を焦がして──。
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる