313 / 385
冬真ルート
第1話
しおりを挟む
「ちょっと待って」
「あ、あの…」
「そんなに怯えなくてもいい。君は僕の患者だし、取り敢えず今はここにいていいんじゃない?」
冬真さんに手を握られて、びくっと肩が震えてしまう。
怒られるのか、それとも…どうしてもあの場所と同じように考えてしまって、上手く言葉が出てこない。
「…いいよね?このまま帰すのも危ないだろうから」
「まあ、そうだな。冬真なら任せても大丈夫だろ」
「まー君頑張れ」
「人助けのプロですからね」
他の3人の言葉を聞いても意味がよく分からなかった。
ただ、冬真さんの表情はなんだか曇っているような気がする。
「お嬢ちゃん、冬真は無愛想だが決して悪い奴じゃない。ここにいれば安全だし、あれだけの荷物を持ってたってことはわけありなんだろ?
俺たちはそういう奴等の助けになりたくて集まってできたチームだから、心配しなくていい」
「…ごめんなさい」
私にはただ謝ることしかできなくて、本当に申し訳ない。
ただ、お腹が空いているのと傷が痛むので体に力が入らなかった。
「…取り敢えず君はそこで横になってて。そのまま大人しく休むのが1番だろうから」
「すみません…」
「…さっきから謝ってばかりだけど、僕たちは君が悪いとは思ってないから」
それだけ話すと冬真さんは扉を閉めてどこかへ行ってしまった。
暗い場所で独りきり、床に丸くなって寝転がる…それが日常になっていたのでこんなにふかふかの布団で寝るのは初めてだ。
それから少しして、小さめの音で扉がたたかれた。
「…ごめん、ちょっと入る」
「は、はい」
そう話した冬真さんの手から小さめの丼がのったトレイが真っ直ぐ運ばれてきて、小さめのテーブルに食べやすいように置いてくれた。
「何がいいか分からないし、取り敢えずこれ食べて」
「ごめんなさ、」
「こういうとき、そんなふうに謝られても困る」
「ごめんなさい…」
いつものように言葉を絞り出すと、冬真さんにため息を吐かれてしまった。
もしかして、今度こそ怒らせてしまったのだろうか。
怖くなって目を閉じようとすると、ゆっくり手を握られた。
「今までの暮らしの蓄積でそんなふうにすぐ謝っちゃうんだろうけど、悪いことをしたわけじゃないんだからこの場合はお礼の方がいい」
「えっと…ありがとう、ございます。いただきます」
牛丼というものは写真でしか見たことがなかった、
まさかそれがこんなに美味しいとは思わなくて、黙々と食べ進めてしまう。
遠慮しようと思っていたのに、時間をかけて完食してしまった。
「…ごちそうさまでした」
「どうだった?」
「美味しかったです」
「…そう言ってもらえると作り甲斐がある」
「え?」
「なんでもない。とにかく今夜は早く休むこと。明日の朝は少し時間に余裕があるし、また傷の具合を診せてもらうから」
冬真さんは空になった丼と水が入ったままのコップを持っていってしまう。
わざわざ作ってもらって申し訳ないと思いながらも、今の私にできることはない。
ただ、今夜のことはちゃんと覚えておきたくて新しい日記帳を開く。
こうして、冬真さんたちとの出逢いの1頁目が綴られた。
──この後の私の生き方をがらりと変えてしまうことになるとは知らないまま。
「あ、あの…」
「そんなに怯えなくてもいい。君は僕の患者だし、取り敢えず今はここにいていいんじゃない?」
冬真さんに手を握られて、びくっと肩が震えてしまう。
怒られるのか、それとも…どうしてもあの場所と同じように考えてしまって、上手く言葉が出てこない。
「…いいよね?このまま帰すのも危ないだろうから」
「まあ、そうだな。冬真なら任せても大丈夫だろ」
「まー君頑張れ」
「人助けのプロですからね」
他の3人の言葉を聞いても意味がよく分からなかった。
ただ、冬真さんの表情はなんだか曇っているような気がする。
「お嬢ちゃん、冬真は無愛想だが決して悪い奴じゃない。ここにいれば安全だし、あれだけの荷物を持ってたってことはわけありなんだろ?
俺たちはそういう奴等の助けになりたくて集まってできたチームだから、心配しなくていい」
「…ごめんなさい」
私にはただ謝ることしかできなくて、本当に申し訳ない。
ただ、お腹が空いているのと傷が痛むので体に力が入らなかった。
「…取り敢えず君はそこで横になってて。そのまま大人しく休むのが1番だろうから」
「すみません…」
「…さっきから謝ってばかりだけど、僕たちは君が悪いとは思ってないから」
それだけ話すと冬真さんは扉を閉めてどこかへ行ってしまった。
暗い場所で独りきり、床に丸くなって寝転がる…それが日常になっていたのでこんなにふかふかの布団で寝るのは初めてだ。
それから少しして、小さめの音で扉がたたかれた。
「…ごめん、ちょっと入る」
「は、はい」
そう話した冬真さんの手から小さめの丼がのったトレイが真っ直ぐ運ばれてきて、小さめのテーブルに食べやすいように置いてくれた。
「何がいいか分からないし、取り敢えずこれ食べて」
「ごめんなさ、」
「こういうとき、そんなふうに謝られても困る」
「ごめんなさい…」
いつものように言葉を絞り出すと、冬真さんにため息を吐かれてしまった。
もしかして、今度こそ怒らせてしまったのだろうか。
怖くなって目を閉じようとすると、ゆっくり手を握られた。
「今までの暮らしの蓄積でそんなふうにすぐ謝っちゃうんだろうけど、悪いことをしたわけじゃないんだからこの場合はお礼の方がいい」
「えっと…ありがとう、ございます。いただきます」
牛丼というものは写真でしか見たことがなかった、
まさかそれがこんなに美味しいとは思わなくて、黙々と食べ進めてしまう。
遠慮しようと思っていたのに、時間をかけて完食してしまった。
「…ごちそうさまでした」
「どうだった?」
「美味しかったです」
「…そう言ってもらえると作り甲斐がある」
「え?」
「なんでもない。とにかく今夜は早く休むこと。明日の朝は少し時間に余裕があるし、また傷の具合を診せてもらうから」
冬真さんは空になった丼と水が入ったままのコップを持っていってしまう。
わざわざ作ってもらって申し訳ないと思いながらも、今の私にできることはない。
ただ、今夜のことはちゃんと覚えておきたくて新しい日記帳を開く。
こうして、冬真さんたちとの出逢いの1頁目が綴られた。
──この後の私の生き方をがらりと変えてしまうことになるとは知らないまま。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ハーフ&ハーフ
黒蝶
恋愛
ある雨の日、野崎七海が助けたのは中津木葉という男。
そんな木葉から告げられたのは、哀しい事実。
「僕には関わらない方がいいよ。...半分とはいえ、人間じゃないから」
...それから2ヶ月、ふたりは恋人として生きていく選択をしていた。
これは、極々普通?な少女と人間とヴァンパイアのハーフである少年の物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
大好きな第一王子様、私の正体を知りたいですか? 本当に知りたいんですか?
サイコちゃん
恋愛
第一王子クライドは聖女アレクサンドラに婚約破棄を言い渡す。すると彼女はお腹にあなたの子がいると訴えた。しかしクライドは彼女と寝た覚えはない。狂言だと断じて、妹のカサンドラとの婚約を告げた。ショックを受けたアレクサンドラは消えてしまい、そのまま行方知れずとなる。その頃、クライドは我が儘なカサンドラを重たく感じていた。やがて新しい聖女レイラと恋に落ちた彼はカサンドラと別れることにする。その時、カサンドラが言った。「私……あなたに隠していたことがあるの……! 実は私の正体は……――」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる