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春人ルート
第98話
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相変わらず動かない指先に力を入れてみるけれど、やっぱり動かすことはできない。
「大丈夫、きっと大丈夫です…」
ラビとチェリーを抱きしめていると、左手が少し震えている。
早く帰ってきてほしい…そう考えているけれど、久しぶりの独りは寂しい。
「…ご飯を作るので、ここで待っていてください」
ふたりを汚さないように少し離れた場所で座っていてもらうことにする。
他の人たちが帰ってくる前になんとか料理を完成させたい。
もしかすると余計なことかもしれないし、いらないと言われてしまうかもしれないけれど…それでも、何かせずにはいられなかった。
「…いただきます」
先に味見の為に一口だけ食べてみる。
それは思ったより苦くて、なんだか今の気持ちそのものみたいだった。
何をしているのか分からないだけに、本当に怪我をしてないか心配になる。
もう1度作り直していると、扉が開く音がした。
「…ただいま」
「お、おかえりなさい…?」
「ごめんね、月見ちゃん。ハルとふたりで出かけるのが久しぶりで、色々なところに立ち寄ってたら割りと遅くなっちゃった」
夏彦さんが苦笑いしながらこっちを見ていたけれど、本当に危ないことをしていた訳じゃなかったことに安心した。
「あ、あの…余計なことだったかもしれないですけど、おやつはいかがですか?」
さっき焼きあがったばかりのパンケーキを見せると、春人の表情がぱっと明るくなった。
「…ありがとう」
「へえ、月見ちゃんにはそんな顔もするんだ…」
「夏彦」
「ごめんごめん。だけど、そういう相手は大事にしないとだよ。…日常が当たり前じゃないってこと、ハルなら分かるでしょ?」
「…そうだね」
春人の表情が少し苦しそうだったのが気になるけれど、そのまま3人でお茶会を楽しんだ。
夏彦さんの話も面白くて、春人も少しずつ元気になっていって…そんな風景が堪らなくいいなと思った。
「それじゃあ、今度は俺が留守番してるよ。…まー君に時間もらったんでしょ?
あれだけ練習したんだし、ハルならきっと大丈夫だよ。あの人にも報告しないとだしね」
「いつも余計なことばかり言うけど、こういうときは友人も悪くないと思える。…ありがとう」
春人はそう話すと私に向き直り、そっと手を差し伸べてくれた。
「これから少しだけ出掛ける。どこに行くかは話せないけど、一緒に来てくれる?」
「わ、私でよければ」
「君じゃないと困る」
少しどきどきしながら差し出された手を握る。
こんなふうに空をゆっくり眺めたのはいつ以来だろう。
そして、ふたりでどんな場所に出掛けられるのか楽しみだった。
「大丈夫、きっと大丈夫です…」
ラビとチェリーを抱きしめていると、左手が少し震えている。
早く帰ってきてほしい…そう考えているけれど、久しぶりの独りは寂しい。
「…ご飯を作るので、ここで待っていてください」
ふたりを汚さないように少し離れた場所で座っていてもらうことにする。
他の人たちが帰ってくる前になんとか料理を完成させたい。
もしかすると余計なことかもしれないし、いらないと言われてしまうかもしれないけれど…それでも、何かせずにはいられなかった。
「…いただきます」
先に味見の為に一口だけ食べてみる。
それは思ったより苦くて、なんだか今の気持ちそのものみたいだった。
何をしているのか分からないだけに、本当に怪我をしてないか心配になる。
もう1度作り直していると、扉が開く音がした。
「…ただいま」
「お、おかえりなさい…?」
「ごめんね、月見ちゃん。ハルとふたりで出かけるのが久しぶりで、色々なところに立ち寄ってたら割りと遅くなっちゃった」
夏彦さんが苦笑いしながらこっちを見ていたけれど、本当に危ないことをしていた訳じゃなかったことに安心した。
「あ、あの…余計なことだったかもしれないですけど、おやつはいかがですか?」
さっき焼きあがったばかりのパンケーキを見せると、春人の表情がぱっと明るくなった。
「…ありがとう」
「へえ、月見ちゃんにはそんな顔もするんだ…」
「夏彦」
「ごめんごめん。だけど、そういう相手は大事にしないとだよ。…日常が当たり前じゃないってこと、ハルなら分かるでしょ?」
「…そうだね」
春人の表情が少し苦しそうだったのが気になるけれど、そのまま3人でお茶会を楽しんだ。
夏彦さんの話も面白くて、春人も少しずつ元気になっていって…そんな風景が堪らなくいいなと思った。
「それじゃあ、今度は俺が留守番してるよ。…まー君に時間もらったんでしょ?
あれだけ練習したんだし、ハルならきっと大丈夫だよ。あの人にも報告しないとだしね」
「いつも余計なことばかり言うけど、こういうときは友人も悪くないと思える。…ありがとう」
春人はそう話すと私に向き直り、そっと手を差し伸べてくれた。
「これから少しだけ出掛ける。どこに行くかは話せないけど、一緒に来てくれる?」
「わ、私でよければ」
「君じゃないと困る」
少しどきどきしながら差し出された手を握る。
こんなふうに空をゆっくり眺めたのはいつ以来だろう。
そして、ふたりでどんな場所に出掛けられるのか楽しみだった。
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