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冬真ルート
第1話
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「ちょっと待って」
「あ、あの…」
「そんなに怯えなくてもいい。君は僕の患者だし、取り敢えず今はここにいていいんじゃない?」
冬真さんに手を握られて、びくっと肩が震えてしまう。
怒られるのか、それとも…どうしてもあの場所と同じように考えてしまって、上手く言葉が出てこない。
「…いいよね?このまま帰すのも危ないだろうから」
「まあ、そうだな。冬真なら任せても大丈夫だろ」
「まー君頑張れ」
「人助けのプロですからね」
他の3人の言葉を聞いても意味がよく分からなかった。
ただ、冬真さんの表情はなんだか曇っているような気がする。
「お嬢ちゃん、冬真は無愛想だが決して悪い奴じゃない。ここにいれば安全だし、あれだけの荷物を持ってたってことはわけありなんだろ?
俺たちはそういう奴等の助けになりたくて集まってできたチームだから、心配しなくていい」
「…ごめんなさい」
私にはただ謝ることしかできなくて、本当に申し訳ない。
ただ、お腹が空いているのと傷が痛むので体に力が入らなかった。
「…取り敢えず君はそこで横になってて。そのまま大人しく休むのが1番だろうから」
「すみません…」
「…さっきから謝ってばかりだけど、僕たちは君が悪いとは思ってないから」
それだけ話すと冬真さんは扉を閉めてどこかへ行ってしまった。
暗い場所で独りきり、床に丸くなって寝転がる…それが日常になっていたのでこんなにふかふかの布団で寝るのは初めてだ。
それから少しして、小さめの音で扉がたたかれた。
「…ごめん、ちょっと入る」
「は、はい」
そう話した冬真さんの手から小さめの丼がのったトレイが真っ直ぐ運ばれてきて、小さめのテーブルに食べやすいように置いてくれた。
「何がいいか分からないし、取り敢えずこれ食べて」
「ごめんなさ、」
「こういうとき、そんなふうに謝られても困る」
「ごめんなさい…」
いつものように言葉を絞り出すと、冬真さんにため息を吐かれてしまった。
もしかして、今度こそ怒らせてしまったのだろうか。
怖くなって目を閉じようとすると、ゆっくり手を握られた。
「今までの暮らしの蓄積でそんなふうにすぐ謝っちゃうんだろうけど、悪いことをしたわけじゃないんだからこの場合はお礼の方がいい」
「えっと…ありがとう、ございます。いただきます」
牛丼というものは写真でしか見たことがなかった、
まさかそれがこんなに美味しいとは思わなくて、黙々と食べ進めてしまう。
遠慮しようと思っていたのに、時間をかけて完食してしまった。
「…ごちそうさまでした」
「どうだった?」
「美味しかったです」
「…そう言ってもらえると作り甲斐がある」
「え?」
「なんでもない。とにかく今夜は早く休むこと。明日の朝は少し時間に余裕があるし、また傷の具合を診せてもらうから」
冬真さんは空になった丼と水が入ったままのコップを持っていってしまう。
わざわざ作ってもらって申し訳ないと思いながらも、今の私にできることはない。
ただ、今夜のことはちゃんと覚えておきたくて新しい日記帳を開く。
こうして、冬真さんたちとの出逢いの1頁目が綴られた。
──この後の私の生き方をがらりと変えてしまうことになるとは知らないまま。
「あ、あの…」
「そんなに怯えなくてもいい。君は僕の患者だし、取り敢えず今はここにいていいんじゃない?」
冬真さんに手を握られて、びくっと肩が震えてしまう。
怒られるのか、それとも…どうしてもあの場所と同じように考えてしまって、上手く言葉が出てこない。
「…いいよね?このまま帰すのも危ないだろうから」
「まあ、そうだな。冬真なら任せても大丈夫だろ」
「まー君頑張れ」
「人助けのプロですからね」
他の3人の言葉を聞いても意味がよく分からなかった。
ただ、冬真さんの表情はなんだか曇っているような気がする。
「お嬢ちゃん、冬真は無愛想だが決して悪い奴じゃない。ここにいれば安全だし、あれだけの荷物を持ってたってことはわけありなんだろ?
俺たちはそういう奴等の助けになりたくて集まってできたチームだから、心配しなくていい」
「…ごめんなさい」
私にはただ謝ることしかできなくて、本当に申し訳ない。
ただ、お腹が空いているのと傷が痛むので体に力が入らなかった。
「…取り敢えず君はそこで横になってて。そのまま大人しく休むのが1番だろうから」
「すみません…」
「…さっきから謝ってばかりだけど、僕たちは君が悪いとは思ってないから」
それだけ話すと冬真さんは扉を閉めてどこかへ行ってしまった。
暗い場所で独りきり、床に丸くなって寝転がる…それが日常になっていたのでこんなにふかふかの布団で寝るのは初めてだ。
それから少しして、小さめの音で扉がたたかれた。
「…ごめん、ちょっと入る」
「は、はい」
そう話した冬真さんの手から小さめの丼がのったトレイが真っ直ぐ運ばれてきて、小さめのテーブルに食べやすいように置いてくれた。
「何がいいか分からないし、取り敢えずこれ食べて」
「ごめんなさ、」
「こういうとき、そんなふうに謝られても困る」
「ごめんなさい…」
いつものように言葉を絞り出すと、冬真さんにため息を吐かれてしまった。
もしかして、今度こそ怒らせてしまったのだろうか。
怖くなって目を閉じようとすると、ゆっくり手を握られた。
「今までの暮らしの蓄積でそんなふうにすぐ謝っちゃうんだろうけど、悪いことをしたわけじゃないんだからこの場合はお礼の方がいい」
「えっと…ありがとう、ございます。いただきます」
牛丼というものは写真でしか見たことがなかった、
まさかそれがこんなに美味しいとは思わなくて、黙々と食べ進めてしまう。
遠慮しようと思っていたのに、時間をかけて完食してしまった。
「…ごちそうさまでした」
「どうだった?」
「美味しかったです」
「…そう言ってもらえると作り甲斐がある」
「え?」
「なんでもない。とにかく今夜は早く休むこと。明日の朝は少し時間に余裕があるし、また傷の具合を診せてもらうから」
冬真さんは空になった丼と水が入ったままのコップを持っていってしまう。
わざわざ作ってもらって申し訳ないと思いながらも、今の私にできることはない。
ただ、今夜のことはちゃんと覚えておきたくて新しい日記帳を開く。
こうして、冬真さんたちとの出逢いの1頁目が綴られた。
──この後の私の生き方をがらりと変えてしまうことになるとは知らないまま。
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