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夏彦ルート
エピローグ『また夏の終わりに』
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こんなに穏やかな気持ちで過ごしているのは、いつ以来だろう。
ずっと真っ暗だった景色が、今はすごく明るく見える。
「あ、あの…」
「今日もありがとう」
あれから月見ちゃんには、今までどおり【ハイドランジア】の手伝いをしてもらっている。
小物づくりをお願いして、時々新商品のアイデアももらって…とにかく楽しい。
だが、彼女の仕事は少しだけ変化していた。
月が雲で覆われた夜、月見ちゃんが申し訳なさそうに話す。
「夏彦、さっき変な気配を感じたんです。どなたかいらっしゃったのかもしれません」
「分かった、ちょっと行ってくるね」
「疲れているところをすみません…」
「月見ちゃんが謝ることじゃないよ。見てきて何もなかったら、それだけで充分だしね!」
できれば裏には関わってほしくないと思ったものの、本人の希望により時々手伝ってもらうことになった。
…といっても、ふたりでいるときに周囲を警戒してもらう程度にしているが。
「あれ、珍しいね。アッキーがまー君じゃなくて春人と一緒にいるの」
「あいつは今日レポートを仕上げてる」
「真面目だね…」
「そちらは如何ですか?」
「それは私生活について?それとも、こっちの案件?」
月見ちゃんは知らなくていい。
できればこのまま一生知られずにいたいとさえ思う。
いつか話すことにはなるだろうが、それまではなんとか隠し通していたい。
「資料はこれで全部か。春人、後は頼めるか?」
「はい。任せてください」
「ところで、私生活の方は充実してるのか?」
「今それ訊く…?」
秋久につっこみをいれる俺を、春人は微笑ましそうに見つめていた。
昔より、少しは目の表情が柔らかくなっただろうか。
「…実際のところどうなの?」
「なんだ、ハルも興味あるんだ…」
「一応友だちだから」
仕事だという秋久を見送った後、少しだけ話をした。
これからのこと、ふたりでの生活のこと…そして、ハルとの友情が変わらないこと。
「その幸せを心から祝福するよ。…表情、今の方がいい」
春人の言葉を胸に刻み、そのまま家に直帰する。
玄関を開けるとソルトが立っていて、その後ろからとても愛しい人の声がした。
「お、おかえりなさい」
「ただいま。ハルとアッキーだったよ。それから、仕事も終わらせてきた」
「お疲れ様です」
この無垢な笑顔を、ずっと側で見ていたい。
そして、これから先絶対に失いたくないんだ。
「月見ちゃんさえよければ、一緒に紅茶でも飲まない?」
「私、淹れますね」
まだ杖を使わないと難しい状況ではあるものの、彼女の足は日に日によくなっていると思う。
眩しい夏の太陽のような笑顔が向けられると、今ここにいるんだと実感する。
──そして、この花開いた感情を忘れないようにしようとその度に決意するのだ。
クリアパスワード2:『シャ』
ずっと真っ暗だった景色が、今はすごく明るく見える。
「あ、あの…」
「今日もありがとう」
あれから月見ちゃんには、今までどおり【ハイドランジア】の手伝いをしてもらっている。
小物づくりをお願いして、時々新商品のアイデアももらって…とにかく楽しい。
だが、彼女の仕事は少しだけ変化していた。
月が雲で覆われた夜、月見ちゃんが申し訳なさそうに話す。
「夏彦、さっき変な気配を感じたんです。どなたかいらっしゃったのかもしれません」
「分かった、ちょっと行ってくるね」
「疲れているところをすみません…」
「月見ちゃんが謝ることじゃないよ。見てきて何もなかったら、それだけで充分だしね!」
できれば裏には関わってほしくないと思ったものの、本人の希望により時々手伝ってもらうことになった。
…といっても、ふたりでいるときに周囲を警戒してもらう程度にしているが。
「あれ、珍しいね。アッキーがまー君じゃなくて春人と一緒にいるの」
「あいつは今日レポートを仕上げてる」
「真面目だね…」
「そちらは如何ですか?」
「それは私生活について?それとも、こっちの案件?」
月見ちゃんは知らなくていい。
できればこのまま一生知られずにいたいとさえ思う。
いつか話すことにはなるだろうが、それまではなんとか隠し通していたい。
「資料はこれで全部か。春人、後は頼めるか?」
「はい。任せてください」
「ところで、私生活の方は充実してるのか?」
「今それ訊く…?」
秋久につっこみをいれる俺を、春人は微笑ましそうに見つめていた。
昔より、少しは目の表情が柔らかくなっただろうか。
「…実際のところどうなの?」
「なんだ、ハルも興味あるんだ…」
「一応友だちだから」
仕事だという秋久を見送った後、少しだけ話をした。
これからのこと、ふたりでの生活のこと…そして、ハルとの友情が変わらないこと。
「その幸せを心から祝福するよ。…表情、今の方がいい」
春人の言葉を胸に刻み、そのまま家に直帰する。
玄関を開けるとソルトが立っていて、その後ろからとても愛しい人の声がした。
「お、おかえりなさい」
「ただいま。ハルとアッキーだったよ。それから、仕事も終わらせてきた」
「お疲れ様です」
この無垢な笑顔を、ずっと側で見ていたい。
そして、これから先絶対に失いたくないんだ。
「月見ちゃんさえよければ、一緒に紅茶でも飲まない?」
「私、淹れますね」
まだ杖を使わないと難しい状況ではあるものの、彼女の足は日に日によくなっていると思う。
眩しい夏の太陽のような笑顔が向けられると、今ここにいるんだと実感する。
──そして、この花開いた感情を忘れないようにしようとその度に決意するのだ。
クリアパスワード2:『シャ』
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