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夏彦ルート
第96話
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「ごめんね、思いっきり寄りかかっちゃって…」
「いえ。私は役に立てて嬉しかったです」
夏彦が弱々しい姿を見せることなんて滅多にない。
彼はいつだって明るい笑顔で周りを照らしている。
そうできないくらい元気がないということは、何か落ちこむことがあったということだ。
或いは、何か不安なことがあるのかもしれない。
「何かあったんですか?」
「ああ…あったといえばあったし、なかったといえばなかった、と思う。
ごめん、ちょっとだけ時間をちょうだい」
「分かりました」
話しづらいことを無理矢理聞き出すようなことはしなくない。
だから、このまま月を見て夏彦が話したくなるのを待っていよう。
そんなことを考えながらぼんやりと空を眺めていると、突然脚の傷があるあたりを撫でられた。
「な、夏彦…?」
「傷が残るかもしれないんだって思うと、やっぱり申し訳ない。本当にごめん」
冬真さんから聞いてはいたけれど、元々夏彦たちに見つけてもらえなかったら死んでいたはずだった。
それに…これから先弱気になることがあっても、私でもできることはあったと傷を見る度思えるような気がするのだ。
「私は全然平気です。夏彦には蕀さんのことを黙ってもらっていますし、ちゃんと護ることもできました。
だから、私は全然気にしないです。寧ろ、強くなった証だと思っています」
弱くて何もできない私の心に沢山の感情の花が咲いたのは、間違いなく夏彦のおかげだ。
他の人たちにも感謝しているけれど、やっぱり1番近くにいてくれた時間が多いのは彼でその影響を受けている。
「夏彦も、落ちこむことがあるんですね」
「なさそうに見える?」
「ごめんなさい。変な意味じゃなくて、いつも明るく接客しているイメージが強いので…」
「だよね、【ハイドランジア】でもよく言われる。そろそろ仕事にも復帰して、みんなに心配かけないようにしたいな。
…その前に行かないといけない場所はあるけどね」
出掛ける場所の話をするときの彼はいつも寂しそうで、どんな言葉をかけていいか未だに分からなくなる。
「あ、あの…それまでにちゃんと仕上げるので、ハンカチができあがったら受け取ってもらえますか?」
「勿論!楽しみにしてるね」
実はもうだいぶ仕上がってはいるけれど、なかなか渡す勇気が出ない。
もしも困らせたらどうしよう、もしも捨てられてしまったら…そんな嫌な考えが頭にこびりついて消えてくれない。
「そろそろ冷えるし、室内には戻ろうか」
「あ、はい。明日からもお願いします」
「俺でよければ任せて」
そう言って笑う夏彦はやっぱり頼もしくて、かっこいいと思うのを止められなかった。
だんだん頬に熱が集まっているのは、きっとこの場所が温かいからだ。
「いえ。私は役に立てて嬉しかったです」
夏彦が弱々しい姿を見せることなんて滅多にない。
彼はいつだって明るい笑顔で周りを照らしている。
そうできないくらい元気がないということは、何か落ちこむことがあったということだ。
或いは、何か不安なことがあるのかもしれない。
「何かあったんですか?」
「ああ…あったといえばあったし、なかったといえばなかった、と思う。
ごめん、ちょっとだけ時間をちょうだい」
「分かりました」
話しづらいことを無理矢理聞き出すようなことはしなくない。
だから、このまま月を見て夏彦が話したくなるのを待っていよう。
そんなことを考えながらぼんやりと空を眺めていると、突然脚の傷があるあたりを撫でられた。
「な、夏彦…?」
「傷が残るかもしれないんだって思うと、やっぱり申し訳ない。本当にごめん」
冬真さんから聞いてはいたけれど、元々夏彦たちに見つけてもらえなかったら死んでいたはずだった。
それに…これから先弱気になることがあっても、私でもできることはあったと傷を見る度思えるような気がするのだ。
「私は全然平気です。夏彦には蕀さんのことを黙ってもらっていますし、ちゃんと護ることもできました。
だから、私は全然気にしないです。寧ろ、強くなった証だと思っています」
弱くて何もできない私の心に沢山の感情の花が咲いたのは、間違いなく夏彦のおかげだ。
他の人たちにも感謝しているけれど、やっぱり1番近くにいてくれた時間が多いのは彼でその影響を受けている。
「夏彦も、落ちこむことがあるんですね」
「なさそうに見える?」
「ごめんなさい。変な意味じゃなくて、いつも明るく接客しているイメージが強いので…」
「だよね、【ハイドランジア】でもよく言われる。そろそろ仕事にも復帰して、みんなに心配かけないようにしたいな。
…その前に行かないといけない場所はあるけどね」
出掛ける場所の話をするときの彼はいつも寂しそうで、どんな言葉をかけていいか未だに分からなくなる。
「あ、あの…それまでにちゃんと仕上げるので、ハンカチができあがったら受け取ってもらえますか?」
「勿論!楽しみにしてるね」
実はもうだいぶ仕上がってはいるけれど、なかなか渡す勇気が出ない。
もしも困らせたらどうしよう、もしも捨てられてしまったら…そんな嫌な考えが頭にこびりついて消えてくれない。
「そろそろ冷えるし、室内には戻ろうか」
「あ、はい。明日からもお願いします」
「俺でよければ任せて」
そう言って笑う夏彦はやっぱり頼もしくて、かっこいいと思うのを止められなかった。
だんだん頬に熱が集まっているのは、きっとこの場所が温かいからだ。
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