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冬真ルート
第24話
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「冬真、さ、」
最後まで言い終わらないうちに、いつもよりずっと強い力で手を握られる。
その手は冷たくなっていて、かたかたと震えていた。
「無事でよかった」
どうしてこの人は怒らないんだろう。
…どうして私のことを捜してくれたのか、その理由も分からない。
上手く言葉を出せずにいると、冬真さんはぽつりぽつりと話しはじめた。
「僕は言葉にするのが下手で、それと同時に発言も躊躇することが多くて…。
助けてもらったお礼も言えず、しかもあれだけの怪我をしている君を独りで出て行かせてしまってごめん。
…蕀のことは、原理は分からなかったけどずっと知ってた」
「知っていたのに、黙っていてくれたんですか…?」
私の問いに、沈黙という肯定がかえってくる。
それはつまり、今までずっと何も訊かずにいてくれたということだ。
…なんて優しい人なんだろう。
「いつから知っていたんですか?」
「君が運ばれてきた日から。はじめは君に絡まっていたのかとも思ってたけど、それならきっとあんなふうに意思を持った動き方はしない。
…それに、もしかするとそれが暴力を受けていた原因だとしたら簡単に根掘り葉掘り訊いていいことじゃない」
冬真さんの行動ひとつひとつに思いやりがこめられていて、それを感じるとますます申し訳なくなる。
「…本当にごめんなさい」
「行く宛があって、目的の為に出ていくならいいけど、そうじゃないなら…僕は、もう少し君と過ごしたい」
「私がいても、迷惑になりませんか?」
「そもそも、誰にも迷惑をかけずに生きていくなんて無理だと思う。少なくとも、僕は色々な人たちの優しさで生きてこられた。それがなかったら、きっと今ここにいない。
君が蕀のことを知られたくないなら誰にも話すつもりはないし、言いたくないことを無理矢理話させようとは思わない。…ただ、君さえよければまたお弁当を作ってほしい」
普段あまり話す方ではない冬真さんから零れた沢山の言葉が、私の心に突き刺さる。
だんだん視界がぼやけてきて、涙が流れていることに気づいた。
「僕はやっぱり、言葉にするのが下手だけど…それでもよかったら、もう少しいてほしい」
「私がいても、いいんでしょうか?」
「寧ろいたらいけない理由が浮かばない」
冬真さんが優しく頭を撫でてくれて、それがすごく安心した。
「ありがとうございます、冬真さん」
「…でいい」
「え?」
「冬真でいい。さん、なんて付けられると、ちょっと距離が遠くなる気がするから」
「分かりました。…こんな私でよければよろしくお願いします、冬真」
冬真は手を繋いでくれて、今度こそ来た道を戻る。
手品師さん…冬香さんについては話さないでおくことにした。
最後まで言い終わらないうちに、いつもよりずっと強い力で手を握られる。
その手は冷たくなっていて、かたかたと震えていた。
「無事でよかった」
どうしてこの人は怒らないんだろう。
…どうして私のことを捜してくれたのか、その理由も分からない。
上手く言葉を出せずにいると、冬真さんはぽつりぽつりと話しはじめた。
「僕は言葉にするのが下手で、それと同時に発言も躊躇することが多くて…。
助けてもらったお礼も言えず、しかもあれだけの怪我をしている君を独りで出て行かせてしまってごめん。
…蕀のことは、原理は分からなかったけどずっと知ってた」
「知っていたのに、黙っていてくれたんですか…?」
私の問いに、沈黙という肯定がかえってくる。
それはつまり、今までずっと何も訊かずにいてくれたということだ。
…なんて優しい人なんだろう。
「いつから知っていたんですか?」
「君が運ばれてきた日から。はじめは君に絡まっていたのかとも思ってたけど、それならきっとあんなふうに意思を持った動き方はしない。
…それに、もしかするとそれが暴力を受けていた原因だとしたら簡単に根掘り葉掘り訊いていいことじゃない」
冬真さんの行動ひとつひとつに思いやりがこめられていて、それを感じるとますます申し訳なくなる。
「…本当にごめんなさい」
「行く宛があって、目的の為に出ていくならいいけど、そうじゃないなら…僕は、もう少し君と過ごしたい」
「私がいても、迷惑になりませんか?」
「そもそも、誰にも迷惑をかけずに生きていくなんて無理だと思う。少なくとも、僕は色々な人たちの優しさで生きてこられた。それがなかったら、きっと今ここにいない。
君が蕀のことを知られたくないなら誰にも話すつもりはないし、言いたくないことを無理矢理話させようとは思わない。…ただ、君さえよければまたお弁当を作ってほしい」
普段あまり話す方ではない冬真さんから零れた沢山の言葉が、私の心に突き刺さる。
だんだん視界がぼやけてきて、涙が流れていることに気づいた。
「僕はやっぱり、言葉にするのが下手だけど…それでもよかったら、もう少しいてほしい」
「私がいても、いいんでしょうか?」
「寧ろいたらいけない理由が浮かばない」
冬真さんが優しく頭を撫でてくれて、それがすごく安心した。
「ありがとうございます、冬真さん」
「…でいい」
「え?」
「冬真でいい。さん、なんて付けられると、ちょっと距離が遠くなる気がするから」
「分かりました。…こんな私でよければよろしくお願いします、冬真」
冬真は手を繋いでくれて、今度こそ来た道を戻る。
手品師さん…冬香さんについては話さないでおくことにした。
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