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イベントもの
遅くなった気持ち(バレンタイン)
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「……そんなに珍しい?」
「あ、えっと、すみません…」
そんな反応をされると困るが、自分でもらしくないことは分かっている。
ことの発端は今朝、夏彦に資料と小道具を届けに言ったときだ。
「え、何もしないつもりなの?」
「何の話?」
「いやいや、ハルみたいに素直になれない人の為のイベントがあるじゃん?月見ちゃんに渡したりしないの?」
そんなものとは無縁で生きてきた俺にとって、突如目の前に現れたそれは大きな試練だった。
特に料理ができない俺にとっては致命的で、しかもこんなもう既に期間が終わってかなり経つのに手の施しようがない。
「…ごめん、今日はもう帰る」
「困ったら連絡して」
夏彦には敵わない。
ただ、ここではじめから手を借りるのは違うような気がした。
誰かへの贈り物なんて、仕事以外で考えたことがなかった。
ましてや女性相手になんて、まだあの人が生きていた頃に雪乃に花を渡したくらいだ。
だが、今回の場合はそれとも違ったものになるのだろう。
店を見れば見るほど迷子になる。
…そもそも、何かを欲しがることがない彼女に何を渡せば喜んでもらえるだろう。
結局いくつかパーツを買い、それからすぐ帰路についた。
いつもは玄関を開けただけで何かしら反応が返ってくるが、今日は何もない。
寝ているのかと思っていたが、そういうわけではないらしい。
「これで乾いたでしょうか。…ラビもチェリーも綺麗になってよかったです」
どうやら、俺が持っていた数少ない友人を洗ってくれたらしい。
「ラビのこと、洗ってくれたの?」
「あ、えっと…おかえりなさい。ふたりをお風呂に入れました」
「ありがとう。少し作業するからちょっと待ってて」
「分かりました」
今日だけは作業場を見られるわけにはいかない。
こんなもので笑ってもらえるかなんて分からないが、なんとか夜までに完成させて手渡したかった。
…それが完成して無事に渡した結果、今に至る。
「どうして私に作ってくれたんですか?」
「こういうのなら、あっても邪魔にならないと思ったんど。それに、右手が使えなくても片手でつけられると思った」
あれから少しずつマッサージをしたり動かしてみたりしているが、残念ながら今ひとつ回復の兆しは見えてこない。
それでも懸命に生きる彼女を支えたくて、大切に想う心に嘘はなくてこうして側にいる。
「ありがとうございます。大切にしますね」
少しアレンジした程度のヘアピンで喜んでもらえるとは思わなかった。
それも、どう考えても女性好みではなさそうな歯車のパーツを組み合わせて作った鍵をモチーフにしただけのものだ。
…こんなことで笑ってくれるのか。
「お礼を言うのは、俺の方かもしれない」
「あの、春人…?」
「なんでもない。気に入ってもらえたなら今度別のものも作るよ」
「ありがとうございます。ただ、その…」
「やりたいことがあるならはっきり言って、月見」
「次は、一緒がいいです」
そんなことでいいのか、なんて考えつつ分かったと答える。
それから少しして、月見は慣れた手つきで夕飯を用意してくれた。
…そういえば、彼女にもバレンタインという概念がないんじゃないか…そんなことに気づいたのが空がすっかり暗くなった頃だったのは、ここだけの話。
「あ、えっと、すみません…」
そんな反応をされると困るが、自分でもらしくないことは分かっている。
ことの発端は今朝、夏彦に資料と小道具を届けに言ったときだ。
「え、何もしないつもりなの?」
「何の話?」
「いやいや、ハルみたいに素直になれない人の為のイベントがあるじゃん?月見ちゃんに渡したりしないの?」
そんなものとは無縁で生きてきた俺にとって、突如目の前に現れたそれは大きな試練だった。
特に料理ができない俺にとっては致命的で、しかもこんなもう既に期間が終わってかなり経つのに手の施しようがない。
「…ごめん、今日はもう帰る」
「困ったら連絡して」
夏彦には敵わない。
ただ、ここではじめから手を借りるのは違うような気がした。
誰かへの贈り物なんて、仕事以外で考えたことがなかった。
ましてや女性相手になんて、まだあの人が生きていた頃に雪乃に花を渡したくらいだ。
だが、今回の場合はそれとも違ったものになるのだろう。
店を見れば見るほど迷子になる。
…そもそも、何かを欲しがることがない彼女に何を渡せば喜んでもらえるだろう。
結局いくつかパーツを買い、それからすぐ帰路についた。
いつもは玄関を開けただけで何かしら反応が返ってくるが、今日は何もない。
寝ているのかと思っていたが、そういうわけではないらしい。
「これで乾いたでしょうか。…ラビもチェリーも綺麗になってよかったです」
どうやら、俺が持っていた数少ない友人を洗ってくれたらしい。
「ラビのこと、洗ってくれたの?」
「あ、えっと…おかえりなさい。ふたりをお風呂に入れました」
「ありがとう。少し作業するからちょっと待ってて」
「分かりました」
今日だけは作業場を見られるわけにはいかない。
こんなもので笑ってもらえるかなんて分からないが、なんとか夜までに完成させて手渡したかった。
…それが完成して無事に渡した結果、今に至る。
「どうして私に作ってくれたんですか?」
「こういうのなら、あっても邪魔にならないと思ったんど。それに、右手が使えなくても片手でつけられると思った」
あれから少しずつマッサージをしたり動かしてみたりしているが、残念ながら今ひとつ回復の兆しは見えてこない。
それでも懸命に生きる彼女を支えたくて、大切に想う心に嘘はなくてこうして側にいる。
「ありがとうございます。大切にしますね」
少しアレンジした程度のヘアピンで喜んでもらえるとは思わなかった。
それも、どう考えても女性好みではなさそうな歯車のパーツを組み合わせて作った鍵をモチーフにしただけのものだ。
…こんなことで笑ってくれるのか。
「お礼を言うのは、俺の方かもしれない」
「あの、春人…?」
「なんでもない。気に入ってもらえたなら今度別のものも作るよ」
「ありがとうございます。ただ、その…」
「やりたいことがあるならはっきり言って、月見」
「次は、一緒がいいです」
そんなことでいいのか、なんて考えつつ分かったと答える。
それから少しして、月見は慣れた手つきで夕飯を用意してくれた。
…そういえば、彼女にもバレンタインという概念がないんじゃないか…そんなことに気づいたのが空がすっかり暗くなった頃だったのは、ここだけの話。
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