裏世界の蕀姫

黒蝶

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冬真ルート

第2話

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夜になってもあまり眠れなくて、結局そのまま起きている。
目を閉じるとどうしても嫌なことを思い出してしまう。
ぼんやりしていると、雪みたいに綺麗な翼を動かしている何かがベッドにぶつかった。
「…あの、大丈夫ですか?」
怪我をしていないか心配になっていると、ホーと鳴いて首を傾げている。
「迷子さん、ですか?」
冬真さんに話を聞きたいけれど、この時間なら普通の人たちはきっと寝ているだろう。
追い出してしまうのも申し訳なくて、その鳥さんをよく観察した。
「…梟さん、なんですね。あなたはどこから来たんですか?」
触っていいのか分からなくて伸ばした手を引っ込めようとすると、ばさばさと音をたててこちらに近づいてきた。
足元をよく見ると、そこには何か紙がくくりつけられている。
何かの罠なのか、飼い主さんがいる印なのか…外の世界のことを、私はよく知らない。
「怪我、してないみたいですね」
腕にぴたりととまられて、そのままの体勢でじっと見つめる。
どうしようか困っていると、扉が勢いよく開かれた。
「…やっぱりここにいた」
「あの、この子は、」
「スノウ」
「え…?」
「その子の名前。スノウっていうんだ。僕が飼ってるんだけど、随分君に懐いたみたいだね。
初対面の相手には警戒して、そんなふうに近づいたりしないのに」
冬真さんはぽつりとそう呟くと、そっと手をこちらに差し出した。
「スノウ、そのお姉さんを困らせないで」
言葉の意味が分かったのか、スノウと呼ばれた梟は羽を動かして冬真さんに向かって飛んでいく。
「あ、あの、」
「…どうかした?」
「スノウさんの足に結んでいるものって、何ですか?」
「仕事関係」
「お仕事、ですか?」
「…スノウって呼ばないと反応しないから、できればさん付けはしない方がいい。
それから、眠れそうにないなら飲み物飲んで横になってて。飲み物はこれから持ってくる」
「あ…」
お礼を言いたかったのに、冬真さんはスノウとふたりで足早に部屋を出てしまった。
まだまだ戸惑うことも多いけれど、次はちゃんとお礼を言いたい。
「…淹れてきた。アレルギーは?」
「多分ないと思います。ありがとうございます。…いただきます」
それは初めて飲むもので、なんだか少し甘い気がした。
「…そんなに美味しかった?」
「あ、えっと…ごめんなさい」
「別に怒ってない。ただ、飲んだことなかったんだなって思っただけ」
「どうして分かるんですか…?」
「見ていればなんとなくは」
こんなふうにあの場所の人たち以外と話すのは初めてで、なんだかいつもとは違う緊張がはしる。
開いている窓から風が入ってきて、冬真さんの漆黒の髪がふわふわと揺れた。
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