裏世界の蕀姫

黒蝶

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夏彦ルート

第97.5話

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「アッキー、まずは俺の質問に答えてくれない?」
「内容によるな」
即答するあたりが秋久らしい。
内心苦笑しながら、単刀直入に質問をぶつける。
「【ハイドランジア】、どんな感じになってる?」
「それなら今日寄って確認してきた。店員たちもお客も、店長は大丈夫なのかって口を揃えて訊いてきた。
…おまえのそういうところ、本当に羨ましくなる」
「そういうところって?」
「周りから心配してもらえるほど愛されてるところ。だから、もう変に気負ったりするな」
気負うなというのがどういう意味か、なんとなく察知する。
秋久にはずっと止められていた。
知られた瞬間から、あいつらに何かしたからと言って兄が戻ってくる訳ではないからと忠告され続けていたのは事実だ。
「だけど、まだ全部は終わってない」
「けど、ちょっとは気が変わっただろ?」
「そういうところ、アッキーの狡いところだと思う」
「へえ、どんなところだ?」
「否定できないのが分かってて言ってくるところだよ」
確かに復讐だけに囚われていた頃とは、我ながらだいぶ変わったと思う。
今心の中心にあるのは月見ちゃんのことで、その周りには近くにいる仲間や仕事関係の人たちの顔が浮かんで…復讐なんてしようとは思えなくなっていた。
「あ、あの…」
「悪いな、お嬢ちゃん。なんとなく居づらい空気にして。…で、ここから本題に入るんだが、おまえたちの家を見てきた。
荒らされた形跡もないし、何者かに侵入された形跡もない。そろそろ夏彦の怪我も治ってくるだろうし、冬真は大学からの課題で忙しくなる。だから、」
「帰っていいの?」
「それはふたりで話して決めろ。勿論、帰るなら帰るで歓迎する」
秋久には沢山手を借りた。
あいつらからの追っ手がないということは、家だけは隠し通せたか俺を諦めたかのどちらかだ。
「ありがとう、アッキー」
「俺にできるのはこれくらいしかないからな。あとは自力で頑張れよ」
「あと…?他にも何かやることがあるんですか?」
きょとんとしている月見ちゃんになんでもないと告げた後、すぐに秋久の手をひいて部屋の外に出る。
「ちょっと、アッキー…!」
「おまえも照れることがあるんだな。…そういうところ、夏樹に似てるな」
「あの完全無欠そうな兄貴にそんな一面があるとは思わなかった。…今度ゆっくり聞かせて」
「俺が知ってるあいつの話ならいつでもしてやる。それから、頼まれてたもんはこれでよかったか?」
「充分だよ。ありがとう」
大量の資料に、あいつらの罪状。
本当に何から何まで世話になりっぱなしだ。
「じゃあ、あとは頑張れよ」
わしわしと頭を撫でられ、思わず苦笑してしまう。
「…そういうところ、夏兄に似てるんだよ」
秋久の背中にそう呟きながら、月見ちゃんにどんな言葉をかけるか考える。
この想いに花を咲かせることが赦されるなら、どう伝えればいいだろう。
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