裏世界の蕀姫

黒蝶

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秋久ルート

第21話

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「やった、ありがとう!」
「ただ、時間的にもうおやつだな」
「あの…お菓子も、一応作れます」
「お菓子!?お願いします!」
「が、頑張ります」
緊張しながらキッチンに入って、材料を確認する。
なんでも使っていいと言ってくれたけれど、これなら他の人たちの分も仕上げられるかもしれない。
それからおやつを作ると、他の人たちも喜んでくれた。
私なんかにできることなんてないと思っていたのに、これだけ沢山の人が笑顔になるのを見ることができて嬉しい。
「流石だな」
「喜んでもらえてよかったです」
花菜が特に喜んでくれて、また作ってほしいと言ってくれた。
勿論そんな言葉をかけてもらえたのも初めてで、少しずつ心が温まっていく気がする。
「先輩、ちょっといいですか?」
「どうした?」
「ちょっと問題発生みたいです。先に会議はじめてますね」
「分かった、すぐ行く」
秋久さんの表情は真剣そのもので、申し訳なさそうに私の方を向く。
「お嬢ちゃん、ちょっとだけこの部屋で待っててもらっていいか?」
「え、あ、はい…」
「悪い。そのまま待っててくれ」
秋久さんはいつもみたいに頭をひと撫でして、私を安心させてくれた。
誰かの足音が聞こえたけれど、キッチンで待っていてほしいということは何か理由があるはずだ。
「……だから、ちょっと頼んでいいか?」
「じゃあ、例の目撃者って──なんですか?」
「ああ。だからひとりにしておけなくてな…悪いが頼む」
「了解しました。俺、今日は基本的にここにいるのでなんでも言ってください」
「ありがとな。渋沢には書類整理、柿田には上との交渉の為の準備をしてほしい。
花菜は午後から現場だろ?これから俺も出ないといけないからな…」
所々聞こえなかったけれど、多分お仕事の話だろうということは分かった。
なんとなく全部聞くのはいけない気がして、洗い物を片づけることにする。
いつも甘栗といた時間が懐かしく感じてしまうくらい、寂しいなんて思ってしまった。
ここに置いてもらえるだけでありがたいのに、そんな我儘なんて言えない。
「お嬢ちゃん。悪いが渋沢の書類の計算を手伝ってほしい。ここは人手不足でな…できるだけ早く仕上げたい」
「わ、分かりました。…頑張ります」
「はりきりすぎないようにな」
秋久さんが部屋を出るのと同時に、渋沢さんが笑顔で近づいてきた。
「すみません。計算が遅いうえ間違えやすくて…」
「どの書類の計算を終わらせたらいいでしょうか?」
「それでは、こちらにあるものをお願いします」
折角頼んでもらえた仕事なんだから、頑張って結果を出したい。
それから数字と格闘しているうちに1日が終わった。
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