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夏彦ルート
第99話
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「ふたりとも、退院おめでとう。お嬢ちゃん、夏彦に困らされたらすぐ呼べ」
「えっと…」
「そのときは僕もすぐ行きますね」
「ふたりとも、俺の扱い酷くない…?」
秋久さんと春人さんに声をかけられて戸惑う私と、嬉しそうに話す夏彦。
辺りを見回すと、秋久さんの後ろに冬真さんが立っていた。
「あ、あの」
「どうかした?」
「色々と、お世話になりました。ありがとうございました」
頭を下げたけれど、冬真さんの表情を確認することができなくなってだんだん不安になる。
もしかすると、怒らせてしまっただろうか。
「月見ちゃん、頭あげて。まー君は照れてるだけだから」
「え…?」
恐る恐る冬真さんの方を見ると、顔を赤くして目を逸らしていた。
「別に、感謝されるようなことはしてないし」
「まー君やっぱり照れてるんじゃん!」
「…次からあんたに処方する薬だけ最高に苦くしておく」
「そんなに睨まなくてもいいのに…」
「とにかく、もう怪我しないで」
「は、はい」
それから荷物を持って外に出ると、花菜が様子を見に来てくれていた。
「退院するって先輩から聞いたから、お祝いを渡したかったんだ!」
「これ、全部お菓子?」
「なっちゃんの好みしか知らないから、月見が好きそうなものも入れたよ」
「ありがとうございます」
こんなふうに元気になったことをお祝いしてもらえるのは初めてで、とにかく嬉しかった。
ただ、初めてのことばかりで少し戸惑ってしまう。
「家に帰ったらちょっと部屋で休もうか。ソルトも休ませてあげたいしね」
「はい、そうですね」
ハンカチはちゃんと用意してある。
ただ、やっぱり渡す勇気が出ない。
この感情を咲かせられなかったらどうなるんだろうと今更しりごみしてしまう。
「月見ちゃん」
「は、はい」
「後で一緒に来てほしい場所があるんだ。ソルトのことはハルが預かってくれるって言ってたから、よかったら一緒に来てくれる?」
「わ、私でよければ」
しばらく休んでいると、夏彦の向日葵色の髪が光を浴びてきらきらと輝いていた。
「綺麗…」
「え?」
「あ、えっと、ごめんなさい。夏彦の髪が綺麗だなって思ったんです」
「そんなこと言われたの、初めてかも。ありがとう」
夏彦の表情はとても柔らかいもので、見ているだけでなんだか安心した。
「疲れてない?」
「はい、大丈夫です」
「それじゃあ、これから行こうか」
「は、はい」
すぐ持ち歩けるようにと準備しておいた鞄を持って、杖を握りしめる。
夏彦はソルトを抱えて微笑みかけてくれた。
ただ、その笑顔はどこかぎこちない。
「疲れたらすぐ言ってね」
「ありがとうございます」
そうして春人さんにソルトをお願いした後辿り着いたのは、花が咲き誇る崖の上だった。
「えっと…」
「そのときは僕もすぐ行きますね」
「ふたりとも、俺の扱い酷くない…?」
秋久さんと春人さんに声をかけられて戸惑う私と、嬉しそうに話す夏彦。
辺りを見回すと、秋久さんの後ろに冬真さんが立っていた。
「あ、あの」
「どうかした?」
「色々と、お世話になりました。ありがとうございました」
頭を下げたけれど、冬真さんの表情を確認することができなくなってだんだん不安になる。
もしかすると、怒らせてしまっただろうか。
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「え…?」
恐る恐る冬真さんの方を見ると、顔を赤くして目を逸らしていた。
「別に、感謝されるようなことはしてないし」
「まー君やっぱり照れてるんじゃん!」
「…次からあんたに処方する薬だけ最高に苦くしておく」
「そんなに睨まなくてもいいのに…」
「とにかく、もう怪我しないで」
「は、はい」
それから荷物を持って外に出ると、花菜が様子を見に来てくれていた。
「退院するって先輩から聞いたから、お祝いを渡したかったんだ!」
「これ、全部お菓子?」
「なっちゃんの好みしか知らないから、月見が好きそうなものも入れたよ」
「ありがとうございます」
こんなふうに元気になったことをお祝いしてもらえるのは初めてで、とにかく嬉しかった。
ただ、初めてのことばかりで少し戸惑ってしまう。
「家に帰ったらちょっと部屋で休もうか。ソルトも休ませてあげたいしね」
「はい、そうですね」
ハンカチはちゃんと用意してある。
ただ、やっぱり渡す勇気が出ない。
この感情を咲かせられなかったらどうなるんだろうと今更しりごみしてしまう。
「月見ちゃん」
「は、はい」
「後で一緒に来てほしい場所があるんだ。ソルトのことはハルが預かってくれるって言ってたから、よかったら一緒に来てくれる?」
「わ、私でよければ」
しばらく休んでいると、夏彦の向日葵色の髪が光を浴びてきらきらと輝いていた。
「綺麗…」
「え?」
「あ、えっと、ごめんなさい。夏彦の髪が綺麗だなって思ったんです」
「そんなこと言われたの、初めてかも。ありがとう」
夏彦の表情はとても柔らかいもので、見ているだけでなんだか安心した。
「疲れてない?」
「はい、大丈夫です」
「それじゃあ、これから行こうか」
「は、はい」
すぐ持ち歩けるようにと準備しておいた鞄を持って、杖を握りしめる。
夏彦はソルトを抱えて微笑みかけてくれた。
ただ、その笑顔はどこかぎこちない。
「疲れたらすぐ言ってね」
「ありがとうございます」
そうして春人さんにソルトをお願いした後辿り着いたのは、花が咲き誇る崖の上だった。
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